ジャングルの中には青の洞窟があった、はず
グアム島にしか見えない貪欲の島、アウァールスインスラ。
俺の部隊は、竜の卵に似ている筈の爬虫類の卵を探しに、東のジャングルへと歩を進めた。
移動としては、グアム島で言えば、ピティのアプラ港に着岸してフィッシュアイへと進み、次はグアム中部マンギラオを目指してグアム南西部から東海岸側に移動という、ちょっとハードなグアム観光ルートである。
熱帯の太陽は昼ともなればぎらつき皮膚を焼くが、しかし、残された時間が惜しいと観光ではない俺の部下達はひたすら進むしかない。
ついでに言えば、彼らは徒歩ではないが。
異世界におけるチート、魔王様がついていらっしゃるのだ。
魔王様が召喚した大型アリに乗っての移動である。
俺が友人とパガットケープを目指した時は、ちゃんと自分の足で進んだんだぞ?と手抜きばかりの部下達に言いたい。
まあ、俺も友人もタモンのホテル前で俺達を待つツアーバスに乗り込んで、徒歩でしか進めない場所の手前まで運んで貰ったけどね。
「ねえ、君が起きていたらさ、絶対にアルバートルを罵ったよね?」
俺は金の小川を作る妻の髪を梳いた。
部隊の全員が貪欲の島に行ってしまったのであるならば、俺は妻のいる俺達の寝室に戻っていたって構わないだろう。
人寂しい竜でしかない俺は、俺に何の反応もしなくなったエレノーラを膝に抱き、寝室に急遽作り上げたシルクスクリーンのモニターを眺めていた。
人が踏み入れた事もない下草が生い茂る道なきところ、緑色に輝く木々の間を真っ赤なアリが長い足を動かして進んでいく。
時々に短銃の連続音がするのは、ジャングルに住まう毒蛾や吸血虫が彼らに襲いかかるからである。
俺はそれらのクリーチャーを初めて目にして、あれらは俺がデザインしたモンスターでは無いと、新鮮な想いで眺めてしまっていた。
毒蛾は毒蛾の巨大化したものでしかなく、巨大吸血虫は俺も友人も嫌いなサシガメというカメムシ科の吸血種を大きくしたそのままだった。
実際のグアムにそれらは生息していない。
モンスターデザインの為に大嫌いな虫図鑑を互いに見せ合いながら、気持ち悪いと叫びながら虫の模写をしていた俺達の過去を思い出しただけだ。
「あいつの絵に似ているな。俺がデフォルメしすぎたモンスターデザインをしてしまうのか、あいつこそ実際の生物そのものを描いてしまうのか。」
一緒に会社を立ち上げて、一緒にゲームを作った親友、そんな彼の面影を俺は久しぶりに感じていた。
彼は今の俺の仲間の誰とも似ていない。
似ていても困るが、大学から一緒だった彼は、互いに半身みたいなものであったかもしれない。
いいや、それも違う。
前世の人生において、一番輝いた若き日の思い出を共有し合う仲間だ。
「ダグド様?この先に洞窟らしきものがあります。水の反応も。爬虫類は湿った場所に生息するものですよね?」
「ああ、行ってくれ。多分そこには透き通った真水のプールもあるぞ。火照った体を冷やすにはちょうどいいだろう。」
「観光じゃないですよ。気が付いていました?俺達は複数の目から監視されているようであるって。」
実際のパガットケープの周囲にはチェロモ族の遺跡などがあるが、このゲーム世界においてはデミヒューマンかヒューマンが村を作っているのであろうか?
俺はワクワクしながら周囲を見回した。
そして、アルバートルに乗せられたと、歯が砕けるぐらいに歯噛みをした。
「シロロで何とかならないか?」
「シロロ様は殲滅と言い張っています。ですからあなたにお伺いを。」
「リリアナを召喚したらどうだ?ノーラでも大丈夫かもよ?」
アルバートルは俺に聞くんじゃなかったという風に舌打ちの音を俺に聞かせたが、彼らを囲んでいるのがヤクルスの群れだと言うならば、我がダグド領から羽化して飛び立った個体がいるかもしれないと思うのはおかしくないだろ?
ヤクルス:「君は僕の大事なべべちゃん」で登場した蛇族。
竜人のように木から卵が生まれる、という設定の半人半蛇なデミヒューマン。
獲物に貼り付く、という習性があり、シロロもアルバートルもヤクルスが苦手。




