シロロが呼んだ厄災と結果
シロロがイースターエッグさんになったら塔が壊れる!
俺の心配は杞憂でしかなかった。
シロロは魔王に羽化してからの一か月、ダグド領の外に出てエランと二人ボッチで修業(おともだち探し?)をしていただけあるのだ。
巨大魔玉に変化して塔の床をぶち抜くらしいのはその通りだったが、彼は魔玉の姿形を別のものへと変化させた。
俺が彼に工具を色々と見せて教えたからであろうか。
白かった卵な彼は、卵の殻を毛皮のモフモフから銀色のつるっとした質感に変化させ、ついでに床に接する下部に溝と捩じりを加えたのだ。
つまり、銀色の丸っこいドリルになった彼は、ぎゅるんと回転して床に彼が通り抜けられる大穴を開けたのである。
丸い穴を床に開けた彼は、スポンとその穴に吸い込まれるようにして消えた。
そのすぐ後に、塔はシロロが次の階の床に到達した衝撃を受け、ぐらっと二度ほど大きく揺れた。
ここで俺は見守っているだけの自分を叱責するしかなかった。
いや、見守るしか出来ない俺の状態にした事を、アルバートルを呼んで叱りつけてやるべきだろう。
モージャバジョバ族の住処である塔だ。
友好的に迎えられたから俺は彼らの塔内を見渡せるが、彼らの客人でしかない俺には、積極的にフェール達に魔法援護を与えるどころか声での助力も出来ないのである。
「畜生。彼らの無事の頼みはシロロしかいなのに!」
「大丈夫です。俺がインカムで奴らに指示が出来ます。」
「そのための選手交代か。どうして君は真面目にやっているって姿勢を隠したがるんだろうね!まるでテスト前に勉強しなかったと言い張る子供みたいだよ!」
俺はアルバートルに八つ当たりをしていた。
だって、それしか出来なかった。
シロロが開けた真ん丸の綺麗な穴。
そこから黒い虫が次々に、ぶわっと羽ばたいて飛び出してきたのだ。
「ちくしょう!シロロは何をしているんだ!」
俺は城の廊下の真ん中で大声をあげると、そのまま見張り台の会議室に移動していた。
すると、俺を待ち受けていたアルバートル、なんと彼は!俺の作った夏服の制服、銀のパイピングが襟や袖にある真っ白の開襟シャツと、ベージュに近いカーキ色のパンツを身に着けていた。
パンツは同色のサファリジャケットとセットになっているのだが、ここはサファリじゃないのでジャケットを着用などしていなくとも全くかまわない。
真っ白いシャツがなんてアルバートルに似合うことか!
俺は俺の扱いが日々上手くなっている男にぐうの音も出せなかった。
しかし俺はフェール並みに意固地な男だ。
爽やかな夏服が似合い過ぎて眩しい男に見惚れた事を気取られぬようにと、アルバートルに対して傲慢そうに顎を上下させて見せるに留めた。
「これは良いですね。着てみたら涼しい。」
「初めて袖を通したのかよ!君は本気で酷いな。じゃあ行こうか。俺はどこにもいけないが、君のナビでモージョバ塔の奥深くに。」
「かしこまりました。では、参りましょう。」
アルバートルが指を鳴らすと、一番大きなスクリーンにはシロロが到達している最下層のフロアが映し出された。
光源となるものは海に面したガラス窓のものしかなく、照明ランプと違い光を広げない海の灯りは部屋を明るく照らさない。
だが、それでもフロア全体が真っ暗であることは、かろうじてだが免れている程度にはなっている。
そして、その程度の明るさでも、そこが打ち捨てられた廃墟でしかないと突きつける光景を俺達に見せつけた。
ほんの少し前までは生活があったというのに。
そんな事実も想像できないほどに、そこにあった家具らしきものは全て破片となり、床は現在カイユー達を襲っている虫たちの汚物が山となり固まり、臭気さえも漂ってくるようだ。
そんな場所にシロロは一人でいた。
寄る辺のない迷子の様にして、ぽつんとその最下層で体を丸めているのだ。
俺はその三つ上の階で奮闘しているカイユー達はどうしたのかと聞くべきだろうが、俺の心はシロロのその幼気さな姿に一瞬で縛り付けられてしまった。
俺は実際の彼に触れられないかわりとして、彼が写り込むスクリーン、彼の姿を包み隠すように右手の平を当てていた。
慰めたいという気持ちなのか、俺こそ彼を抱き締めて慰められたいのか。
彼の絶望は彼だけのものでない、のだ。




