希望という名の青い鳥を追いかけました?
前回までのあらすじ
世界の暗黒竜だろうが童貞竜だった俺は妻を娶り、第二世代まで手に入れた。つまり現在の俺は今が真夏だろうがこの世の春であるはずだった。
だがしかし、独身時代に親子の名乗りを上げていた子供が俺にはおり、その子供が世界の魔王様という事で春どころか冬が到来しそうな家庭内なのである。
魔王様は、息子か娘かわからないが俺の子供であるピンクな小竜を常に腕に抱き、どこに行くにでもご一緒という状況とおなりあそばされ、小竜の母親である俺の妻は赤ん坊を取り上げられた格好となって、心穏やかどころか日々不穏となっているのだ。(byダグド)
俺は妻のため子供のため、父権を行使する事に決めた。
いくら俺の子供が竜だろうが、生まれてまだ一か月、産んだ母親が腕に抱いて子を慈しむことができる大事な時期である。
そこで俺は領地の昼食会の会場にて魔王を待つことにした。
この領地の領主は俺だが、魔物ランキングでは中ボス程度の俺では、いざという時の俺の呼び出しに魔王様は応えないという選択も出来るからだ。
そんなお偉い魔王様は、どこに遊びに行かれても、俺からの帰宅呼びかけを完全拒否なされようと、領地のお昼ご飯タイムに必ず戻って来る。
俺の手が彼だけの為に作ったお菓子、果物を飴にくぐらせただけで物凄く美味しそうに見えるというあれ、いちご飴とりんご飴を持っていれば尚更だ。
俺の目の前に両手を差し出す小さな白い可愛い子供が出現された。
俺は彼の腕の中にぴゅるぽがいないことに小首を傾げながらも、自分が持つ棒付きお菓子の一つ、いちご飴だけをシロロに手渡し、後のもう一本はお話が終わった後にな、という風に右手に持ったまま振って見せた。
シロロの瞳は自分が貰った飴の方ではなく、真っ赤なりんご飴にこそ惹きつけられているような輝きを見せている。
「シロロ。ちょっとだけ俺とお喋りをしてくれるかな。」
「ダグド様とのお喋りはいつでも歓迎ですよ?」
「そうか?良かった。子供の面倒を看てくれるのは嬉しいが、赤ちゃんにはお母さんこそ必要じゃないかな?ぴゅるぽをお母さんの腕に戻してくれないかな?エレノーラは赤ちゃんのご飯とかね、それはもう心配ばかりしているんだよ?」
シロロは前述の台詞のように俺との会話が嬉しい、という笑顔を見せて俺をその可愛らしさの虜にしてから、最低な言葉を吐いた。
「竜は自然エネルギーがご飯ですからお母さんいらないですよ。大丈夫です。」
「その設定を解除するためにピンクにしたんだろうが!」
「安心してください。そこの機能は復活させました。」
「安心できるか!普通の竜のままだと親である俺達と意思疎通も出来ないし、勝手に世界に飛び立って逃げちゃいますよ。そんでもって、逃げた先で経験値稼ぎの阿呆に狙われて殺されますよって、お前が言ったんじゃないか。」
「僕は世界の魔王様ですから、ぴゅるぽはお利口さんのままです。」
「おい。それが出来たんなら黒に戻せよ。そんでダニエラって呼ばせろよ。」
「黒竜という存在は僕という魔王に倒される運命にあります。」
「世界の魔王様だったら自分の設定こそどうにかしろよ。」
「もう!ダグド様ったら煩い!僕がぴゅるぽを守っているから良いでしょう!」
「守ってくれんのはありがたいけどな、俺とエレの大事な子供を勝手に別物に変えてくれるなよ?それを俺は言ってんだよ。」
「だって、普通にご飯だったら、竜なのに大人になるまで二十年もかかっちゃうじゃないですか!」
「それが子育てだ。今日は寝返りがうてた、今日はハイハイが出来たよ、そんな子供の成長を目の当たりにできてこそ親の幸せなんじゃないのかな。」
魔王様は思いっ切り不機嫌な顔をして見せた。
そう言えばこの魔王様は、俺に可愛がられるために幼い子供の姿をなさっていたのではなかったか?
