家族を守るためには?
俺は城に戻ると、まずシロロの興味を引くものを作り上げようと考えた。
そこで台所に入ったのだが、台所には生簀があった事を失念していた。
生簀の中に入っているのは、グリとウィンというにろにろ姉妹であり、彼女達はクラーケンとスキュラの間の子供というキメラ族だ。
上半身はフィギュア人形のような質感と造りで、不快の谷住人ギリギリだが、人間に近い可愛らしさはある。
だが、意思の疎通は殆ど出来ないし、腹から下は完全なる妖物だ。
彼女達は水から出せば下半身がたこの様な触手となり、水の中においては魚のしっぽが二本生えているものになるのである。
その変化の意味が意味わかんねよ、な、半魚人さん達な彼女達は、先日のなんちゃってグアム島に連れて行ってもらえなかったどころか、存在を忘れ去られたかのように、この生簀の中でうっちゃられていたようだ。
彼女達は放っておかれた事を恨んでいるようにして、二人してガラスの水槽にへばりついていた。
青い髪と緑の髪が海藻のように水中でゆらゆら揺らめき、魚みたいな無感動の目が二対、真っ黒とオレンジが、俺をひたすらに見つめてきていやがる。
実に怖い。
俺は冷蔵庫に向かうと、そこから日干しの魚を二匹取り出して、水槽に向かってドボンドボンと投げ込んでやった。
干物の魚はふよんふよんと水の中で揺られながら沈んでいった。
あれ?グリとウィンは一顧だにしない?
俺をじ~と見ている、見ている。
「ど、どうしたの?君達?ご飯が欲しいのでは無いの?」
「ご飯はちゃんと上げていますって。ダグド様が久しぶりだから甘えたくなったのではございませんか?」
澄んだ声に振り返れば、チェリーブロンドの可愛いアリッサが金属の輝きを持つ金髪の男の腕にもたれて立っていた。
もたれて、と言っても、相手もアリッサにもたれているという、つまり、女子高生達が友達同士て腕を組んでくっついているという状態だ。
そして、アリッサが腕を絡めてもたれている男がティターヌであり、彼はアリッサと同じぐらいに派手なピンクな浴衣を着ているので、女友達だね!という風にしか見えなかった。
ティターヌはアルバートル隊の中で一番背が高く一番の筋肉質という大柄な男であるが、一番物静かで一番気遣いのある男である。
だが、中身はおねえだ。
ダグド領で着物を推奨してから、好きな柄の着物を好きな着方をしてよいと知ると、押さえていた自分を開放するかのようにしてどんどん派手にもなってる。
つまり、俺の目の前にいるアリッサとティターヌは、浴衣にレースを付けたり飾り襟やフワフワ帯にキラキラをいっぱいつけたりと、俺が呆れるほどにギャルっている姿となっていた。
「え、ええと。アリッサもティターヌも着飾って、どうしたの?き、今日はなんか祭かなんかあったっけ?」
「あら、赤ちゃんが生まれたんでしょう!今夜は宴会ですわよ!」
「あ、いや。アリッサその赤ちゃんなんだけどね。」
俺が掻い摘んで事情を説明すると、生まれながらの営業なアリッサは、ツンとした印象もある綺麗な顔を無邪気に綻ばせた。
「ピンクにしちゃえばいいじゃないですか!再編成じゃなくて、色だけピンク!シロちゃんはピンクだったらいいんでしょう?」
「え?」
アリッサは猫みたいな瞳で俺をじっと見つめ、口元に人差し指を一本持って来て唇に当てる、という可愛らしい仕草をした。
そして自分の口元に俺の視線を向けた彼女は、何でも売り飛ばせるセールスマンの本領発揮のようにして、ろくでなしの口上を唱えだしたのである。
「で、ダグド様。まずは、ピンクにするとシロちゃんに譲歩するんですよ。でもシロちゃんには、エレ姉を起こして子供を抱かせてからピンクに、と約束するの。それでエレ姉が赤ちゃんを抱っこしたそこで、ダグド様は二人を仲良くコンスタンティーノに転送しちゃうの。いかが?」
「まああ!アリッサは本当に悪い子ね。でも、いい提案よ。いつピンクにするかは約束しないってところがみそね!ダグド様、そうなさいなさいな!」
俺はいい案だな、そう彼女達に答えていた。
恐らくも何も、アルバートルがコンスタンティーノに引っ込んだ理由、それがこの詐欺を魔王に対して行おうという事なのであろう。
あの土地も俺の領土だ。
祭と称して町民を集めて誘導し、いざとなれば全員であの町に逃げ込む、そういう計画をあいつは立てたのかもしれない。
当事者の俺には内緒で!
そしてそれこそ、俺に伺ってはいられないぐらいに、俺達に残された唯一の道なのかもしれない。
だが、俺の頭の中で、廃墟と化したダグド城で一人王座に座るという魔王のイメージイラストを思い出し、それが現在のシロロの姿に書き換えられた。
あの子だって俺の子だ。
一人ぼっちにしていいのか?




