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ここから大人の時間ですから

「ダグド様!シロちゃんはどうして参加していないんですか!エランもいるのに乗って無いですよ。エランと喧嘩しちゃった?」


 会議室のモニターにカイユーが映し出された。

 背はひょろ高いがごついどころか細い体つきで、アルバートル隊では一番華奢に見える一番の年下の男である。


 薄茶色の髪に薄茶色の瞳というどこにでもある組み合わせだが、大人しいどころかアルバートル隊では一番の特攻ぶっこみ野郎である。

 それは、カイユーの相棒であるフェールが、日本の高校生を彷彿とさせる黒髪に黒い瞳の童顔という外見だけでなく、振る舞いこそやんちゃな高校生であるという相乗効果だろうか。


 二人は常に一緒に行動をしており、仲の良い親友として高校生ノリのようなろくでもない暴れまくりをする、という小煩くもある奴らなのだ。


 ただし、フェールはカイユーより一つ年上という事もあり、いざという時にはカイユーを抑える立場となることもある。

 煩すぎて小石をぶつけたくなるのは、小石カイユーという名前のこいつだけだ。

 そんな奴がどうしてモニター映像を占拠しているのだろう。


 俺は潜水艦内の様子を俺がモニターしていたわけであり、本来であれば「俺が」見たいものや、「俺が」交信したい奴がモニターに映し出されるはずなのにな、とモニターに映る青年の顔を見返した。

 そして気が付いた。

 カイユーの相手をするフェールがいないことで、アルバートルが俺にカイユーの相手を押し付けてきたのだろうという事に。


「まじあいつなんなの?」


「ダグド様!」


「シロロはお昼寝の時間だ。知ってんだろ?」


「知っていますけど、行方不明はフェールじゃないですか!シロちゃんはフェールが大変なのにお昼寝をしちゃうんですか?」


 俺がそういう風にシロロを躾けたからだよ。


 言い訳をさせてもらえば、我らが魔王様は天衣無縫過ぎるのだ。

 中ボス程度でしかない俺には魔王様を抑える事が出来ないのあり、そこで父権を使って、子供はこういうものだからと昼寝を義務付けているのである。


 子供を昼寝させるだけで、大人が確実に気楽になれる時間が手に入るんだよ?

 危機的状況だからこそ、せっかくの習慣を崩したくないでしょう?

 危機的状況があれば昼寝しなくて良いという学習をしてしまったら、あの魔王様だったら危機的状況を勝手にお作りになってしまうぞ!


 そんな事は純粋な青年に言えないので、領主らしく重々しく答えた。


「子供はお昼寝をするもんだ。イチヨンマルマルにはそっちに合流するだろう。」


「でも!今は緊急事態で!早くシロちゃんに化け物エイの中に連れて行ってもらわないと!フェールは一人なんですよ?ぴゅるぽのことだって心配じゃ無いんですか?」


 俺はハッとして自分の額を叩いていた。

 鯨の腹の中に囚われたピノキオや聖書のヨナのイメージであったけれど、魚の腹という事は消化される可能性だってあるのでは無いのか?


「うわああ!俺は何て間抜けだ。それに、そうだな。いや、そうだ。お前が指摘したとおりだな。最初からあいつをアルゲオカントゥスに戻してテレポートさせればいい話だったな。」


 するとモニターが真っ暗になって、そこに白抜きの文字が現れた。


 いきものの体はそれだけで一つの世界


「出れたんだったら戻れるだろ?」


 魔王による森羅万象との契約に基づく完全魔法による成功

 アルゲオカントゥスから水が出る事は無い


「水が出る事は無い?水が関係するのか?どういう?」


 そこで俺はハッとした。

 海水魚は体内濃度が海水と違うために、常に体内から水分が失われている。

 そこで必死に水を飲み、体内の塩分を薄くしようと試みなければならない。


 だが、サメとエイなどの類は、体内の尿素によって体液を海水と同じ濃度に保てるために、体内から水が失われないのだ。


 つまり、シロロが言いたい事は、ただでさえ閉じられた世界である生き物の身体であるのに、アルゲオカントゥスがエイ型怪獣という事でさらに密閉性が高くなっているという事か。


「わかった。お前は悪くない。十四時に会おう。」


 たかがお昼ご飯のためだけに、森羅万象との契約に基づく完全魔法、なんというものを編み出して自分に掛けた魔王あほう様に言うべき言葉など無い。

 モニターはぱっと明るくなり、そこに再びカイユーを映し出した。


「ねえ!シロちゃんは!」


「うるせえな。アルゲオカントゥスにインカミングする頃には戻って来るだろ?そっからお前らが中に、ええと中に?」


 俺はハッとした。

 アルバートルの敬礼?

 魔王様でも入り込めない魔物の体内に、これからあいつはどうやって侵入するつもりなのかという事だ。

 そして、あいつが弟のように可愛がっている青年をモニターに映したわけは?


 シロちゃんは俺が起こしますよ?

 そうだな、頼むよ。

 そうして俺はカイユーをダグド領に戻す?


 俺の脳裏にアルバートルの敬礼が蘇った。


「カイユー。お前はそこにいろ。十四時にはシロロがそっちに行く。アルバートルはそれに合わせて決死行動を取るつもりだ。」


 ぱちっとモニター映像は切り替わった。

 俺を裏切ってばかりの親友の姿がそこに映っている。

 そいつは神をも魅了できるいつもの微笑みどころか、目玉を回してお道化た素振りを見せた後、皮肉そうな笑みを浮かべた。


「だからガキは引き取って欲しかったのに。」


「じゃあ。ぎりぎりまで生き延びろ。」


「それが約束できかねるんですよ。俺はアルゲオカントゥスの口に大事な一物をぶっこむつもりなんでね。」


「密閉性が高い敵の内部に入るにはそれしか無いか!畜生。」


 俺はカイユーをダグド領に戻すテレポートをしようと、右手を持ち上げた。

 しかし、魔法を使うには集中力が大きく途切れた。


「待って!嫌です!俺は一緒ですからね!団長と残りますから!」


 カイユーの叫び声に押しとどめられたからではない。

 潜水艦が巨大生物とインカミングした事を、警戒音付きで乗員に知らせて来たからである。


「早いな。アルバートル。お前はシロロが戻るタイミングを合わせて距離をちゃんととっていたんじゃなかったのか?」


「方向転換しやがったんですよ。あんなにでかいのに、こんなちっぽけな船よか小回りがききやがる。」


「ちっぽけで悪かったな。口にぶっこむには前戯でその気にさせなきゃならんのじゃないか?ちっぽけすぎてあちらさんにはなんも感じないかもしれないが、魚雷なんてお道具もあるぞ。」


「うわお、お下品。ピンクだったあなたが懐かしいですよ。」


 パシッとモニターの映像は切り替わった。

 海の底の世界。

 潜水艦ヘルヴァに襲いかかる巨大エイという、B級映画のような情景だ。


「戦勝目標、イカせて口を開けさせる。とりあえず尻を撫でる。まずは交わして後ろを取るぞ。」

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