俺の乙女を誘拐するとは③
俺は戸口の物陰で立っていた白い悪鬼を呼び寄せた。
「何でしょう?ダグド様?」
トテテテテと俺の傍に駆け寄ってきた子供を抱き上げると、シロロは俺の胸に顔を埋めて、ごめんなさい、と呟いた。
「何が御免だ。お前は最近お前らしくないよ。エレノーラを心配するのは良い事だよ。だけどね、お前がご飯と騒がないのはなんだか寂しい気もするね。」
彼は俺の腕の中で、うわっと泣き出した。
泣きながら彼は、ごめんなさい、自分のせいだ、とまるでシロロらしくない言葉を言い募るのだ。
「おいおい、本当にどうしたんだ?」
「だって、ごめんなさい。僕がいると災厄が必ず起こります。だから、だから、僕はいつも追い出されるの。お前がいるからって。でも、僕はここから出たくない。お願いです!何でもするからここを追い出さないで!」
俺は酒呑童子の物語を思い出していた。
彼は育てられないと母親に捨てられ、それからどこに行くにも悪いものだと追い払われ、追い払われた彼に付き従うものは悪鬼ばかりで、最後には彼は史上最強の魔人となって悪鬼たちの王となるのである。
俺はぎゅうっとシロロを抱きしめ直した。
「お前のせいじゃないよ。人間はね、欲があるから人間なんだよ。そして、嫌らしい姦計も立てられる。エレノーラは自分達が上客だって思い込ませられたがために、アルバートル達の護衛を必要ないと警戒力を失ってしまっただろ。それこそ狙いだよ。遅かれ早かれこんな目に遭っていたさ。それよりもね、ここにアルバートル達がいて良かったよ。俺はここから動けない。あいつらをここに呼び寄せたのはお前だ。お前は幸運を呼んださ、そうだろう。」
彼は本格的に、それも幼稚園児の子供のように泣き出して、それでも魔王の雛らしい言葉を叫んで俺をぞっとさせた。
「僕は、僕は、ダグド様、お父様が死んだら、絶対にこの世界を滅ぼします。人間だろうと、何だろうと、ダグド様を傷つけた種族は全員殺します!」
俺は死ねないな、とシロロを抱きしめた。
エレノーラ達が殺されでもしたら、俺こそ竜に戻ってシロロの言うように俺こそ世界を壊すだろうと確信もしていた。
俺はだから街系の育成ゲームは嫌いなんだ。




