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転生先が物語分岐の中ボスという微妙な立ち位置だった  作者: 蔵前
俺達は一緒に生きて来たんだ
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ヤクルスという蛇族

 アルバートルは意外と打たれ弱いのかもしれない。

 シロロがリリアナの名を呼ぶや、あからさまにびくりと肩を動かしたのだ。

 アルバートルがリリアナに脅えてしまうのは、リリアナがアリッサのようにアルバートルに惚れているからではなく、俺に対するのと同じように、彼女がアルバートルを揶揄って遊ぶ玩具にしてくるからだろう。


 さて、リリアナの出現にアルバートルがびくりと反応したように、俺達を囲っていたヤクルス達も反応したのか、一斉に人語じゃないざわめきをそこかしこであげた。

 アルバートルはヤクルスが騒めく事について余裕の笑顔を崩さなかったが、彼の気持ちが分かる俺は、赤アリの上で胡坐をかいている彼の腰が引けたのには気が付いていた。


 俺こそその場にいなくて良かったと思った程なのだ。


 リリアナを認めたからか、ヤクルスは葉の影に隠していた顔をにゅうっと一斉に突き出して来たのだが、ダグド領にいた時よりも人の顔っぽくそれらは成長していたのだ。

 ヤクルスに寄生していたエンプーサ程美しくも完璧な顔立ちでもないが、青白いのではなく薄緑色を下地にした白い顔、それも白目も見えない黒目勝ちという表情のない顔が数十ぐらい木々の間から覗いているのだ。


 正直に言えば、心霊写真を見るようで、俺はその光景がとっても怖かった。


「まあ!あなた方は大きくなったのね!先生はとっても嬉しいわ!」


 わお!流石のリリアナだ。

 先生という単語で自らを飾り、自分こそヤクルスよりは上位なのだと宣言して見せたではないか。


「私達はお勉強に来たの!蛇さんやトカゲさんが、どんな風に卵を大事にしているのか、それを学びに来たのよ!」


 すると、ヤクルス達はひょいっと顔を再び引っ込めた。

 それから、木々の間で、ぴゅるっとか、ききき、という小鳥に似た爬虫類の囁きが広がっていった。

 ああ、人語を喋らないどころか、人間の感情が通じるか分からない相手の相談時間は待っているだけで恐怖が湧きたつな。

 人間や哺乳類の思考回路をたどらない相手の場合、怒りや殺意も感じる前に相手に殺戮行動を起こされる可能性が高いのだ。


 ざわっ。


 木々の果実のようにして、ヤクルス達が顔を葉影から再び突き出した。


 はぁっ。


 百戦錬磨のはずのアルバートル隊の誰かが息を吐いた。

 かちゃっと、誰かが撃鉄を起こしはしなかったか?

 カイユーが反応してしまったのは、アルバートルの危機には彼がいち早く動く習性だからだ。


 では、カイユーがそんな反応を見せてしまった事由とは?


 ヤクルスの顔はみな同じだと思っていたが、子供と大人の違いはあったらしい。

 今までのヤクルスよりも大き目で、皺が刻まれた二つの顔が、葉の影から突き出して増えていたのである。


 全員が息を潜めて見上げていると、二体のうちの向かって左側が大きく息を吸い、それからゆっくりと大人の女性が出す低めの声に似た音を出した。


「しゃぷ、しゃぱれり。」


 リリアナは涙袋をぷっくりとさせ、最高な笑顔を作って相手に向けた。

 俺はわかるぞ!

 君は彼らの言葉が分からないんだよね。


 ……だめじゃないの。

 俺はどうしたもんだと悩むしかなかった。

 黒竜だろうが、前世の記憶ばかりが強い俺が、デミヒューマンなヤクルスの言葉を理解できるはずがないどころか、今までだってどんなデミヒューマンの言葉も理解したことなかったぞ?


「しゃぷしゃぷぱらりれ。」


 ああ!魔王様!

 シロロが立ち上がり、リリアナと手を繋ぎ合った。

 それからあざといぐらいに小首を傾げ、俺達には意味の分からない言葉をヤクルスに向けて喋ったのである。


「しゃぷろろろしゃぷばさんあだ。しゃぷろろろしゃぷだるち。」


 シロロの言葉を聞いたからなのか、皺ヤクルスは自分の陣営に振り返った。

 そして今度は自分の周りにいる皺のないヤクルス達に話しかけたのだ。


「ろろろ。しゃぷだるち。」


 心霊写真な顔顔顔は、一斉に頷いた。


「ああ、ちくしょう、字幕が欲しい。」


 俺は思わず呟いており、それと同時にシロロがヤクルス語を喋った。


「ででただぴかしゃる。」

――おわかりいただけただろうか。


「そんな字幕はかえっていらねえよ!で、シロロ、簡単に教えてくれ。お前は何を相手と喋ったんだ?」


「え?子供がいないじゃないって言うから、僕がいるよって。それで、ヤクルスの子と遊んだお友達だよって言っただけです。」


 俺はシロロの言葉を聞くや、そうか、とシロロに応え、今度は俺こそがヤクルスの長老らしき者に話しかけた。


「子供がいないじゃないって聞いて来たって事は、あなた方はリリアナの言葉も理解していたって事ですね。人語をもしかして使う事も出来るのでしょうか?ねえ、先生って単語の意味を知らないとできない芸当でしたよね、今のは。」


 皺だらけのヤクルス二匹は顔にもっと皺を寄せて、笑顔と言える様な表情を俺の部隊に見せつけて来た。

 ついでに、俺のエレノーラとリリアナが何かを企んだ時の様なフフフという笑い声を立て、俺の背筋を寒々とさせもした。

リリアナが孵化させたヤクルス→24匹そのうちの6匹がエンプーサに寄生されていた。

よって、ダグド領で成長したヤクルス達は18匹です。

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