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転生先が物語分岐の中ボスという微妙な立ち位置だった  作者: 蔵前
俺達は一緒に生きて来たんだ
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ヤクルスの村?町?というか?

 ヤクルスは人語を喋れるが人族ではない。

 人族で無いのは外見だけでなく、価値観こそ違うと考えるべきであった。


「帰っていいですか?」


「……ダグド領にはマムシもヤマカガシもいないからさ、もうちょっと。」


「いえ、でも、シロロ様はヤクルスの卵を知っているじゃないですか。もうそれで卵の殻を作ってしまいましょうよ!」


 アルバートルが午前中とは違いめちゃくちゃ冒険へのテンションが落ちているのは、ヤクルスと俺達の価値観の齟齬を目の当たりにさせられたからだろう。


 人間が町と聞けば、そこには住居に可能な建造物が立ち並び、交通の為に敷かれた石畳あるいは整地された道が走り、水道が無ければ井戸などの設置など、社会的生活環境が整っている場所を想像するものである。


 しかし、蛇族でしかないヤクルスは違った。

 同種族が沢山いる場所、それが町だった。


 ヤクルスにおいて、安彦と清美が二人だけだったら、俺は懐かしいで涙を流していただけだろう。

 成長したヤクルスの顔が、雄が安彦、雌が清美、にしかならないのだとしたら、そこはとんだクローン牧場な気味の悪い世界が広がるだけだ。


 ああ、俺は何を忘れていたんだろうね、血統書付きの犬猫って見分けがつかないぐらいにそっくりに繁殖しているじゃないか。


 自分を責め立ててももう遅い。

 ヤクルスが案内してくれたのは、パガットケープ入口前で、そこ周辺に二百くらい繁殖していたヤクルス達が一斉に出迎えた、という状況だ。

 安彦と清美とその二人を合成した幽霊顔の幼体の三種類顔だけで構成され、そいつらだけがうぞっといる営巣地だ。


「泊まっていけと言われましても、あの、我々は勉強が済めばダグド領に戻らねばならない身の上でして。」


 真水プールもある洞窟内は熱い世界においては涼しく清涼で、また、内部が青く輝くという美しく幻想的でもあり、観光で入った俺にはそれは凄い感動を与えたとも思い出す。

 しかし、どんなに素晴らしくとも洞窟は洞窟であり、そこで一晩過ごせと言われたら、俺は裸足でも逃げただろう。

 住環境の整ったタモンのホテルに。


 けれども、ヤクルスがアルバートルに向ける誘いは、その涼しい洞窟内には入るな、この暑いジャングルの木の上で寝ろというものなのだ。

 今のアルバートルはタモンに帰りたい俺そのものであり、客人として今晩持て成したいと囁く清美に必死に抵抗していた。


 奴こそどこでも野宿できた兵士だったはずだが、今の奴はダグド領の自分の居心地の良い部屋で、清潔なシーツの敷かれたふかふかベッドじゃないと寝られない男となっている。

 俺が意地悪心で、泊ってやれよ、と言おうとした時、アルバートルを誘っていた清美は自分の本当の気持ちを吐露しやがった。


「ろろろ※に聞きました。ダグドのお家は温かで涼しくて楽しかったと。私達もそんなお家に住みたいです。あなたわたしと泊まるの嫌なら、そんなお家を建ててください。」

 ※ろろろは子供達をさすヤクルス語らしいよ!どうして他種族の子供がしゃぷなのかわかんないけどね!


「突然だな!」


 思わず声を上げてしまったが、清美め!

 そういえばこいつは婚約するや、結婚情報誌やら新築マンション情報やら、次々と安彦に手渡していた魔女だったじゃないか!


「人は墓を建てて死んだものを悼むと聞きます。わたしたちはろろろを七人も失いました。可哀想なろろろのメモリアルが欲しい。」


 安彦!

 メモリアルなんてこの世界の人間にだって概念ないぞ!

 俺はシロロがヤクルス大嫌いという理由を今実感している。

 しがみ付いたら要求が叶うまで離れない、なんという子泣きジジイ妖怪だ!


「卵の時しか思い出が無いろろろの思い出が欲しいのです。」


 もう一人の清美が群れから飛び出てアルバートルにしがみ付いた。


「思い出って生きていくのに大事なものでしょう!」


 ひぃ、もう一匹の清美の出現だ。

 際限ねぇな!こいつら!

 うわあ、スタンバっている清美多すぎ!


「どうしましょう、ダグド様!」


「あ、そうだね。シロロに!って、いねえ。あれ、リリアナとアリッサもいないぞ!エランまで!」


「ちょっと待ってください。もしかして、ここには俺とティターヌとフェールしかいないって事ですか?」


 俺はアルバートルに真実を伝えてやった。

 俺だって今気が付いて、嘘ぉ!という気持ちであるという事が彼に伝わるといいな!と思いながら。


「すまない。カイユーが駄々こねるのでフェールはダグド領に戻してある。ティターヌは勝手に隊列を抜けているから、だからあの、今の君のそばには。」


「誰もいねぇ俺一人かよ!」


「ゴブリン峠も一人で頑張ったんじゃん?大丈夫。なんかあったら、たぶん、隊列抜けたティターヌが助けてくれるかもだし。ヤクルスとの友好は頼んだ。」


「お家欲しいの。」

「建ててお兄さん。」

「お家貰うまで人質ですぅ。」


 やばいな。

 清美が本性だして、アルバートルを取り囲んで、彼の腕やら腰やら、しがみ付けるところ全てに腕を回してしがみ付いているじゃないか。


「ちょっと待ってください、君達。俺は人族の猿ですからね。ほら、彼氏さんもいるんでしょう、あなた方は!さあ、離れて!」


 清美たちはきゃあと叫んでさらに数を増やした。

 俺は間違い探しのように清美たちの顔を見回して探り、アルバートルを再び絶望に落とすだろう真実を伝えていた。


「そいつら、多分若い雌。未婚の子たちだと思うよ?」


 だって、俺が知っている皺のない清美の顔そのものなんだもん。


「ええ!だったら尚更助けて下さいよ!」


 洞窟前でアルバートルはヤクルス達に翻弄され、大事な友人がもみくちゃにされる姿に俺もパニックになりかけていた。

 彼を助け出すためには何か建造物エサをヤクルスに与える必要がありそうだが、ここに何だったらすぐに建てられるのか今の俺には全く思いつかない!

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