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転生先が物語分岐の中ボスという微妙な立ち位置だった  作者: 蔵前
俺達は一緒に生きて来たんだ
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呼び出された乙女な使者

 アルバートルはヤクルスとの交信の為の使者として、二十四匹のヤクルスを育て切ったリリアナ(エンプーサに殺されて数は二十四から減っているが、二十四匹の世話をしたのは事実なのだ)でもなく、その手伝いをしたノーラでもなく、リリアナにヤクルス一匹を押し付けられたアリッサをシロロに呼び出させた。

 アリッサは自分が選ばれて呼び出された事を知るや、ぽっと可憐に頬を染めた。


「わたくしが?」


「もちろんだよ。交渉事は君だと誰もが君に頼るじゃないか!」


 お前こそだよ、この誑し野郎が!

 俺の内心は娘を守りたいお父さんな気持ちに染まり、現在の状況やアルバートルがやるべきことをやっているというだけという純粋なそこを忘れた。

 いや、だってさ、アリッサの腰に左腕をまわして、空いた右手でアリッサの左手を掴んで、彼女の顔を覗き込むようにして囁くってどういうことだ。


「ここは危険だからね。ほら、アリさんの上で足元がおぼつかない。」


 アルバートルは邪推ばかりの俺をあざ笑うが如き、それはもうソフィスケートされた仕草でアリッサを恭しくシロロの隣に座らせた。

 シロロはアリッサが隣に座ると、伏せさせていたアリに再び体を持ち上げるように指示を出した。

 アリは動き、アリッサは自分の座る場所が動いてさらに高くなったと、軽く悲鳴を上げてその場所に貼り付いた。


「ハハハ。大丈夫だよ。怖いなら俺にしがみ付いていようか?」


 アルバートルというホストは、俺の可愛い十八歳の娘を掬い上げるようにして抱き起して体勢を整えたばかりか、自分の腕に彼女の腕を絡ませるという芸当までも見せて来たじゃないか。

 だが俺は目的を思い出してぐっと罵りの言葉を飲み込んだ。

 ついでに言うと、アリッサの表情に俺は何も言えなくなったが正しい。


 アリッサは本気でアルバートルに惚れているのだ。


 好きな男と密着してしまったアリッサは、今の彼女の気持ちの華やぎを現わすかのように、ストロベリーブロンドはキラキラと名前の通りに赤々と輝き、猫のように変化する色合いのヘイゼルの瞳はジャングルの緑を受けて金と緑に染まっている。

 つまり、クジャクのように華やかで美しい若い娘が、愛をうたうカナリアの様な状態となったのだ。

 場所は熱帯のジャングルで、真っ赤な巨大アリの頭のてっぺんでしかないが。


 だが、アリッサは賢い子であったようだ。

 この状態を台無しにする自分の恋心を吐露する台詞など言わず、社交辞令的な会話でしかない言葉を、俺に、叫んでみせながらアルバートルの腕からそっと抜け出したのである。


「まあ!ここはなんと!ダグド領とは違った緑ですのね!ダグド様に夏用の探検スーツを作って頂いておいて良かったわ!」


 はい、作ってあげたのではなく、アルバートル隊のお揃いの仕様で女性用サファリスーツを乙女隊全員分作らせられましたが、君が望むならドレスだって仕立ててやろうって気持ちだ。

 まあ、冗談どころでなく、俺が乙女隊に脅されて労働させられた甲斐もここで報われた、と思う程にアリッサにはサファリスーツが似合っていたのである。

 真っ白なシャツは光を反射して、顔から余計な影を散らし、さらに白く明るく美しく演出しているのだ。


 真っ白なシャツがレフ板代わりになったのだなと気が付き、そこで、昔知り合った舞台照明家が言った言葉が思い出された。

 男優の顔に陰影が付けばそれだけ格好良く渋くなるが、女優の顔に影が入ると途端に美しさから遠のいた印象を観客に与えてしまうというのだ。


「だからさ、ここぞという明りを作ってやってんのに、そこに立たない奴がいるんだよ!練習や最終点検で自分でここだと言っておいてさ。俺がそれでそこにこそ最高の明りを作ってやったのに、ばみってもやったのに!外れた場所に行きやがる奴がいるのよ。」


 ゲーム絵の光源について照明家と語り合う予定が、途中から互いの仕事の愚痴飲み会になった過去を思い出していた。

 その席に同席していた友人は何て言ってたっけ?


「そんな俳優さん達をカバーしてやる明りって無いもんなんですか?」


 照明家は一瞬むっとした顔をして見せたが、すぐにその顔を傲慢そうなものに変えて俺達に見せつけた。


「舞台照明家はな、アーティストじゃない、職人だ。職人がそんな間抜けで済ますかよ?」


 俺は思考が横道にそれ過ぎたと、いかんいかんと軽く頭を振った。


「アリッサ、似合っていて可愛いよ。それで、ヤクルスと交信できるか?」


「わたくしの育てた子がいるなら、多分。でも、リリアナこそ呼ばないのはどうしてですの?確かに子供達の世話もありますけどね、この島は彼女にとっては里帰りに近い場所では無くて?」


「そうだね。ここは竜人族がかって住んでいた場所だものね。」


 アリッサの言葉に俺は同調はしたが、アルバートルに無理強いとなる言葉は掛けなかった。

 男は時として物凄く弱気になるものだが、リリアナを知っている俺としてもアルバートルの気持ちは痛いほどに分かるからだ。


 だがね、アルバートルよ。

 仲が悪いようで仲が良く、あらゆることに公正で無ければ、それを為した事を認められないという乙女隊のルールを君はどうして理解しないのか。

 彼女達の鉄則のルールは、抜け駆け禁止なんだよ?

 そして、アリッサが一番仲が良いのはリリアナだ。

 ついでに言えば、自分の言葉で仲間に恩を着せる事が出来るならば、俺の乙女隊は鬼にも蛇にもなってみせるぞ。


「シロちゃん!リリアナも呼んじゃって!」


「はい!アリッサ!」


 アルバートルはその美貌の顔をおもいきり歪めた。

 すると、歪めた事で顔に陰影が深く刻まれたが、前世の舞台照明家が言ったように渋くて格好良く見えるどころか、根性悪なジジイにしか見えなかった。

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