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転生先が物語分岐の中ボスという微妙な立ち位置だった  作者: 蔵前
俺達は一緒に生きて来たんだ
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選手交代と冒険への一歩

 シロロはノーラが見つけた岩、それだけ石灰岩ではなく大理石を加工したらしきものに手を当てると、古代語の呪文を唱えた。

 俺には唱えられない言葉であるが、その言葉だけは通訳が無くても俺に理解できたのは不思議な事だ。


 いや、種明かしをすれば、意味が分かるのは俺が制作者であったからだ。


 俺と友人が作った呪文を、ラテン語翻訳にぶち込んで変換させただけであるからして、この世界の古代語を話すことはできないのに理解できるのはそれが理由だ。


 さて、シロロが開けゴマ(意訳)と唱えた事により、岩の形をしていたそれは、SF映画に出てくる見ため、ドーム型の映像機のようなもの、に変化した。

 幻術で岩に見せていただけで、大理石でもなかったようだ。

 ドームの中では、紫やら赤やら緑に青と、原色をおびた電光が雷の様にして光り続けている。


「エラン。リリアナの手をこの上に乗せて。」


 エランが意識のないリリアナの手の平をドームに押し付けた。

 すると、ゴゴゴゴと大きな音が洞窟内で起こった。


 真水プールとなっている洞窟の池の真ん中あたりから、公衆電話ボックスのような四角いものが突き出したのである。

 電話ボックスに似た形のそれは電話ボックスのようにガラス張りではなく、雲母かオパールのような七色に鈍く光る質感の白い壁で覆われていた。

 そしてそれは完全に姿を現わすと、呼び出しキーを操作したシロロのいる方角にむけて、ボックスの壁がぱかっと開いたのである。


 それだけじゃない。

 彼らの方角へ光の白い道がボックスから飛び出して来たのだ。


「きゃあ!……って、大声を上げたのに耳が痛くないわ。」


「うん。ノーラ。共鳴魔法が一先ず停止されたからかな。で、どうする?道が開いたから僕達は行くけど?」


「うーん。アリッサはリリアナについて行ってくれる?私はダグド領に戻る。エレノーラの代りに領内を回らないとだし、ねえ、モニークも子供達の世話をリリアナに言付かれているし、ねえ。」


 モニークはノーラに頷いて見せると、彼女はあっさりとイヴォアールの腕から抜け出してノーラのもとへと歩いて行った。


「あ、ねえ?私も戻っていいかな?私が子供達の面倒見るから、モニークにリリアナの面倒を見てもらう、とか?ほら、私は何度もミスしているし。」


 俺は覗き見をしながら、アリッサ可愛い、と、よそ事を考えていた。

 いや、よそ事ではないか。

 俺の前では、~ですわ、というマダムみたいな話し方しかしない娘が、年相応の言葉遣いで、それも落ち込んだ風にして話をしているのだ。


「これを可愛いと言わずして何とする!」


 あ、声に出してしまった。

 全員が俺への不信感な表情を表に出しやがった。


「うほん。いいか、アルバートルがちょっとヤクルスで手間取っている。ノーラとモニークは、いいかな、現在使用者がいない東の端にある三軒にホームタウンの札を張ってくれ。それから、その住居を移動させるから、巻き込まれないように住人への注意喚起を頼む。」


「わかったわ。それは絶対にモニークがいないと大変。自動車の運転はモニークが一番上手だものね。」


「任せて、領地の端から端まで運転させていただきますとも!」


 仲が良い二人はワハハと笑いあうと手をパシンと打ち合い、俺はその可愛い仕草の最中に彼女達をダグド領に戻した。


「じゃあ、アリッサ。君には洞窟の外に出て、これから移動させる三軒をどこに建てるかヤクルスと交渉してくれるか?」


「え、ええ。でも、いくら小さくてもあの三軒、いえ、一軒だって建てられる広さの平地なんて無くてよ?」


「ああ。さすが、君はよく見ている。ヤクルスが欲しいのは人間用の住宅じゃ無くてね、子供達が育った野菜工場が欲しいみたいなんだ。出来るか分からないが、あの家々をこちらに持ってきたそこで解体と組み立て直しをしようと思う。電気が無いから温室は無理でも、雨露をしのげる広々とした建物は作れるかな。」


「うーん分かったわ。とにかく、どのあたりに作りたいか話を聞いてあげればいいのね。」


「うん。木を相当数切り倒すことになってもいいのか、もね。ああ、そうだ。アルバートルがヤクルスの色仕掛けで死にそうなんだ。そっちをまず助けてあげて。」


「任せてください!」


 アリッサは胸を叩くと、先程とは違う溌溂とした表情で、小鹿のように洞窟の外へと駆け出して行った。


「さて、リリアナの面倒は女手が無いが大丈夫かな?」


「酷いわ。ダグド様。ノーラとモニークが戻って来たなら、私も少しぐらい手が空きましてよ?」


 シロロが呼び出してくれたのか、黒髪のシェーラがシロロの横に立っていた。

 気の利く彼女は、熱帯でプールがあるという情報は得ていたらしく、水着の上に裾を短くした着物を着ていた。

 裾から長い足をこれ以上ないぐらいに見せつけて、高い頬骨のきりっとした顔を余裕そうに微笑ませれば、時代劇の女剣客そのものだ。


「君はやる時は本当にやるねえ。その姿を残しておきたい。」


「まあ、ありがとうございます。ティターヌが色々と相談に乗ってくれるのよ。」


「そうか。気が付く優しいあいつは、ダグド領の警護に一人戻ってくれたか。では、シロロ探検隊、君達の健闘を、いや、危険だったらすぐに戻って来ておいで。」


 シロロはニコッと笑ってリリアナを抱くエランと地下への隠し入り口の中に入り、フェールとカイユーはお道化ながら後に続いた。

 その後をシェーラがくぐると、外からイヴォアールがその扉を閉めた。


「イヴォアール?」


「彼らが戻れる場所を確保しておかねば。この出入口、内側から開かない仕掛けだったら大変です。」


「ついでに団長の機嫌を宥める役も必要だものね。」


 イヴォアールは、そうそう、と気さくに笑った。

 シロロ達が進んで行ったこんな大冒険になりそうな探検、逃したと聞いたアルバートルの怒りの方が俺達には恐ろしいではないか。

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