ゲーム設定などケツの青いガキのもの?
イヴォアールが言った通り、彼の足元から青白い光の半円の魔法陣がアルバートルとアリッサを守れるようにして展開している。
その上、なんと、アルバートルの足元には半径五メートルの魔法陣がさらに輝いているではないか。
このように部分的に聖なる土地に変えるフィールド操作は、ゲーム上では司祭ならば可能なのだが、イヴォアールは剣騎士でしかなかった。
聖騎士なので宗教上の秘蹟も行えるが、魔法に関しては教会の制限を受けていたために、彼はヒールと補助魔法のいくつかが初期レベルしか扱えないという設定では無かったか?
「教会による魔法の制限解除は簡単でした。教会を通して歪んだ神を崇めるのではなく、自分の心のままに神に祈りましたら、新たなスキルが生まれたのです。」
「わお、すごいな。」
「教会が唱えた神の名ではなく、純粋に、心のまま、神、とだけ願ったその時、俺の信仰心は遠くまで、ええ、神のおわすそこにまで届いた気がしました。」
うん。
安彦が男根の暗喩を君達の神様に付けたんだもんね。
そんな名前を唱えなくなったら、この世界に存在している神様だって気をよくして、きっと素直な信者に応えてくれるね!
冗談めかして心の中で言ってみたが、俺と安彦が作った設定のために、この世界の人達の祈りを神から遠ざけていたと、俺は今さらに思い当たった。
そこで、俺は深い罪悪感から逃れたいと、心から彼らに(心の中だけで)謝罪をすることにした。
ごめんなさい。
「よっし気持ちの切り替え終わり!イヴォアール様がガンガンと神がかってくれる今だ!アルバートル、チャキチャキと雑魚敵の殲滅排除をしてくれ!」
「どうしてこうなったかの質問は良いのですか?」
「どうしてこうなったの?」
アルバートルは皮肉そうな笑みを俺に見せた。
そして、そのいつもの自嘲的な笑みを見た事で、俺は何が起きたのかを彼に聞く事を止めた。
「聞かなくていい!俺は君達の勇姿さえ眺められればそれで最高!」
「まあっったく。意味が分からんお人ですよ、あなたは。アリッサ、俺の近くは危険だ。イヴォアールの背中に隠れてくれ。」
「ええ、良くってよ!」
「では、団長は玩具を片付けて。この聖域は時間制限がありますから連射できるものでお願いします。」
アルバートルは軽く舌打ちをするとグロブス召喚をし直し、なんと両手にベレッタといういで立ちとなった。
「どうして!」
「ダグド様、二丁拳銃はもともと俺の持ち技ですよ?」
「いや、そうじゃなくて。銃騎士には短銃が二挺までって制限があっただろう?」
「グロブス召喚で呼び出せる制限でしょう?常に一挺を懐に忍ばせとけば、そいつは三挺を使う事が出来る。」
「お前が常にバレッタを手放さない理由が分かったよ。」
アルバートルはこれ見よがしに銃を撃ち始め、アリッサは両手で耳を押さえながらイヴォアールの方へと駆けだした。
しかし、そこで、天空から黒い影が猛スピードでアリッサ目掛けて急降下してきたのである。
鳥でも羽つきのトカゲでもない。
背中に鷲の羽を四枚貼り付けられ、その羽で空を滑空できるようにか、腰から下を切り落とされているという、哀れな上半身だけの男だった。
すでに死んで自我もないグールでしかないが、それは教会の教えという呪いを実行するべく上空から両腕を伸ばしてアリッサへと降下してきたのだ。
ぼふゅん!!
「きゃあ!」
「えげつな!」
「娘を助けて下さりありがとうでしょう、お父様。」
「そうですよ。俺の勇姿も妻に伝えて下さいね。お父様。」
俺は、ありがとう、そうするよ、と気さくに答えていた。
気さくな声が出たかな?
イヴォアールが空飛ぶ敵に向けて投げたナイフは、大人の男性の親指サイズのものだった。
そのナイフは正確に敵の額に刺さり、刺さった途端にアルバートルは左手に呼び出していたベレッタでもって、その小さなナイフを正確に撃ち抜いたのである。
イヴォアールが投げた小型ナイフが銃撃で爆発したという事は、それは黒色火薬が仕込まれていたものだったということだ。
小型ナイフを正確に撃ち抜いて爆発を起こしたアルバートルが凄いのか、そんな爆薬付きのナイフを常に隠し持っていたらしい男に脅えるべきか。
「お前らは本気で嫌な夫婦だな。」
俺のかけた言葉で俺の動揺に気が付いたか、イヴォアールとアルバートルはハハハと見事なバリトンで二重奏になった笑い声を立てた。




