大人は子供を騙すもの
ダグド領から遠く離れたコンスタンティーノで起きた地響きのはずが、俺の足元で起きたかのように錯覚した。
大型のウサギ怪獣は俺の特殊部隊によって、彼等が本気になった途端に特撮ドラマのように数分で倒された。
本気というのも語弊があるか。
カイユーとフェールが囮になり敵の目をかく乱し、その間にエランのスナイプによって液体肥料入りの銃弾をウサギは撃ち込まれた。
シロロの水鉄砲が狙った攻撃がウサギにぶち当たるその箇所に、だ。
絶妙な攻撃を受けたウサギは、その攻撃の的になった個所から大量の緑の蔦を吹き出した。その蔦植物は巨大ウサギを雁字搦めに拘束し、動きを封じられたウサギは大木が倒れるようにして地面に沈んだのである。
ここまでが数十秒だが、傍目にはシロロの攻撃の一撃がヒットしただけに見えるだろう。
さすがのアルバートル。
もしシロロにバレたとしても、反則行為を手伝った実行犯はエランである。
シロロの最高の供にして、一番の追従者で、初めてのお友達なのだ。
エランが酷い目に遭うことは無いという見立てだろう。
「きゃあ!当たった!わたくしが銃を撃ち込みましたのよ!」
俺は突然のアリッサの声に何が起きたのかと、この場を掌握している筈のアルバートルに尋ねた。
「スナイプはエランじゃ無いの?」
「エランに照準を任せてアリッサに引き金を引かせました。」
「どうしてアリッサ?」
「水鉄砲大会ルールを熟知している人の行動です。シロロ様でもルール違反だと否定できないでしょう。」
「そうだね。じゃあ、とりあえず、アリッサとノーラを離脱させて。」
モニターは緑色の大きな繭状態のウサギから空へと映像を変えた。
「そうですね。第二陣、本当の侵略兵が降下してきます。戦闘ですね。」
「では、水鉄砲大会の一時終了をダグドとして宣言を――。」
「それはルール違反だあ!罰として異界送りだああああ!」
シロロが大声で叫び、空に浮かぶ大きな円盤は一瞬にして姿を消した。
降下兵をも一緒に、だ。
「あ、審判様がいた。」
「審判様がいましたね。では、次はお姫様の奪還ですか。」
アルバートルの手元でガチャリと金属音が鳴り、俺は今度こそ本気の殺し合いが始まるのだろうと覚悟を決めた。
「フェールに紋章を書かせてくれ。夏用軍服を送る。」
「必要ありません。」
「送らせろよ。」
「暑いので嫌です。」
会議室のモニターはぶつっと切れて、交信を切られて取り残された俺こそ切れそうだ。




