召喚魔法
シロロの手の平の異形の屍は、俺の素晴らしきエレノーラによって取り除かれた。
兄の危篤に駆け付け、兄の身の上の不幸を知ったばかりの動転している彼女に押し付けてしまった事は真に申し訳ないが、俺もエランも、気絶中のアルバートルはもとより、エランが呼び寄せたアルバートル隊の皆様も、それを手の平から除去してシロロを助けてあげることが出来なかったのだから仕方が無い。
男は時として、全くの使い物にならなくなる事があるものなのだ。
そして、役立たずな所を見せたがために、今後のエレノーラに役立たずと見放されることが無いように、俺は積極的にコントラクトゥスの子供達を助け出さねばならなくなったと、がっくりと気落ちするしかなかった。
俺は引きこもっていたい中ボスでしかないのに。
だが、嘆いているだけでは、俺はエレノーラに夕食抜きにされてしまうだけだ。
そこでまず、イベントの主体となるべきコントラクトゥスの力調べである。
絶食中だろうが、体力気力を失っている状態であろうが、自分の大事な子供の為には実力を見せて貰わねばならないと、俺は彼を水車小屋から引っ張り出して水車小屋前の野原で何かを召喚しろと命じた。
アルバートル達竜騎士の連中が、ゲームキャラとしてチートに近い成長をしている上にかなりのピーキー野郎であったがために、ゲーム内のキャラと違うコントラクトゥスでは、ゲーム内のコントラクトゥスとは違うのではないかと不安になったのである。
ゲーム内のコントラクトゥスは死んだ黒竜を呼び寄せたり、本物のメテオを街に落としたり、パーティ全員の状態異常を引き起こした上に確率の高い即死の魔法迄唱えられる死神さえも呼び出せるのである。
「私は、思い出を呼び出すだけですよ。」
「え?思い出?」
コントラクトゥスの召喚魔法は、異界の異形のものを呼び出すのではなく、死んだ者の魂を呼び出すというものなのだそうだ。
まあ、確かにゲームでも、死んだ竜に、死んだ星に、死んだ神様だ。
「わかった。一番やりやすい奴で頼むよ。」
「では、幼いころに可愛がっていたトカゲを呼び出します。かわいい子だったのですよ。草食でね、とっても良く慣れて。」
目を細めて昔のペットの事を語るコントラクトゥスの顔は誰もがよく知っている親ばかの顔で、俺は俺にモルモットをくれた大家とモルモットについて語り合っていたあの頃の記憶がふっと頭の中をよぎった。
「特別な子だったんだね。」
「えぇ。よくいる緑色の大型のトカゲでしたけどね。」
草食で緑色のオオトカゲという事で、俺は普通にイグアナを想像した。
こそっと俺の耳にアルバートルがイグアナらしき形態のトカゲの話を囁いたので、俺はもう確実だと考えていたし、そしてそのことで少しどころか、かなりがっかりもしていたのも事実である。
本物のメテオを目の前に落とされても困るが、ラスボス一歩手前の大ボスの実力を、俺は子供のように期待もしていたのだ。
「では、参ります。フォーアラードゥング!」