大魔導士様の不幸②
シロロの声の方へ見返せば、シロロとエランはオセロゲームをして遊んでいる最中だったようだ。
俺から離れることが殆どない彼は、そういえばエレノーラにビスケットとジュースを手渡されてこの部屋の適当な所で転がっていたな。
「あれ、エランは何をしているの。」
エランは青緑色の見事な色合いの瞳をあからさまに傷ついたという風に煌かせ、シロロはその隙に隅の枠にこっそりと自分の白駒を置いていた。
なんてろくでもない奴だ。
「ごめん。シロロのお守をしてくれていたんだね。ありがとう。それから、シロロ、さっきの台詞は何のことかな?」
「言葉通りの意味です。僕も薬にされかけました。ほら、エルフって長寿ですもの。その時の僕はエルフのハーフって事にしていましたから。それで、長寿のデミヒューマンの身体をぎゅうっと濃縮させて薬にすると、飲んだ人間は若返りとご長寿になれるからって、教会は何人もデミヒューマンを攫ってはいましたね。」
俺と友人はそんな設定を作ってはいないはずだ。
いや、何かが起こっての前置きがあるイベントだと思い出し、友人の裏設定だったのかもしれないと、ぞっと背筋が凍った。
俺は盤を挟んでシロロの向かいで胡坐をかいているエランに視線を移したが、彼は俺に対して訴えるような目でずっと見つめていたのだと知った。
「君がここにいるのは、俺に伝えたい事があったからだね。」
「はい、ええ。すいません。自分もそれを知らずに教会の指示のまま、長寿のピグミードワーフ族の村を襲撃した事があります。」
「アルバートル達も。」
「さぁ、それはわかりませんし、俺が入団してから彼らがそんなことをしていたことは一度もありません。」
「君が入団してからって、最初からのアルバートル隊では無かったの?」
「はい。俺はアルバートル隊では新参者です。俺は教会のその行為が嫌で脱走して、そして、団長達に逃亡兵で捕まえられたそのまま、アルバートル隊の一員にしてもらっただけです。彼らに命乞いで喚いたように、生贄になった家族など、本当は俺にはいません。俺は、親族に司祭がいるという、ガルバントリウムでは有力な一族の一人でしかありません。俺は。」
「まぁ、そこはいいよ。アルバートルはそこも含めて君を団員にしたんでしょうよ。それよりも、教会が永遠の命なんて馬鹿な理由の為に、罪のないデミヒューマンを殺戮しているのは本当なんだね。」
「はい。」
「ぎゅ、ぎゅーですよ!」
俺はシロロをすっかり忘れていた。
俺の注目を浴びて有頂天になった彼は、ぴょんっと、飛び上がり、うんこうんこと久しぶりのうんこ踊りを始めた。
数秒前まで自分の過去を懺悔したいと、思い詰めていたエランが可哀想になるほどの、シロロのうんこ踊り祭り開催中だ。
「何をしているの?」
「え?だって、僕はぎゅ、ぎゅーて締め付けられた時にうんこを漏らしちゃったの。うんこ、ぶしゅーって。そうしたら、うんこで汚れたーって司祭が胸を押さえて死んじゃったの。だから、コントラクトゥスの子供もうんこ漏らせば逃げられますよ。」
「そうか、すごいな、うんこ。」
俺はコントラクトゥスの警護にエランをつけることにして、デーモン族の救出に動くとコントラクトゥスに告げようと彼を見返した。
コントラクトゥスは、彼の青い肌がもっと青ざめることもあるのだと思う程に、血の気をさらにひかせていた。
「この方は、もしや。」
「た、だ、の、うんこちび、だから。大丈夫、君の子供を助ける様に動くから。全然心配とか、変な気を回すとか、一切必要ないから。うん、ぜんぜん平気。」
俺はこれ以上のフラグや裏設定は不要だと、本気で慌てていた。