大魔導士様の不幸①
デーモン族は基本的に雌雄によって繁殖することはない。
様々な種族、それもハイクラスの種族の混雑によって時々生まれ出るという、特殊であり、特殊だからこそ能力も高い種族なのである。
しかし、彼らの外見が異形であるからこそ彼らは幼いうちに殺されるか捨てられ、そして、生き残った者達だけでコミュニティを作ってそこで共同生活していたのだそうだ。
「ですから、コミュニティの子供達は、全員私達大人の子供でもあるのです。なのに守れなかったばかりか、生き残った大人は私だけだという情けなさです。」
外見の異常さを除けば、俺がこの世界で出会った誰よりも常識人で人格者であったコントラクトゥスは、絶望に沈みながら大きく溜息を吐き出した。
彼はエレノーラの指示によって水車小屋の空いていた管理人室にと運ばれて、そこに住むようにと手配された。
ベッドの中で目覚めた彼は、自分が与えられた部屋を見回し、そこが家族向けの大きな部屋だと知って、ほとほとと感謝の涙を流した程だ。
優しきエレノーラはコントラクトゥスの嘆く様に同情を寄せた。
よって、誰よりも暇で領主様でもある俺が、彼の不幸を聞いて解決法を探れとエレノーラ様に命じられた。
命じられた俺はその部屋から出してもらうには解決しなければいけない、という身の上に落とされている。
それで、素直にコントラクトゥスのベッド横に置かれた椅子に座り、彼の話を聞いているのだと、そういう状況だ。
「私達は己の意思で増えることが適わない種族だからこそ、大きな者は小さき者を守り、そして、次世代の為に自然や他種族との調和を望まなければいけないのです。」
俺は御免なさいと、コントラクトゥスに跪いて許しを乞いそうなほどに内心が罪悪感で一杯になっていた。
ごめんて、俺達がそんな設定を作っばっかりに、と。
彼がレクトルに殺戮よりも支配を囁いたのは、自分の種族の保全の意味もあったのだと、制作者の俺こそが気が付かなかくてごめんと、謝りたい気持ちなのである。
いや、絶対にその真実は墓場まで持っていくが。
そして、冷静になって別方向からコントラクトゥスの不幸を見てみると、これは後半シナリオ開始直後の勇者へのクエストだったのである。
唯一神マーラーに祈りを捧げる狂信者集団、つまり聖イグナンテス教皇が率いるガルバントリウム聖教団が捕まえたデーモンを教会地下に閉じ込めたが、そこで何かが起こって三名の司祭と共に数百人の教徒の音信が途絶えた、というものだ。
勇者は教会地下、カタコンベとなっている地下回廊を探索し、四人のデーモンの殺害とデーモンの召喚魔法で魔獣化した元人間達を屠って人間の死体に戻していく、という全員皆殺しクエストになる。
ダグド戦で失った経験値やゴールドを得ることが出来、また、クエストの依頼を受けることで簡単な装備をも手に入れられるというイベントでもある。
「やっぱり、黒竜は暗黒側か。人の助けであるはずのガルバントリウム聖教団を敵に回さなければならないのね。」
「わかっています。人間と敵対すれば数の差で完全に駆逐されるのは自分達だとは。ですが、あの子たちはまだ十四にもなっていないのです。」
「うん。俺の子も十二歳らしいからね。わかるよ、その気持ち。」
わかるが、俺がそこに行けない、という難問と、アルバートル達を派遣するとしたら彼等には元々の雇われていた居場所だ。
裏切り者の汚名どころか、彼らは完全に異端者となり賞金首となるだろう。
「ねぇ、デーモンも長生きなの?だからお薬にされるの?」
俺は突然のシロロの声、どころか、シロロの台詞に驚いた。