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物言わぬ深海と鋼鉄の歌姫

 昼飯時間にぴゅるぽが戻って来なかった事で、エレノーラが見るからに混乱してノイローゼのようになってしまった。


「あの子は無事なの!ああ、あの子はどこかの壁にめり込んでいない?」


 無事かどうかは俺には分からないし、アルゲオカントゥスに飲まれてしまったが、壁にはめり込んでいないのは確実である。


「大丈夫だよ。フェールがぴゅるぽの相手をしているんだってさ。あいつは子供の面倒を看るのが一番うまいだろ?」


「そ、そうね。ああ。私ったら酷い母親だわ。常にあの子が酷い目に遭っているような気がしているの。そんな幻覚を見たりもしているの。」


「そんなのは母親はみんなそうだと思うよ。俺もあいつらにまかせっきりは怖くて仕方がない。それでね、ぴゅるぽが戻って来たらしばらくは俺達だけであいつの面倒を看たいってシロロに言ったばかりなんだ。」


 エレノーラは青い空そのものな無垢な瞳で俺に縋るように見つめ返し、さらに、俺こそ素晴らしい神様みたいだという言う風に憧れの表情を浮かべた。


 俺は君に真実を告げられない情けない男であるのに!


 いたたまれなくなった俺はエレノーラを抱き上げると城に連れ帰り、するべきでは無いが、彼女を眠りに落して俺達のベッドに横たえた。


「ごめん。絶対に俺達のぴゅるぽ、いや、ダニエラを取り戻すから!」


 そうして俺は昼食中だろうがアルバートル達を潜水艦に乗せ込んで、アルバートルが捕捉したままの怪物の潜む海域に船ごとテレポートさせた。


 さて、俺の作り上げた潜水艦の動力は、ディーゼルでも原子炉でもない。

 もう俺の専売特許となっている水素発電炉である。

 壊し屋アルバートルに与える乗り物に水素発電は怖くて仕方が無いが、乗員のもしもを考えるとディーゼルは選択肢には入らないのだ。


 動力をディーゼルにした場合、艦内の酸素供給を三時間ごとに海面に出てしなければいけない。

 もし彼らが未知の生命体との戦闘から逃れる事が出来なかったり、あるいは戦闘から逃れるために艦を隠すという状況になったとしたら?

 それを考えると、シュノーケリングによる酸素供給しか選択肢がない艦では心許無さすぎるのである。


 では、水素発電炉では変わるのかというと、その大きな電力によって原子炉式潜水艦と同じようにして海水を電気分解して酸素供給が可能となるのだ。

 つまり、どんな状況においても乗員が窒息する事はない。

 船員の食糧問題と精神問題が起こらない限り、半永久的に海の底に沈んでいられるのである。


「深海とは素晴らしいものですね。我が旗艦、ヘルヴァはご機嫌ですよ。」


「だろ?」


 俺の声は自慢に溢れていた。

 全長百二十メートル幅十メートルの潜水艦を、中世時代のようなこの世界で、魔法錬成だろうと俺は作って見せたのだ。


 アルバートルどころか船員となったアルバートル隊の面々は、制御室のスクリーンモニターに映し出される深海のリアル映像に圧倒されていた。

 そしてここに設置されたモニターは、彼らの詰め所である会議室にあるシルクスクリーンとは違い、本物の液晶画面で出来たモニターである。


「凄いですね。岩礁もなにもかも真っ白だ。それから、この船は俺の百鬼眼システムみたいな地図まで勝手に作って勝手に航行している。」


 俺は潜水艦の操舵室を、アニメや映画の宇宙船のブリッジ風に作り上げた。

 アルバートル隊に実際の機器だらけの操舵室なんか与えたら、数分しないで切れたアルバートルに大事な機器が壊されるであろう。


 つまり、なんちゃって操舵室を作ったという事は、船は完全に自動操縦だってことだ。


 そしてそれは俺の魔法添加で作られた制御装置によって運行されるもので、俺の意識が無い時でもこの船は、乗組員の行きたいところへと安全第一に航海する事が出来るのである。


 酸素供給に拘った前述で理解してもらえると思うが、深海に大事な人間を沈めるという行為につき、俺は俺の魔法干渉による制御が無くとも航行できる船に拘ったのだ。


「オートマだ。だが、いざという時には手動になる。遊んでばかりいないで操作を今のうちに覚えておけ。」


「だってさ。頑張れよ、ティターヌ。」


 アルバートルは航行オペレーターとなっているティターヌの肩を叩いた。

 俺はアルバートルが選出した操縦者が、アルバートル隊では一番思慮深い男であることにほっとした。


 副団長であるイヴォアールも思慮深い男だが、彼はどちらかどころか完全にアルバートル寄りの立ち位置のため、いざという時に俺から離反するからだ。

 操縦と言っても自走する船に最終判断を伝えるオペレーターでしかないが、その最終判断が、特攻、しかない奴らに任せたくはないじゃあないか。


「頑張ったってたった一日でソナーの音を聞き分けるのは無理ですよ。」


 彼らを信用していないを前提に船を作った俺が恥ずかしくなるぐらいに、ティターヌの言葉は真面目に未知のものに向き合おうとしている初々しいものだった。


 俺は、それは単なる飾りだよ、なんて言えなくなった。


 もともと、ソナーマンにリリアナを考えていたが、リリアナが機械音は頭が痛くなるとけんもほろろに断ってきたことで俺はソナーマン不要の船を構築せざるを得なくなったのだ。

 よって、俺の船は自分でソナー解析ができる上に、その場その場でアクティブソナーかパッシブソナーかのどちらかを使うかも判断できる。

 つまり船は勝手に歌い、自分の歌を自分で聴いて判断するのだ。


「安心して、ティターヌ。この船は自分で判断する。だが、いざという時にはソナーを判断できる人間も必要となる。船が映し出すソナー図とソナーを聞きながら少しでも覚えてくれ。」


「了解です。ダグド様。この子は賢いのね。」


「そう。この船は歌う船なんだよ。」


「歌うだなんて、ダグド様はロマンチストですね。」


 俺の口元はティターヌの返しに微笑みを作ったが、俺の目は一切笑いもせずに詰所の会議室のモニターから彼らの様子を眺めていた。

 いや、暗く白と黒しかない深海の景色を、だろうか。


 この地獄のような世界に誰も見た事が無い巨大な怪物が潜んでいて、そいつの腹の中に俺の大事な子供達がいるのだ。


「アルバートル。どうしてこうなったのか順を追って説明してくれ。」


 アルバートルは顎をあげ腕を組んだ。

 説明は不要だという事だろうが、俺はモニターの中の彼をじっと見守った。


「俺達は救助に向かっている。過去の出来事は必要ですか?」



お読みいただきありがとうございます。

ダグドが作り上げた潜水艦の説明回です。

よって、何が起きたのか、は数時間後にUPします。

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