黒竜様に必要なのは母親学級
いままでのあらすじ
アルバートルの故郷であるコンスタンティーノに、俺はリリアナさんを取り残したままだった。
怒りぷんぷんの彼女が俺達に仕返しをしてきたが、実は宇宙ウサギさんの侵略への抵抗に俺達を巻き込むためでもあった。
何を言っているのかわからないが、俺もわけわかんない。
とりあえず、呪い人形族と失敗したウサギぬいぐるみ族が俺の新領土であるコンスタンティーノに移民することになったとだけ覚えていればいい。
つまり、家族が増えたね!でいいのかもしれない。
俺の子供という家族が、八月十五日予定日に本当に生まれて増えてくれるのだろうかと、俺は心配この上ないけれども!!
前世の世界において、初めて子供が出来た夫婦は、保健センター等が行っている母親学級に参加して出産や育児への知識を得て心構えをするものである。
ところが、俺は異世界に転生しているわけで、人間でもない黒竜様だ。
そして、妻は寿命のある普通の人間。
いや、無能な俺の代りに領地の差配人をして、無能な俺に対して絶大な信頼と愛情を注いでくれるという、物凄い美人で女神さまみたいなので普通とは言い難いが、肉体上、妻は単なる人間だ。
そんな彼女が妊娠し、もうすぐ出産と考えると、俺は気が気でない。
前世世界だったら母親学級に参加して、僕が立ち会ってもいいの?とか、一緒にラマーズ法とか、そんなたわいない事を質問できたはずだった。
しかしここは異世界で、相談できる場所が無いのに、人間と竜の子供はどんなふうに生まれるの、とか、母体は持つんだろうな、とか、生まれたばかりの赤ん坊に何を食べさせればいいの?もしかして母を!!とか、ディープな質問が盛りだくさん俺の中で生まれていた。
そこで、俺はまず、この世を大体は知っているという魔王様にお伺いを立てる事にした。
一応は彼は俺の先に妻から相談を受けていた。
「シロちゃんが大丈夫というからには、大丈夫よ!」
彼は大丈夫と答えてくれたらしい。
その大丈夫が、死んでも生き返らせてあげるから、だとしたらと考えると、俺はとても恐ろしい。
怖いのだったらすぐにどんな大丈夫か確かめれば良かっただろうに、俺はずるずるずるずると、怖いからと尋ね返すのをためらっていた。
俺は夏休みの宿題は最後の一週間ですましていた男だ。
けれど、妻はいまや、大きなお腹になってベッドから起き上がれない有様だ。
出産日迄あと一か月もあるというのに、だ。
俺は口元に両手を当てると、何度目かの魔王召喚を試みた。
「シロロ―!シロちゃーん!」
しかし、魔王は出現せず、俺の頭にふざけた例のメッセージだけ送って来た。
「冒険中です!」
魔王さま!




