発端③
物心がついた時には石造りのこの巨大な城に住んでいた俺は、城にあったものを適当に纏うことから始めたが、今の俺の身に着けている服は、飾り気のない白いシャツに黒のズボン、そして足元は普通の茶色の革靴だ。
「普通に十五歳の少年の格好だよな。」
「どうして十五歳だって言い張るんです!」
そう言われて何となく気が付いた。
俺は今日までの事が急にぼんやりしてきたのだ。
あれ、俺が俺であると思い出したのは今か?
それで、ええと、物心ついてからが十五年、これは正しいんだよな。
つまり自己認識をするようになってから年数を数えていたと、これは認めよう。
「済まない。間違っていた。そっか、俺は二十歳くらいかもしれないのか。いや、体が成長した覚えも無いな、そういえば。」
うんうんと自分に相槌を打ちながら彼らを見返したのだが、俺がこんなにも友好的なのにもかかわらず、彼等は俺への反発心を隠すどころか殺気を漲らせての激情を溢れさせていた。
殺気は間違いないであろう。
なぜならば、赤い髪の勇者は白い神官を押しのけると、大きすぎて切れ味の悪そうな太い剣を掲げ持ち、そのまま俺に切りかかって来たのである。
「もういい!黒竜よ、死ね!」
「ローシュったら!」
俺に向かって飛び出した青年に対して悲鳴のような声を上げたのは、黒衣のローブを纏った金髪の女だ。
女が大きな杖を閃かせると、纏っていた黒いローブが大きく閃いた。
ローブがはだけた事で彼女の水着の様な衣装を目にする事になったのだが、いや、あの、魔女という属性にふさわしい、出るところは出ている体型で見せて下さりありがとうとお礼を言うべきなのかもしれないが、俺には大味すぎてピクリともしなかったというのが本音である。
どことはいわないが。
俺に否定されているとも知らない彼女は、その魔女姿にふさわしく呪文を唱え出し、なんと、赤髪の勇者の攻撃を増幅させるかのような魔法を放ってきた。
「メテオ!」
俺へと目掛け飛ぶのは、赤黒い炎を纏った石つぶてだった。
それは絶対にメテオとは言わない。
そして、彼女が放った真っ赤な石よりも赤々とした勇者がその石と同じぐらいのスピードで俺へと駆け、さらに見れば、あのシロロは勇者を保護する補助魔法の詠唱らしきものを呟いているでは無いか。
「すごいな。俺はまた死んじゃうのかな。」
彼等による俺の死に対して俺は慄かねばならなかったかもしれないが、その時の俺は、自分のゲームの世界が実写化している事にただただ感動していた。




