もう帰ろうよ
地上では怪獣大戦争が繰り広げられていたはずだったが、それは数分しない間にグダグダな様相と変わっていた。
「われは呼ぶ。古とアースの契約による大いなる盾を。」
フェールが唱えると、地面からにょきッと土で出来た柱が六本生えた。
全てが同じ高さではなく、一番高い柱に向かって段々と低くなっているという、階段状にしたからここを昇って行ってちょうだい、そんなものである。
しかし、逆にそれ一つだけでは、一番高い柱に飛び上ったそこで召喚獣の炎攻撃の餌食になるだけでは無いのか?
「この馬鹿!もっとガンガン作れ!これじゃあ火炎処刑台階段だろうが!」
「だから!団長の足元をそのまま柱にして上にあげるって言ってんじゃないですか!ぴょんぴょん跳びたいから柱おったてろって言いますけど、魔法の盾が出現できるのにも時間制限があるんですよ!それに一時に同じ魔法の連発できません!すでに複数魔法で柱数本立てるだけでもすごいMP消費です!」
「お前は!エランもイーヴも進化しているのに!まだMP言うか!」
「団長!MPなかったら魔法なんて唱えられません!そんで、俺っちだって進化してます!これだって凄い進化です!こんなことできる人いません!」
アルバートルはフェールに無理難題をふっかけていた。
イヴォアールは何をしているのだと思えば、シロロに誘拐されて巨大蚕の背に乗せられて、召喚獣のすれすれをシロロが蛾を誘導するたびに頑張って剣を振るっている。
カイユーは?
彼は……バトルフィールドの隅っこの方でいじけていた。
多分ダグド領の8ミリ弾を全弾打ち尽くしてくれたんだな、このやろう(怒)
そもそも召喚獣に8ミリ弾が効くわけねえだろうが!
で、アルバートルが近接戦に持ち込もうと必死なのは、奴こそカイユーの師であったからであろう!
くっそ、この考え無しの金食い虫が!
まだまだ弾の補充が足りないダグド領において、ガトリングを封印するべくダグド領に戻ってくれているティターヌの株が、俺の中ではうなぎのぼりだ。
召喚獣は、シロロが飽きたらお片付けするだろう。
俺は戦闘狂の奴らのフォローは諦め、地下の陰険だが常識派達にこそ望みをかけるべく意識を変えた。
「……エラン、それからリリアナにシェーラ。アルバートルとシロロが使い物にならなくなったので、君達だけでその子が入っていただろう保育器について調べてくれないか?元々の俺達の目的は、エレノーラの腹の中の子をエレノーラの腹から出した後はどうするか、って奴だっただろう?それが使えるならそこに今度は我が子を入れてしまえばいいのかなってね。」
「あ、そうですわね。でも、普通に産んで、普通に育てるのはできませんの?エレ姉はそのつもりで沢山の産着を作っているじゃないですか。」
竜の生態の事は何も知らないに等しいシェーラが当り前の疑問を改めて俺にぶつけたが、俺は彼女の言葉によってエレノーラの健気さを知った。
俺は彼女が産着を作っていた事など知らない。
俺には知らせずに竜の子についてシロロに聞いていた彼女は、知らない俺が罪悪感などを抱かないように、だが、愛する子供のために産着をせっせと作っていたというのか!
俺は生んだばかりの子供を引き離される彼女の事を思って、申し訳なさで泣きそうになった。
俺は彼女を不幸にするばかりか?
「そうですわね。そうですわよ。エレ姉に普通に産ませて育てていけばいいだけですわ。人間だって早く生まれ過ぎた子だって、出来る限り温めて大事にすれば月満ちて生まれた子と同じになりますもの!」
リリアナの追撃のような言葉に、俺こそ何を言い出した、とリリアナをまじまじと見返してしまった。
シルクスクリーンというモニターから彼女の顔を、でしかないが。
そして俺は間抜け声を上げていた。
「え、だって、竜は卵で子供を育てるのでしょう?」
リリアナは自分が抱いている子供を見下ろし、それから俺はそこにはいないが、俺の顔を見るような感じで目線を寄こした。
「わたくしもシロちゃんも勘違いしていたかも、ですわ。」
俺はシルクスクリーンの中でのリリアナの姿を見返して、彼女の腕の中にいる竜族の幼子の存在によって気が付かされた。
竜族の卵の不可思議の本当の理由。
「あ、そっか。」
竜族は子供を殺戮から守るために卵に入れて地中に入れていただけで、眠らせた子供が育てば確かに大きくなる卵だっただろうが、そんな状況でなければ普通に親が子供を育てていただろう。
「ええと、取りあえず保育器みたいなのは俺が作るとして、君達は出来る限り早く帰ってきてほしいから、その階段を上がって戻って来て。」
「ここからわたくし達をホームタウンの魔法で戻せませんの?」
「そうですわ。ダグド様。リリアナは子供を抱いていますのよ。」
そこでエランがすっとリリアナとシェーラに身を寄せた。
「しぃ。ダグド様はシロロ様より出来ないことが多いのですよ。配慮して差し上げてください。」
リリアナとシェーラが同時に吹き出した。
俺はまっすぐに嫌な奴直進中の元司祭に舌打ちをしたあと、とにかく戻って来いと威厳も無くがなり立てていた。




