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転生先が物語分岐の中ボスという微妙な立ち位置だった  作者: 蔵前
俺達は一緒に生きて来たんだ
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可愛い娘を持つ父親として

 イヴォアールは直ぐに真面目な顔に戻すや、すぐに芝居がかった仕草で再び印を結び、神様の聖なる半径十メートルの世界を増強しはじめた。

 どうだ、俺も格好良いでしょう?そんな感じだ。


 イヴォアールはアルバートルの副官らしく地味に控えているが、アルバートルの長年の親友である以上アルバートルと同じぐらいに俺からとりっぱぐれが無いように、カッコいいもの好きの俺を見惚れさせようと頑張るふしもあるのだ。

 って、嫌な二人だな、全く!


「わたくしは、こ、こんな人達に、こ、こい、恋い焦がれた事を、か、考え直したほうが、いいかも、ですわ。」


 アリッサが珍しく泣き言を吐いたじゃないか。

 それもそうか。

 アルバートルとイヴォアールのせいで、彼女は背中に化け物の血肉を受けた哀れな格好となっているばかりか、銃の音に脅えながら四つん這いでイヴォアールの方へとのそのそと移動しなければいけないのだ。


「アリッサ、大丈夫か?今すぐにダグド領に帰るか?」


 四つん這いになっていた彼女はピタリと動きを止めた。

 顔までがくりと下に降ろしたせいで表情も見えない彼女は、背中を小刻みに揺らしているだけで、帰りたいも帰らないも何も言わない。

 俺はその憐れな姿に心臓がぎゅうと掴まれたようになってしまった。


「アリッサ、今から戻す。」


「……いや。」


「どうして!君はそんなに傷ついているのに!」


 彼女はぐんと顔を上にあげた。

 ヘイゼルの美しい瞳は真ん丸に見開かれ、上品な口元は平べったくなって歯を喰いしばっている。

 その今にも泣きだしそうな顔は、三歳か五歳ぐらいの幼児の顔付じゃないか。

 俺の内心はもう、うわあああああ、と崩壊寸前だ。


「アリッサ。君を今すぐに戻す!」


「いや!」


「アリッサ!」


「で、でも、帰っても私に居場所はないじゃない!リリアナは洞窟の奥だし、エレノーラは具合が悪いからそっとしてあげなきゃだし、ダグド様こそエレノーラにかかりきりじゃない!私は誰に甘えたらいいのよ!」


 四つん這いという格好で、まるで幼児の様にして泣き言を叫んだアリッサは、ああ、なんと可愛いのだ。


「ああ、帰っておいで。今すぐにリターンを君に。」


「いや、アリッサはこのままで。」


「え?」


 あれ、銃の音も止まって、いる?

 て、いうか、アルバートルは撃つのを止めたどころか、アリッサに駆け寄ると彼女をひょいっと抱き上げたじゃないか。

 それで、え?洞窟に向かって駆けだした?


 え?


 おい?


 俺の頭はただただ真っ白で、ハテナマークがいくつも並んだ状態だ。

 俺の意識を戻したのは、イヴォアールが吐いた大きな溜息の音だった。


「ダグド様。俺の剣を呼び出してください。選手交代です。俺が一人で残りのグールを斬り殺す事になりました。」


「え?アルバートルは?」


 俺はこの流れの意味が分からないが、とりあえずグールの殲滅が必要だからと言われるがままに長剣をイヴォアールに差し出した。

 俺が転送させた剣を手に持ったイヴォアールは、疲れた様にして再び大きな溜息を吐くや、さっと鞘から長剣を抜き、今までフィールドにかけていた聖なる魔法を自分自身に纏い始めた。


「イヴォアール?え?」


「ダグド様。アルは哀れな生き物が落ちているのを見つけたら、とりあえず拾っちゃう人だって、フェールから聞いていませんでしたか?」


「え、奴が拾うのは猫ばっかりでしょう?」


「……女性を揶揄する言葉で、猫ってよくありません?」


 イヴォアールは俺になんてこったいな言葉を吐き捨てると、ざざざと風のような音を立ててグールの群れへと駆けこんでいってしまった。

 取り残された俺は、え?え?と混乱するしかない。


 え?


 猫って女の子の暗喩?


 え?


 ああ!


 いや、ちょっと待ってって、まずアルバートルはうちの娘連れて洞窟に、って、おい、洞窟内でアリッサに何をする気だああああああ!

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