俺はその設定を久々に思い出してぞっとした。
魔王様が自分こそ赤ん坊から始めようなんて思い付かれたら事である。
「ええと、シロロ、ちゃん?」
「エレママともう一人作ればいいじゃないですか。」
「お前。家庭を壊すデリカシーのない舅か姑みたいな台詞を吐くんじゃねえよ。」
「潜水艦はいつ頂けるのですか?」
俺と子供の会話に、俺の義理の兄ながら俺の息子にこそなりたいらしい男が口を挟んで来た。
俺は両目をぎゅうと閉じて数秒数えて自分を落ち着け、それからゆっくりと瞼を開けてからこの領地の保安部隊長を見返した。
アルバートルは俺に本気でおねだりに来たらしい。
俺が作った夏用制服を着ずに浴衣姿かバミューダパンツとシャツという姿でふらふらしている男の癖に、制服を作った俺の冥利に尽きるぐらいに俺の制服をぴしっと着こなしていやがるのである。
常に真夏の住人であるかのような日に焼けた健康的な肌に、白に近いプラチナブロンドを無造作な短髪にして流し、俺に微笑みを作る目元で輝く青い瞳は宝石よりも美しい海そのもののように煌く。
神様を形どった石膏像に色付けしたら動きだした、そんな美しい男の面目躍如のいで立ちである。
「お前、潜水艦は嫌だ、つってなかったか?」
「鉄の棺桶で海に潜れと言われたら誰だって拒否しますよ?」
「で、突然どうして鉄の棺桶が欲しくなったんだ?」
「永遠の命という希望を地上ではなく海底に求めたくなっただけです。」
俺は溜息を吐いた。
アルバートルの妹であるエレノーラがぴゅるぽを生んだことで竜母となり、彼女は不老不死の存在となったのである。
そして、不老不死など望んでもいなかった男が、自分こそ永遠の命が欲しいと急に強請るようになったのだ。
エレノーラに言わせれば、常に一番でいたいだけの我儘、らしいのだが。
「で、いつ潜水艦はいただけますか?以前に俺に見せてくれたあの鉄の塊。実はいつでも動かせるものなんですよね?」
「……必死だな。」
俺はアルバートルを見返した。
アルバートルは笑顔のまま、それも俺を誑し込むような目つきで俺を見返して来たので、俺は背筋に怖気を感じてしまった。
魅力的な男の笑顔に性的な何かを感じたからなどというわけではなく、奴が今までに事後報告してきた数々の詳細を俺が一気に思い出しただけである。
先日の勝手にアウァールスインスラ(貪欲の島)冒険、など、など、だ。
俺は絶対に正直に話さないアルバートルではなく、素直な世界の魔王様に賭ける事にした。
すなわち、りんご飴をシロロにすっと差し出したのである。
「シロロ。アルバートルさんはどうしたんだろうね?」
「フェールがアルゲオカントゥスに飲まれちゃったから助けないとなの。」
「あるげおか?」
「アルゲオカントゥス。海の底に住まうエイ型の巨大怪獣です。」
俺はアルバートルを見返した。
アルバートルは全く悪びれない笑顔を返して来た。
「ということで潜水艦をよろしくお願いします。ちょっぱやで。」
「君は何度目だ!」
「事態は急を要しているんです。フェールはあなたのお子さんと一緒に海の怪獣の腹の中なんですよ?」
俺は世界の魔王様に大声を上げていた。
「お前が守るんじゃなかったのかよ!」
「守って僕も一緒にお腹の中に入っちゃったの。でもね、悔しいけど僕は食べないといけない人なんだな。」
「で、一人だけ脱出してきちゃったと。そこは、悔しいけど僕はお兄さんなんだなって、アルゲオカントゥスの腹の中に留まっていて欲しかったな。」
お読みいただきありがとうございます。
アルゲオカントゥスは凍えると歌のラテン語単語を勝手にくっつけた名前です。
海のそこは歌など凍えてしまう無音の世界、そんな世界に住まう巨大な化け物でございます。
2022/8/11 もとはフォルネウスでしたが、フォルネウスどこかで使っていた気がしたので、アルゲオカントゥスに変更して投稿したつもりが残っていたので修正しました。




