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転生先が物語分岐の中ボスという微妙な立ち位置だった  作者: 蔵前
息子よ、ブドウ園に行ってくれるか?
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誰かの背中に乗って

 赤ん坊の炎は俺の力によって押し消され、赤ん坊は俺をじっと見つめた。

 その目玉は竜のものであり、にろにろ姉妹たちよりも意思の疎通が出来なさそうな視線だった。

 まるで、草むらで見つけたカナヘビと目が合ったような感覚だ。


「お前こそ純粋な竜か。そうだな。俺は十六年前は単なる竜だったものな。喰らって生きるだけの黒竜だったんだよな。」


「ふひゃあ。」


 赤ん坊は人間の赤ん坊があげる事は無い声をあげた。

 俺は赤ん坊を睨み返しながら腕に抱いた。

 そして急にピピが俺に言った言葉が思い出され、勝手に口から零れ落ちていた。


「生まれたての黒竜を俺が倒したぞ。」


 赤ん坊ははひゅうと息を吸い込んで、俺の腕の中で竜の姿に変化した。

 最後の力を振り絞るようにして炎をまき散らし、手足をばたつかせ始めたのである。


「あ!ダグド様!その子を押さえて!そのまま抑えて!」


 シロロの大声を聞くまでも無く、暴れ始めたそれを俺は抱き締めた。

 それが放つエネルギーだって俺が押さえ取り込み、完全に無力化させるために俺が我が子の竜の力を喰ったのだ。

 じたばたともがく小型の竜は次第に力弱くなっていき、それは竜の力が弱まるにつれて体までも崩壊させ始めたのである。


「シロロ!エレを目覚めさせてくれ!俺のせいで死んじまうかもしれないが、死ぬ前のこいつをエレに抱かしてやりたいんだ!」


 俺は体の輪郭を失っていく子供をさらに抱きしめると、エレノーラが眠っているベッドにと駆け戻った。

 そこで眠っているエレは、エレノーラは、瞼を開けて弱々しく振るえながらも両手を俺に差し出していた。


「エレ!俺達の子だ!俺と君の子供だ!」


 俺が喰ったせいで竜の力を失った、俺の腕の中で丸まった肉塊にしかなっていない生き物を、俺はエレの腕に抱かせようと腕を開いた。


「ぴゅあ。」


 俺はピンクの可愛い竜を抱いていた。

 デフォルメされた羽付きのプレシオサウルス、という、生誕時の格好良さを全て失った間抜けな姿の竜がそこにいた。


 俺が呆気に取られている中、その竜はぴょーんとエレノーラに飛びつき、彼女の腕の中で人間の赤ん坊の姿に戻った。

 真っ黒かった髪もまつ毛も、シロロの様な真っ白いものに変化したが、瞳は変わらずにエレノーラの青い瞳というものだ。


 エレノーラは我が子を抱き締め、我が子が乳を求めて自分の乳房に顔をすりつける様に、ほうっと表情を緩めた。


「思い残すことはありません。ダグド様、この子をよろしくお願いします。」


「この馬鹿が!想いを残せ!ギリギリまで生にしがみつけ!俺の命をくれてやる。お前は生きたいと望め!ダグド様はお前が命綱なんだよ!」


 アルバートルは刀を自分の首筋に当てた。

 自分で首を落とすつもりか?


「お前もふざけてんなよ。」


「うるせえよ。妹がいりゃいんだろ?俺が首を落としたら、ちゃんと俺の命を妹に注ぎやがれよ。てめえならできんだろ?妹が失った命の代りに俺の命を妹に押し込むぐらいはよ。」


 くそう!アルバートルめ。

 最初から自分が生贄になろうという魂胆だったのか!

 子供を殺されまいと俺がアルバートルを殺してしまう事に賭けたのか?

 俺を殺っちまったんだから、俺の命を妹にって奴か?


「お前の代りこそいねえんだよ!」


 アルバートルは、くくっと笑った。

 それでもって俺を魅了するような、最高の微笑みなんて見せつけてきた。

 妹の為に命を捨てる覚悟である義兄の、その喪失だらけの過去と抱える想いを思って、俺は涙が零れた。


「俺はもういいんですよ。」


「俺はよくねえんだよ!」


 俺の右手はアルバートルに向けられた。


 パキャン。


 アルバートルが持つ剣の刃は、俺の力によって粉々に砕け散った。


「あんたは!」


「うるせえ!うるせえよ!」


 俺は失うだろう妻の体を抱き締め直し、妻を助けられる最後の望みを自分で絶ってしまった事を心の中で詫びた。

 俺は妻の為に世界を滅ぼす選択はしないであろう。

 だが、まだ妻は生きている。

 どんどんと、弱まっているが、妻は生きているのだ。


「シロロ!どうにかならないのか!ぴゅるぽじゃないか!俺の子供は勝手にぴゅるぽになったじゃないか!」


 シロロはとことことベッドわきに来ると、自慢籠からタイ焼きを一匹取り出し、それを赤ん坊の口元に持って行った。


「ご飯だよ~。パパが作ったおしゃかな焼きだよ~。」


「おい、シロロ。」

「シロちゃん?赤ちゃんはまだそう言うの食べられないのよ?」


 シロロは無邪気な顔でエレノーラを見上げ、エレノーラの口許に今度はタイ焼きを持って行った。

 シロロを自分の子として可愛がってきたエレノーラだ。

 彼女は普通の母親が幼い子供にするようにして、腹が空いていなくともそのタイ焼きをパクっと一口口にした。


 その後すぐ、彼女はガクッという風に俺の腕の中で意識を失った。


「嘘っ!最期の言葉もなくて、タイ焼き喰って死ぬのかよ!エレ!」


「ダグド様!俺の妹の最期を誰にも語れないようにしないでくださいよ!」


「俺のせいじゃねえ!シロロ!」


 シロロは俺を見上げてタイ焼きを俺に向かって差し上げた。

 エレノーラの歯型が付いているたいやきくんは、無表情に俺を見返している。

 俺が作ったものを彼女が最期の時に食べられたから、彼女は幸せに死んだのだと言いたいのだろうか?


「シロロ、さん?」


「エレママが目覚めたら全部食べさせてね。このタイ焼きさんに取り返したエレママの生命エネルギーが入っているから。で、いつ人間の赤ちゃんは自分で動けるようになるの?僕が背中に乗れるのはいつ?」


 俺とアルバートルは顔を見合わせた。


 背中に乗りたいだけ?

 お馬さんしたいだけだったのかよ?


 テレパシーは無いが、俺達はしっかりと無言の中でやり取りをしていた。


 俺はエレを抱き締める腕を一本外し、アルバートルに拳を突きつけた。

 俺達の無言じゃんけんが始まった。

 これは、シロロにお馬さん遊びをしてやる係の順番決めだ。


 普通の赤ん坊と同じになったから、大人になるまで二十年はかかるよ、そんな事実を知った魔王様にぴゅるぽを黒竜に戻されたら適わないからである。


「最初からぴゅるぽにしといてくれればこんな!」


「うるせえよ。親として色々と辿らにゃならん思考や感情ってやつだよ。ほい、お前の負け!」

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