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転生先が物語分岐の中ボスという微妙な立ち位置だった  作者: 蔵前
息子よ、ブドウ園に行ってくれるか?
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間違えたっぽい?

 子供が生まれた俺達夫婦は、領民全員から祝いの言葉を貰えたが、子供が生まれた翌日には別居する事となった。

 そして俺は妻が言った「一人で少し考えさせて。」の言葉を守り、ダグド領に一人残ってうだうだしている。


 また、俺が一人だというのは、コンスタンティーノに赤ん坊と去ったエレノーラに、シロロまでも一緒について行ったからだ。

 僕はぴゅるぽのお兄さんだもん、と。


「まず、子供と妻のどちらかを選択でしたら、妻を選ぶものです。そん時には、子供はまたできるがお前はこの世に一人だ、そう妻に伝えるのが正解です。」


 いや、俺の身内と言える男が一人、ダグド領には残っていた。

 差配人のエレノーラの代りに領内を管理して見回る人間が必要でもあり、俺は彼に感謝するべきであるが、俺は毎日のように奴に色々と持ち物を奪われてもいる。


 今着ている浴衣などは、ノーラの手によるものではなく、俺が自分の為に作っていたしじら織の藍染のものだ。


 だが奴の青い目にその藍染の青色は良く映えており、俺が取り返す気が起きないぐらいに着こなしてもいるのである。


 そんな男にダメ出しをされることになった俺は、舌打ちをするしか無かった。

 奴は俺の行動が全て間違っていたと、改めて突きつけてくれたのだ。


「だって、エレノーラが必死に守っていた子供じゃないの!あの子を守ることこそエレノーラの気持を大事にすることだと思うでしょう。君だってエレの気持を大事にしろって言ったじゃん。」


「まあ、確かにそこは妹はそんなに大事に思っていないですよ。逆にそこまで自分の気持ちを大事にしようとしてくれたと、あいつはあなたの気持に感動さえもしています。」


「じゃあ、どうして怒っちゃっているの!」


「それは、ですね。」


 俺は俺に事態の説明をしてくれるアルバートルを睨んだが、妙に機嫌のよい男は、したり顔というか猫が満足したような笑みを俺に見せた。


「あなたが俺を選んじまったからですね。」


「え?俺はエレ一番だぞ。」


「何を言ってんですか。俺が首落すから妹に命やってくれって頼んだ時、あんたは俺を生かして妹を死なせるほうを選んだじゃないですか。」


「え?エレはお前が死んでいた方が良かったって話?」


「あんたは俺を妹の為に見殺しにする選択をして唇を噛む。するとそこで妹は、兄を助けてくださいってあんたに叫ぶんですよ。私は覚悟しています!お兄さんこそ死なないで!ダグド様を私の分まで守って差し上げて!がくってやつですねえ。俺の台本では。」


「てかお前、死ぬ気は無かったのか?」


 アルバートルは軽薄そうに眉毛を上げ下げして俺を見返して、俺が座っている椅子のひじ掛けに腰を下ろした。

 俺が見つめ続けていると、彼はテーブルに乗っているビールを手に取って、俺に自分の背中を当てながらぐびぐびと飲み始めたのである。


 俺は斜め横で俺が彼の上司でも何もない素振りをしている男を突き飛ばしてやりたくはなったが、突き飛ばすよりも奴の背中を軽く撫でた。

 彼は冗談めかして明るく振舞ってはいるが、ただでさえ孤独な彼が完全なる孤独を味わっているはずだからである。


 それは、同じ血を分けた妹と自分が、種族として別たれたという、一人ぼっちになってしまった絶望だ。


「畜生。俺が死んでいたら、俺こそ本当の竜騎士になっていただろうに!」


「首を落として死んでいたら、それで君はお終いだったと思うよ。君と俺は義兄弟の名乗りを上げているが、エレは俺の子供を腹に入れた事で竜の血も体に取り込んでしまっている。だから、死んだ君に命を注いでもエレと同じ結果になったとは限らない。」


「で?生き残れた俺は数十年後にはよぼよぼになって死んで、あんたに愛される妹は不老のままそん時も元気で笑っていられる、か。」


 エレノーラはシロロのタイ焼きを食べ終わり、生命エネルギーを全て取り戻した途端に、キラキラと体から金色の光を発したのである。

 その光は一瞬で消えたが、その代わりに彼女の両肘周りと腰骨の辺りに、なんと竜の鱗めいた角質化した皮膚が出来上がった。


 俺は、どうした事か、とシロロに聞いていた。


ぴゅるぽのお母さんになったので竜母りゅうぼにジョブチェンジしちゃったみたいです。」


「俺があの子を押さえつけたからシロロの支配下にある俺の支配下に入り、シロロが望む姿にあの子をメタモルフォーゼできたが、あの子繋がりでエレまでシロロの影響を受ける事になるとはね。」


 俺は会議室の窓から眺められる外を眺め、沈みゆく太陽が世界を赤く染め始ている風景をしみじみと眺めた。

 そして俺が俺から去ったエレノーラを強く追いかけなかったのは、俺のせいで変わってしまった彼女を俺から自由にさせたかったからでは無いのか、と思い立った。


 永遠の虜囚の俺から、永遠となった彼女は解き放たれるべきなのではないか、と、去っていく彼女の後姿を眺める俺に俺自身が問いかけていたじゃないか、と。


 そうじゃない。

 俺は彼女に恨まれる未来に恐怖しただけなのだ。


「終わりがあるから幸せなのでは無いのか?」


「ダグド様?」


「夜が無きゃ一日は辛いだろう?朝が来て昼になって、それで夜という真っ暗になって生き物は安らぎを得るんだ。だから、寿命がある方が幸せだと思うよ。」


「俺は死ねて幸せかもしれませんが、あなたは取り残されるんですよ。」


 俺は目に映る夕日による真っ赤な風景が、彼の遺体を焼く真っ赤な炎のように見えた。

 そうだ。

 彼が亡くなれば、俺が彼を弔うのだ。

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