洞窟には探検隊
石灰で作られている清潔な洞窟の奥には、石灰ではない大岩が、目立たないようにして一個ぽつんと転がっていた。
ノーラは数歩先のシロロの近くにまで行くと、彼の耳元に囁きかけた。
物凄く声を押さえた囁き声で。
「ねえ、シロちゃん?あれじゃない?あの岩だけ違う石だわ。」
シロロはそうだと彼にしては低い声で答え、そのままノーラの手を引いてノーラが見つけた大岩のもとにてけてけと駆け寄った。
「アリッサの言う通りです。探し物はノーラに限るって。」
「まあ!ありがとう。でもね、虫がいるところだけは呼び出すのは止めてね?」
囁き合っている二人の間に、女性の揶揄うような囁き声が割り込んだ。
「あら、ノーラはミミズを捕まえたりしていたじゃない?」
ノーラは裏切り者の親友を軽く睨んだ。
真っ赤でフワフワの長い髪を持つノーラの親友は、その髪色と同じぐらい真っ赤に頬を染めて、すぐにごめんと呟いた。
「え、何でごめんなの?」
「だって、あたしだってノーラと一緒にミミズを捕まえたりしたじゃない?あれはダグド様がコンポスト作りたいって言うからで、ノーラは好きでやっていたわけじゃなかったわよね。」
「そうそう。あれはダグド様の為。あの頃の私達はダグド様に頼まれたらなんだってやっていたわよね。うーん、今のあなたはイーヴ様の言う事しか聞かなくなっちゃった、けど?」
「もう!ノーラったら!」
完全に真っ赤になったモニークを近くにいた彼女の伴侶、イヴォアールが優しく抱き寄せた。
「ごめんね。君をこんな危険な場所に呼び寄せて。でもいつだってもね、君が望むことは俺は叶えたいと頑張るよ?」
「うわあ!熱い。ここはこんな涼しい所なのに!」
ノーラは新婚夫婦を小声で揶揄いながら自分を扇いで見せたが、彼女がひらひらした手首は横から来た男に掴まれた。
「俺だって同じ気持ちだよ。ノーラ、洞窟の中で怪我はしていない?」
ノーラは自分の手を掴む薄茶色の髪の青年、彼女の婚約者のカイユーを見上げると、彼女にしては珍しくぽっと頬を染めた。
「ノーラ?」
「いや、だって、こんな幻想的な洞窟内で恋人と一緒でしょう。こんな役得があるならば、小さな這う虫がそこいらじゅうにいる場所でだって、ええ、私は嫌がらずに出向くというものよって。」
「もう!俺は君が怪我をしないかとひやひやなのにね。」
「カイユーがいざとなったら守ってくれる、でしょう?」
カイユーはノーラの足元が崩れそうなほどの笑みを見せ、彼女が崩れないように彼女の腰に腕を回し、その通りだと、彼女に言おうとした。
しかし、別の男の抑えた声が二人の間を割って入った。
「あ、それ無理。イヴォの旦那はほら、モニークちゃんとイチャイチャ続行してるからモニークちゃんは平気だけどね、ノーラは危険。呼ばれたらほいほい来るもんじゃないよ?」
カイユーはひょいとノーラの腰から腕を抜くと、口と顔を出して来たフェールにその腕の肘を当てた。
フェールは痛がるふりをしながら胸に手を当て、お前は団長一番だろうが、とカイユーの耳元に囁いてさらにカイユーに追い打ちをかけた。
「フェール。」
「だからね、ノーラ。危険な時は俺っちの傍においで?」
「ええええ!フェールもノーラが良かったの!」
洞窟内でアリッサの声が大きく響き、ノーラは、いや、洞窟内にいる全員、声を上げたアリッサさえも両耳を塞いだ。
この洞窟は不思議な洞窟だ。
内部が見た事もないぐらいに美しく幻想的でもあるが、音の響きが普通の洞窟と違うのである。
大きな声、それも女性の高音の声が特にであるが、その上げた声が洞窟内の壁に乱反射して波長がおかしくなるのか、キーンという尖った音となって鼓膜に襲い掛かるのだ。
「ごめん!またやっちゃった。」
「仕方ないよ。アリッサ。でももう一度やったら、次が出来ないように異界に閉じ込めるからね。」
アリッサはすまなそうにシロロに頷き、シロロの隣に立つエランは気絶しているリリアナを抱き直した。
洞窟にシロロとリリアナ、そしてアリッサとエランが潜り込んですぐ、アリッサは洞窟内の水に足を滑らして小さな悲鳴を上げた。
その悲鳴による洞窟内の共鳴を耳に受けたリリアナは気を失い、そこで急遽ダグド領にいたカイユー達がシロロによって呼び戻されたのである。
リリアナをダグド領に戻せば良いのではと、呼び出されたノーラは現状を見てシロロに言ったが、シロロはノーラに首を横に振った。
「この仕掛けは竜人族のものですもの。先に進むにはリリアナ先生がいた方が良いと思います。それに、隠し扉を探すのは人が多い方が良い。」
そう、俺とアルバートルが洞窟前でヤクルス達にマンション建築計画を強請られている間、シロロ達は着々と先への冒険ルートを探っていたのである。
俺のぴゅるぽの為に!




