新しい家族を迎えた場合の上の子との接し方は間違えないように
なんちゃってグアム島に俺とエレノーラの子供を生かす方法を探しに行ったダグド探検隊。
そこで俺達は隠されし秘宝、ウーパールーパー系の竜族の子供を一人手に入れた。
アホロートルがサラマンダーという説はわかるよ。
だけど両生類じゃん、竜族でいいのかな?
そんな俺の疑問は他所に、新たな情報を手に入れた。
それは、竜族は別に卵で育たないよ、という探検隊の行動すべて否定してくれるものだった。
だが、それこそ俺には朗報だった。
これで子供をこの世に出して、エレノーラを苦痛から解放させてあげられるじゃないか!と。
(BYダグド)
我が子を生かす方法が見つかれば、あとは大事な母体であり我が最愛の人を救うために動くだけである。
俺はこの世界がご都合主義な魔法世界で良かったと思いながら、アウァールスインスラで得た知識をもとに、竜族の保育器を我が子用に改造して作り上げた。
あとは魔王様の力技による。
いや、本領発揮の新生物召喚術であろうか。
シロロは意識のないエレノーラのお腹を割らずに、ベッドわきの床に彼が作りだした魔法陣にエレノーラの腹の子を出現させた。
「ああ、エレに似ているのかな。」
以前にシロロによって見せられた気味の悪い竜との合成体などではなく、普通の人間の赤ん坊だった。
未熟児の赤子の姿という痛々しさ、早すぎるために脂肪が少なくて、目の周りが目玉が浮き出ているように瞼が重なり、背骨のごつごつが浮き出ている、という姿であっても、どこから見ても人間の子供の姿でしかない。
俺はかなりホッとしていた。
エレノーラがいくら覚悟を決めていたと言えど、彼女が胸に抱ける子が人型である方が彼女の心には何倍も良いではないか、と。
俺は人間の姿で生まれてくれた幼気すぎる我が子を抱き上げようと、両手を差し伸べながら前に一歩出た。
が、その赤ん坊はひゅうと息を飲み込んだ。
すると、一瞬で五歳児ぐらいの大きさの竜となったのである。
俺は初めて知った。
人が生まれてすぐに息を吸い込むようにして、竜は生まれ出た途端にこの世界に流れるエネルギーを一気に吸い込むのか。
「そうか。普通に産ませていたら、エレノーラは。」
「粉々でした。」
俺達の目の前に出現した俺の子の真実の姿は、黒竜の子にふさわしい真っ黒な鱗に覆われているが、体形は翼のあるプレシオサウルスに似た優美で美しいものであった。
「こんなに美しいのはエレの血なんだろうな。」
しかし、俺の横から発せられた声は、相槌どころか暗いものだった。
それも、物凄くがっかりが分かるという、不穏なものだ。
「ピンクじゃ無かった。」
「シロロ、俺はこっちでほっとしているよ。ピンクはあまりにも可哀想だ。」
「でも、ピンクじゃない。ぴゅるぽじゃない。色を変えてもいいですか?」
「え、ちょっと待って、それダメ!」
俺の子供の竜も、シロロの言葉にぞっとした様に見えるタイミングで、カッと両目を見開いた。
それでもって、いやあああという風に大きな雄叫びをあげたのである。
ミシミシと石造りの城なのに家鳴りがしたのは、俺の子供の内蔵パワーが火山の噴火ぐらいあったからであろう。
俺とシロロが幾重にも子供の周りにシールドを巡らせていなければ、この子は産まれた瞬間に城ぐらいは簡単に破壊していたはずだ。
雄叫びをあげた竜は直ぐに赤ん坊の姿に戻り、そして俺は急いで我が子を風呂に入れて綺麗にした後に、自分が作った保育器に放り込んだ。
「大き目に作っておいて良かった。さっき以上の大きさにはならないよな?」
「ピンクじゃ無かった。ぴゅるぽじゃなかった。」
俺は、やばい、と思いながら、シロロを急いで抱き寄せて抱き上げた。
ほら、二番目が生まれた時には第一子を二番目よりも可愛がって甘やかせと、一般的に言うではないか、とおろおろしながらだ。
魔王様に大事な我が子が再編成されたら、俺が女房に殺される!
「ありがとう!お前のお陰でお前の弟か妹が生まれたよ!お兄ちゃんだね。ねえ、君は妹か弟が君の気に入らない形だったら好きになってあげないのかな?そ、そんな事は無いよね。俺は君がどんな姿でも大好きなんだからさ。さ、さあ、ママを目覚めさせて赤ちゃんと対面させてあげようよ!」
俺の腕の中の魔王様は、あ、そうか、と呟いた。
魔王様の、あ、そうか、は、大体俺の感覚からずれていることが多い。
俺は恐る恐る、魔王様を見返した。
「シロロさん?」
魔王様は俺を見つめ返し、俺に最後通牒?いや、子供が生まれたばかりに変な呪いをかける魔女のような言葉をお与えなさったのである。
「そうか、どんな姿でもダグド様もエレママも子供を愛するんですよね。じゃあ、ぴゅるぽをぴゅるぽにしても大丈夫じゃないですか!」
「ダイジョブじゃない!子供の姿が変わったらママは悲しみます!」
シロロはむーんと唇を噛みしめた泣く一歩手前の幼児の顔を作ると、俺を憎々し気に睨んで来たのである。
「じゃあ、エレママを起こさない!次の満月までに赤ちゃんをぴゅるぽに変えるか、エレママをずっと起こさないか選んでください!」
「お前、まじ魔王だな。」
かってこの世で一番可愛らしかった魔王様は、俺の子供をピンクの竜に変えるか俺の大事な妻を目覚めさせないかを次の満月までに選べ、そういう酷い事を突きつけたのである。
どうして二番目の子供が生まれた時の一番目は、親への試し行為をするようになるんだろうね。
「シロロ。とりあえず悪い子のお前のお尻を叩いていいか?」
「僕は魔王だもん!悪い子なのは当たり前です。」
シロロは言い返すと、ぴゅん、と残像も残さない勢いで消えてしまった。
俺は保育器の中の赤ん坊と、眠り姫と化している妻を見つめ、とりあえず妻の横にごろんと横になって妻を抱き寄せた。
「ごめんな。お前になかなか赤ん坊を抱かせてやれなくてよ。」
どうするべきか。
俺は人間の悪い奴に相談する事にした。
自分の妹と甥か姪の事だ。
必死で考えてくれることだろう。




