リリアナ先生にお伺い
俺は取りあえずリリアナを探した。
彼女の予知能力と、彼女の今までのシロロ調教の手腕に期待して、彼女の意見こそ聞こうと思ったのだ。
シロロは他にノーラを姉様と慕っているが、ノーラは時々その場しのぎの適当な事を言う人なので、その枠は今回はアルバートルが埋めているという事で彼女は不要だ。
以前はアルバートルが妙にノーラに構うなと思ってもいたが、よく見ていれば、何の事は無い、負けず嫌いの似た者同士だ。
ノーラに言ったら物凄く怒りそうなので、俺の胸に仕舞っておくが。
さて、俺が探していたリリアナは、当り前だが以前はエレノーラも住んでいた乙女隊の屋敷の方に戻っていた。
小さな子供がいるのだから、その行動は当たり前だろう。
彼女と小さなウーパールーパー顔の竜人族の子供は、館の衣装室の方にいた。
蜂蜜色の長い巻き毛はゆったりと結い上げられ、古風な白いブラウスにロングスカートといういで立ちは、彼女に似合うがいつもの彼女とは違っていた。
子供がコールドスリープされたのが百年近く前だというならば、子供を混乱させないようにとその時代に近い服装にしているのだろうか。
「何をしているんだい?」
「まあ!ダグド様。この子、ピピのお洋服ですわ。私達の幼い頃のもので使えるものを探しているの。ねえピピ。」
ピピと呼ばれた子供は、俺の姿を見るや、さっとリリアナの後ろに隠れた。
それでもピピはリリアナの後ろから顔を出して、こくこくと頭を上下させて返事をちゃんと返すといういじらしさがあった。
「可愛いな。ピピ?俺は黒竜ダグドだよ。同じ竜だ。」
しかしピピはリリアナの後ろに隠れるばかりで、俺に脅えるばかりだ。
どうしようかな、と考えて、俺は頭だけ黒竜ダグドの竜顔にして見せた。
「ひゃあ!」
あ、ピピが驚き過ぎて尻餅をついてしまった。
そしてアンモニアの匂いがピピから漂った。
「まあ!ダグド様!小さな子供を脅かすなんて酷いですわ。」
俺は元通りに顔を直したが、どうしてリリアナと同じことをしても怖がられるばかりなのか、全くもって不可解である。
「大丈夫?ピピ。せっかくだからお風呂に入りましょうか?あなたはお水は好きでしょう。その後は、こんな怖いオジサンがいる場所は止めて、綺麗な海が広がっているコンスタンティーノに行きましょうか?そこはウサギ族にピグミードワーフ族も住んでいる場所だから怖くないかも?」
「え、怖がらせたくないから竜だよって教えたんじゃないの。どうして君と同じことをしたのに、俺は叱られるばかりなんだ?」
「ダグド様。黒竜はヒューマンにもデミヒューマンにも、怖れられる存在何でございますよ?わたくしのような竜人族、そしてあなたやピピの様な竜族には、竜の強さのランク察知能力が本能として刻まれております。この子はサラマンダー。あなたの対を成せる南の守護神です。だからこそまだか弱いこの子はあなたの存在に非常に脅えるのですわ。」
リリアナとリリアナにしがみ付きっぱなしの子供に対し、俺は素直にすまなかったと頭を深々と下げた。
すると、俺の頭にそっと小さな手を感じた。
ピピである。
小さい子がよくやる、痛い痛い飛んでけや、いい子いい子って奴だろうか。
俺は優しい気持ちになってピピをじっと見守っていると、ピピは両目を嬉しそうにかっと見開いた。
「黒竜を倒したぞ!」
「リリアナ。この失礼なガキのお尻を叩いていいか?」
「申し訳ありません。ピピの調整は私がいたしますからお許しください。」
「躾じゃなく調整か、怖いな!そうだ。君には相談に来たんだった。俺の子供が生まれたが、シロロがピンクの竜じゃないからとご立腹だ。次の満月までに赤ん坊をピンクにするか、エレノーラを目覚めさせないか、その二択を突きつけられた。どうしたらいいと思う?」
リリアナは、おほほと笑った。
それからピピを抱き上げると、お風呂に行ってまいります、そんな言葉を言って立ち去ろうとしたのである。
「リリアナさん?」
「お許しください、ダグド様。魔王様は対応外ですの。」
「君は散々にシロロの調教をしてくれたじゃないの。どうして今回ばかりは駄目なんですか?」
「だって、魔王様は黒竜を倒すべく動くものですもの。」
そっか、新たな黒竜の出現でフラグが立ったという事か!
魔王レクトルが黒竜を倒す、というゲームシナリオが俺の子が黒竜だったことで発動されたという事らしい。




