悪人の心理は悪人こそに聞け
アルバートルは俺に人気のない所に引っ張られ、そこで何が起きたか知らされると、教師に反発する不良みたいな顔付で俺に返した。
「ああ?」
返しの言葉も不良青年そのままだ。
彼は俺の身内であり、この領地の安全を守る責任のある方ではないだろうか?
だが、アルバートルは神様を模した石膏像に色付けしたような美丈夫だ。
それも、よく日に焼けた小麦色の肌に、海のような真っ青の瞳、そしてプラチナブロンドという組み合わせで彩色されたのならば、彼のこの軽薄さは仕方が無いと俺は諦めるべきなのか。
いや、俺は諦めてはならん状況にある。
ついでに言えば、こいつは俺の義理の兄ともなるのだ。
「シロロの説得について君も考えてちょうだいよ!」
「魔王様の説得なら生贄でお終いでしょうが。さあ、あなたの子供をぴゅるぽにしてしまいましょう。どうせ竜に変化した時の姿でしょう。あなたみたいに滅多に元の姿に戻らないんだったら、別にピンクでもいいじゃないですか。」
「畜生。そういう奴だったな、お前は!だが、言わせてもらう!そのピンクな竜は、お前の甥か姪だ!」
アルバートルは少々言葉に詰まって見せたが、負けず嫌いの彼が俺に言い負かされてお終いにする事は無い。
偉そうに鼻で笑うと、俺を嘲るようにして言い返して来た。
「子供の性別もちゃんと見ていない程度の父が!」
「見ました。ちゃんと見てつるんちゃんだったから、わかんなかったんです!はい、言います。シロロと同じく女も男も無いつるんちゃんでした。」
「つるんって、お尻の穴はありますよね?」
「あるよ。シロロにだってお尻の穴はある。あの子はいいうんこが出ると幸せになる生き物だ。」
「ああ、気が付くとうんこの歌を歌っていますものね。それで、ええと、性別が無いから彼は再編成言い出しているんじゃないんですか?ほら、自分的になんか不都合があるから大事な弟か妹はどっちかにしたいなあ~、とか。」
ぐす。
俺は涙にくれていた。
シロロは俺に可愛がられようと一生懸命だからか、常にお馬鹿な幼児喋りをしているが、その実は世界の魔王様という知略に溢れているはずのお方なのだ。
「そんな深いお考えがあったとは!」
「そこは適当な事を言うなでしょうよ!」
「え、適当だったの!凄く適当だったの?俺は本気で悩んでいるんだよ!エレは絶対に目覚めさせたいし、エレには生んだ子供を生んだ姿のまま抱かせてあげたい。エレは頑張ったじゃないか!エレを傷つけることなんかできないだろ?」
「そこですよ!」
俺はアルバートルに、何かのゲームの異議あり的に指を差されていた。
コイツは本気で俺を偉い奴扱いしてねえな!
「どこだよ?」
「その、何よりも大事なのはエレノーラ、その発言です。そこがシロロ様の癇に障ったと断言出来ます!ええ、あなたには俺の妹が一番大事。この上なく。このダグド領の何よりも大事というお言葉を聞けてとっても嬉しいですけどね。だったら、俺だって女に生まれたかったよ、そんな感じですよ。俺が女だったら、多分あいつよりも美女ってますね。はっ、あいつなんざ目じゃねえ、ぐらいに、俺はいい女で、きっとあなたの愛を勝ち取っていた事でしょう。全く、運命って何でしょうね!」
「お前こそなんでしょうね、だよ。何シロロ並みにひねくれてんだよ。欲しいもんあるんだったらくれてやるから、うだうだくだらねえこと言ってないで、真っ当な意見出せよ!」
「ああ?くれてやる?何ですかその言い方は!エレノーラにはそんな言い方はされないでしょうが!あなたは俺をそこら辺の馬の骨扱いばかりされる!」
上司に、ああ?という聞き返ししている時点で、アルバートルの方が俺をそこら辺の馬の骨扱いして下に見ていると思う。
だが、アルバートルの言うことも最もかもしれない。
確かにシロロが言ってきたことに対して、エレノーラが!という言い返しを俺はしてしまったのである。
「畜生!あいつは何だってぴゅるぽに拘るんだろうな!」
シロロの欲しがるぴゅるぽは、召喚士のデーモンに俺が竜を召喚して欲しいと頼んだ時に出して来た竜である。
シロロはそのピンクの竜に喜び、だが、幻でしかないそれは一瞬にして姿を消してしまった、と思い出す。
「一瞬で消えた幻のような存在だったからかな。」
「可愛いからじゃないですか?まるっきり攻撃力なども無い、無害な竜だったじゃないですか。当時のあなたのように。」
俺はアルバートルを見返した。
当時の俺が童貞だったように、この男は当時は猫被って振舞っていたよなあ、と、忌々しく見つめ返した。
俺に見つめられた彼は、当時の猫被っていた時と同じ笑顔で、ハハっと爽やかそうに笑った。
「可愛い青年のお姿にもあなたは変化もされた。竜の姿の時はそんなことは出来ないのですか?」
「そっか。俺がピンクの竜になればいいだけか。」
あ、アルバートルの笑みが凍った。
彼は数秒固まった後、俺に敬礼なんかしやがった。
「黒竜騎士団の名に掛けまして、解決の糸口を探ろうと思います。」
珍しく硬い口調で宣言した彼は俺の前から駆け出して行ったが、そうか、俺がピンクの竜になると、あいつらもピンク竜騎士団となっちまうな。
「そりゃ、必死になるしかないなあ。」
あ、笑い事じゃない。
本気でどうしようか。




