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転生先が物語分岐の中ボスという微妙な立ち位置だった  作者: 蔵前
息子よ、ブドウ園に行ってくれるか?
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魔王様との対決

 俺は結局当初の目的を台所で果たした。

 とりあえず、シロロが好きそうなものを作り上げたのだ。

 作り上げたそれは、シロロの自慢籠という名のお菓子入れに入れた。

 エレノーラがシロロにしてやっているようにして、俺は彼のおやつを用意したのである。


 そして城の広間、俺達が毎日食事をしている広間のテーブル横に立った。

 ここが俺達の出会いの場で、最初の場所だ。

 シロロと勇者らしきものが出現したポータルを懐かしい気持ちで見返すと、ポータルは今の俺をあざ笑う様に丸裸な姿を見せていた。


 エレノーラが目覚めていた頃は、俺達の洗濯物が揺らいでいた場所だ。


 俺が洗濯をして俺がポータルにひっかけて干すんだが、干してある洗濯物が何もないのは、俺が洗濯する日常にさえ気が回らなくなった印である。

 今はもう、シロロが張った釣り糸だけが光る、いや、無い。


「そうか。ゲームではあそこから勇者が黒竜を倒すために来るものだものな。」


 俺は口元に両手を当てて、シロロさーん、とダメもとで呼んでみた。


 ドロン。


「うおっ。」


 シロロはポータルからではなく、俺の真ん前に出現された。

 そして彼は両手を俺に差し出している。


「君は何でもお見通しかな?」


 手を差し出している魔王は、軽く鼻を啜った。

 俺とアリッサの会話を聞いていたのかもしれない。

 あるいは、ダグド領で交わされる全ての会話、全てを、彼は聞き耳を立て、いざとなったら自分を残してみんなが消えると知ったのかもしれない。


「僕は悪い子なのにおやつを作ってくれたのですか?」


「君が悪い子なのは最初から知っている。君だって俺が悪い竜だって知っているじゃないの。さあ、テーブルについておやつを食べよう。エレが起きていたらもっといいものだが、俺はこの程度だね。」


 千年杉を割って作った広々として長いテーブルに、俺達は初めて出会った時のようにして対面で座りあった。

 俺は席に着いたシロロに、自分が作ったお菓子を手渡した。

 彼がお菓子を貰う時はいつも腕にぶら下げている、自慢籠に入れてあげたそのまま彼に手渡したのである。


 シロロは籠を受け取って、籠に掛かっている布巾を取って中を覗いた。

 そこにはタイ焼きが入っている。

 エレが作ったキャロブチョコ入りと、シロロが大好きなトロトロチーズとハムが入ったものだ。


 ぐす。


 シロロは大きく鼻を啜った。


「僕は魔王です。黒竜は倒さなければいけません。ぴゅるぽだったら、僕はたくさんたくさん可愛がってあげられるのに。」


「俺と君がしたように、あの子を君の弟か妹として家族の名乗りを上げる事は出来ないのかな?君とあの子が兄弟となれば、あの子は俺と同じ黒竜なのに君色の白銀色に輝いて、この世で君が倒すべく黒竜ではなくなる。」


 ぐす。


「だって、赤ちゃんだもの。話の通じない赤ちゃんだもの。でも、お話ができるまで僕は待てない。もうダグド領に僕は来てしまっている。もし僕が世界の果てにいたのならば、赤ちゃんがお喋りできるまでには時間が稼げたかもしれません。でも、僕は世界の果てなんか、もう二度と。ごめんなさい。」


 泣くシロロは、単なる小さな子供でしか無かった。

 初めて会ったあの日、俺に伺うようにしゃべりかける子供、あれがあの時には真実の姿だったのかもしれないと初めて俺は思った。


 人寂しくて人里に行き、そこで異業のものだからと追い払われる。

 だから黒竜を倒してそのパワーを得て、魔王へと孵化しようとした魔王の雛。


 ひな?


「お前ちゃんと羽化したよな。パワー充填して完全なる魔王様だよな?いまさら黒竜倒す意味あんのかよ、こら。」


 ぽろぽろと幼気に涙を流していたはずのシロロは、横を向いてちぃっと太々しい舌打ちをした。


「てめえ、こら。」


「だって!僕はぴゅるぽが良かったんです!」


「黒くたっても可愛いだろうが!黒は駄目って俺を全否定か?」


「だって。ぴゅるぽじゃないと人間食べちゃうし。」


「う。」


 俺はクリティカルヒットを受けていた。

 そうだ俺、人喰い竜だったじゃん?と。


「マジか~。俺の子は人喰い竜か~。まじか~。」


「でも、ぴゅるぽだったら?」


 シロロは真っ黒のキラキラした瞳で俺を見つめ、俺はその期待溢れすぎる瞳に違和感やら反発心こそ抱いた。

 そして身を乗り出して、シロロの自慢籠からタイ焼きを一匹取り出した。


「嘘ついたらタイ焼きは没収だ。二度と焼いてやんないぞ?」


 シロロは俺の手からタイ焼きを奪い返すと、人喰い竜じゃない、と呟いた。

 だが、でも、でも、と大声で叫んだのである。


「エレの血を引いていても完全に竜でした!ダグド領から逃げて適当なパワースポットに収まれば、勝手に巨大化して成長できます。そしたら人間に倒されてお終いじゃないですか!お喋りしたり背中に乗って遊んだり僕はしたいのに!」


「ちょっと待って。勝手に成長って、エレが必要ないってこと?」


 シロロはこくこくと頭を上下させて頷いた。

 それから、ゲーム開発者の俺が気が付くべき大事な設定を、魔王様は口にされたのである。


「純粋な竜は、ご飯の栄養よりも、自然エネルギーを吸って成長する生き物なのです。だから、竜を倒したら経験値が物凄いのです。」


 俺は覚悟を決めるしか無かった。

 ぴゅるぽにすればどこかにあるパワースポットに勝手に飛んで行かず、冒険野郎達の経験値稼ぎの小ボスか中ボスにされて殺されないのであれば、選択するしかないではないか、と。


「わかった。ただし色を抜くだけだ。そんでもって、色を抜く前にエレに抱かしてやって。自分が産んだそのままの子供をエレは抱きたいはずだよ。」


 シロロは頷いた。

 ものすごくうれしそうな顔に、俺は騙されたか?と不安になったが、色を抜くだけならば子供を改造する事にはならないのでは無いのか?

 で、俺って、竜の癖に竜の事わかんなすぎてやばいな。


「じゃ、行きましょう!善は急げって言います!」


 いや、お前は善の無い魔王だよな?

 口には出せなかったが、たかたかと走っていくシロロの後は必死に追いかけた。

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