子供の遠足には必ず引率者を付けるべし
電話ボックスのような入場口に一歩足を踏み入れれば、そこには地下へまっしぐらな急な階段が待ち構えていた。
そんな怪しい階段でも、この世界で唯一無二でチートな存在の魔王様が、ポテポテと可愛らしく降りていくのだ。
誰もが抱いていたはずの警戒心が簡単に消え去ってしまうのも、当り前と言えば当り前の帰結と言える、か。
「死する覚悟で進むべし!」
「お前こそ死ぬなよ!カイユー!」
いや、仕方なくなんかない。
お調子者のカイユーとフェールが途中フザケ始めるのは計算外だ。
「おい!お前ら!」
ばしん!
俺は通信に弾かれた。
「なんてこった。」
俺の目にしているモニターは真っ白のただのシルクスクリーンとなり、俺は茫然としながらそれを見つめるしかなくなった。
俺はアルバートルかシロロに声を上げようとしたが、モニターが生き返る方が早かった。
再びシロロ達のいるはずの地下への階段通路映像が映し出されたのだが、それはジェットコースターに乗った人の視界そのものだった。
ものすごいスピードで階段を下るという階段しか見えない映像なのだ。
「うきゃあああああああああ。」
シロロの有頂天な喜びの雄たけび。
グラグラ揺れて俺こそ吐きそうになるFPS(一人称)視点。
「うきゃああああ!」
「駆け進むぞ!我らは進軍せし、進軍せし!」
「はためく旗印こそ、われらが王、シロロ様だあ!」
全てを察した俺は、両手で頭を抱えるしかないだろう。
「あんの馬鹿子達は。」
カイユーとフェールは、恐らく彼らの前を進むシロロの手を互いに繋ぎ合うと、シロロをぶら下げながら階段を駆け下りていっているのだろう。
フェールの言葉通り、シロロをはためかせながら。
そして俺を締めだした魔王を皮肉な目で見つめながら、大人な俺としてはこの馬鹿な子供三人の数秒後も読めるようだった。
いや、願ってしまったかもしれない。
落ちてしまえと。
けれど、俺はそんな自分の思考を一瞬で反省した。
本気で落ちちゃったのだ、あの馬鹿達は。
カイユーとフェールに両手を高く掲げられ、ブランコ状態となっている状態をシロロは異常なほどに喜んでいた。
そんな魔王様が、その可愛い体をぶらんと大きく揺らしてしまうのは、彼が考え無しの子供でしか無い証拠だろうか。
三人の危かったバランスが、危かったからこそ大きく崩れたのである。
彼らは普通だったら死んでいるだろう勢いで、深い深い地下に続く階段を落ちていった。
俺の声が出ない程に。
西部劇映画で見る丸い藁クズが荒野を転がる風景、そんな風にして、シロロ達はくんずほぐれつ状態で真っ暗な地下へと消えてしまったのである。
凄まじい打撃音を周囲に轟かせながら。
ガタンガタンガタンゴゴゴゴゴゴガタン、ゴゴゴオオオン。
何かを大きく打ち付けるようなドーンという大砲のような音が響いたが、それが彼らが階段下かどこかに到達した最後を知らせる音だったようだ。
そう俺が考えたのは、その音を最後にして、しんとした静寂が訪れたからだ。
エランが階段を駆け下りる靴音が大きくなってくる。
シェーラの軽い足音もどんどんと俺の近くに迫ってくる。
それなのに、フェールもカイユーも何の音も立てない。
シロロだって。
俺は彼らが死んだと思った。
彼らが階段落ちをしてから、ずっと、モニターが真っ暗なブラックアウト状態なのである。




