団長はどこ行った?
「お披露目の前に問題発生だ。お前らの大将は何も言っていなかったか?」
薄茶色の髪に薄茶色の瞳をしたカイユーは、天使さながらの無邪気な笑顔を俺に見せつけながら、無神経に自分が尊敬する団長の言葉をオウム返ししてきた。
「今回のガキはリリアナに押し付けてコンスタンティーノで育てて、ダグド様には次の子がぴゅるぽになるように励ませろ、と言ってました。そうすれば、シロちゃんはエレさんを起こさざる得ないし、ぴゅるぽじゃなかった子を攻撃する必要は無くなるからって。」
「バカ!全部言う必要は無いだろ!」
フェールがカイユーの口を押えたが、もっと早く押さえとけよ、だよね?
俺は俺に脅えている様子の二人に対し、ふうん、と声を出していた。
カイユーが喋ってしまったアルバートルの言葉に、感嘆している訳でも、受け入れているわけでもない。
またあの野郎は全部見て状況全てに気が付いた上で、俺に真実を言わずにてめえ勝手に動こうとしてやがる、そういう風にしか感じなかった。
「ああ糞!あいつ一人でシロロと交渉して、妹と俺に恨まれても自分一人で咎を背負ってってことか?どうしてちゃらんぽらんに振舞う癖に、最後までちゃらんぽらんでいてくれねえんだよ。」
俺は段ボールに残った浴衣、それが一組なのを忌々しく思った。
一番最初にあいつこそ貢物を手にするのでは無いのか?
もしかして、ここにあいつがいないのは、あいつは交渉に失敗して?
ガチャ。
ドアを開けて入ってきたのは、ちゃらんぽらん野郎の副官であるイヴォアールであった。
「あ、本当に浴衣がある。」
団長のアルバートルが太陽が輝く海のイメージであるのと違い、銀色に輝く灰色の長い髪にシルバーグレーの瞳という組み合わせのイヴォアールは、月が輝く砂漠のイメージという対極にある。
そしてそのイメージが相反するからこそか、アルバートルがちゃらんぽらんであればあるほど、イヴォアールは折り目正しい真面目で堅物となるのである。
さて、カイユーとフェールは、ガキみたいな顔をして大学生か高校生にしか見えないが、肉体だけ見れば細身でも実に身長が高くてと、兵士としては良い体格をしてくれているのだ。
とりあえず俺の方が背が高いが、フェールと俺は真っ黒な髪の毛がお揃いな人達でもある。
よって、副団長様はフェール達の壁で俺の存在に気が付かなかったらしく、あのアルバートルと上手くできるだけあるよな、という振る舞いを俺の目の前で始めたのである。
俺が作り上げた夏制服をきちっと着込んでいた彼は、俺の視線を受けながら、暑いといって俺が作ったシャツを無造作に脱ぎ捨てやがった、のである。
こんなものポイって感じだ。
「ノーラには感謝ですねえ。こうしてみんなでお揃いならば、俺も妻に気兼ねなく袖を通せます。ああ、やっと楽になる。ダグド様の趣味のこれは暑っ苦しくて!ねえ、エラン。」
エランは咳ばらいをして副団長に気付かせようと試みた。
だが時はすでに遅し、だろう。
俺の目の前で笑いをかみ殺しているカイユーとフェールに、俺は右手をひらりと閃かした。
すると彼らは一歩ずつ横に退いて俺に道を開いてくれたのである。
俺の真正面にはイヴォアール、だ。
「お帰り。イヴォアール。そんで君がここって事は、あんの野郎が今はコンスタンティーノに行っていて、海の監視員という名のサーフボートで遊ぶお兄さんをしているのかな?」
真面目な副団長は、はっとした顔となって体をビクつかせ、掴んでいた浴衣をテーブルにぱさりと落とした。
彼こそ俺の娘と結婚して義理の息子になっているのだから、俺は気兼ねなく親父として彼を叱責できるというものだ。
「だ、ダグド様。」
だが俺は彼に何も言わなかった。
「あいつが戻って来たら俺の所に来るようにだけ言ってくれ。」
そう言って、威厳を保ちながら会議室を出ただけだ。
奴の妻になった俺の娘モニークは、フワフワ赤毛の天使か妖精のような美人だが、中身こそフワフワしていて傷つきやすい人なのだ。
今彼女に泣いて出戻って来られたら、俺が大変じゃねえか!
その代わり、俺の鬱憤は全部アルバートルに被せてやる。




