俺の精鋭部隊……。
五十五人のウサギさん軍団に対し、アルバートル隊は八人だけ。
しかし敵が多勢でも、我がアルバートル組には魔王様のシロロがいる。
けれども、シロロを数に入れてはいけないようであった。
空に浮かぶ大きな円盤に俺とアルバートルがどうしようかと見上げているだけに対し、魔王なシロロ様はその場で突然に仁王立ちに立ち上がるや魔王様らしく宣言なさったのである。
「僕の楽しい遊びの邪魔をしたら、その場でその船を破壊します!そこに二千九百四十五人の人達が乗っていたって知りません!」
彼は純粋にフェアな水鉄砲遊びをしたいだけであり、水鉄砲遊びのルール違反を取り締まる立ち位置にいるらしいお方だったらしい。
いや、魔王なお前こそダグド領どころか遊星からの侵略者から世界を守れよ、そんな気持ちだが、魔王はダグド領に戻ればいつまでたっても俺の子供に戻ると決めているらしかった。
責任も何もなく思う存分甘えて遊び倒します!
そんな感じだ。
俺は大人なアルバートルと内緒話をするしかなかった。
「ルール違反を誘えるか?二千九百の兵隊の強襲を避けたい。」
「その二千九百は非戦闘員では無いですか?」
「ああ、そうか、その可能性が高いな。」
しかし、和解することになってさらに二千九百四十五人を受け入れる事を考えると、俺の良心さえ黙らせれば銀盤を破壊してお終いの方が楽なのも事実だ。
「よいですか!ダグド様も中立にいる。お前達も見ているだけだ!負けたら素直にこの地から去る。約束を違えればこの世からの消滅です!」
「ああ!魔王様がよけいな最終宣言を為された!」
「まっすぐな魔王様ですね。ではこの世からダグド様が消滅させられないように、ダグド様も見ているだけでお願いします。」
シロロは俺こそ消滅しないと思うが、相手を素直にこの地から去らせるには俺こそ魔王のルールを守らねばいけないだろう。
「畜生。俺は君の目を通してしか何も見えなくなってしまった。つまりだな、何かあったら君達を誰一人としてダグド領に連れ帰れないって事なんだよ。わかるか?俺は君達の幸運を祈るしか出来ないんだ。」
「――何とかしましょう。あなたの竜騎士として、この町の町長の椅子を俺が奪って見せますよ。」
モニターは銀盤ではなく、コンスタンティーノの門扉の外の風景へと映像を移し替えた。
籐の大きな椅子に座ったままのリリアナが、手下のウサギに囲まれているという姿である。真っ黒なビキニ姿の癖にウサギ耳をつけている所でけしからんことこの上ないが、美しい彼女の豊かな表情が作りものにしか見えないことで彼女の妖艶さが完全に失われている。それどころか、俺はそんな無感動な表情をしている彼女の姿を見ているうちに、ウサギ耳を付けられる前の彼女がアルバートルに掛けた言葉を思い出していた。
――無事にその町の門をくぐって再びあなたがお姿をお見せして下さることを、ええ、お待ちしていますわ。
リリアナはウサギ族の行動を知っていて、あの台詞はアルバートルに助けを求めていた?
アルバートルがリリアナを助けることができたら、二人はどうなるのだろう?
姫を救った騎士には姫君こそが褒美に与えられるものでは無いのか?
そのためにリリアナはウサギ族に取り込まれてしまっていた?
「わたくしは頑張りますわ!この町では目を瞑ってもわたくしは歩き回られますの。一緒に奪還しましょう!わたくしも町長を目指しますわ!わたくしだって人の上に立つことは出来る。ねえ、そう思いません事?」
ストロベリーブロンドを持つ紺色ビキニ姿の狩人がいたことを、俺は完全に忘れていた。健気な彼女はこのゲームでアルバートルの戦友みたいになり、もっと彼に近づきたいと思っているのに違いない。
けれどモニターにはアリッサの元気いっぱいの美しい顔ではなく、彼女の溌溂とした胸の谷間と浅履きのバミューダ―パンツからちょっと出ている腰骨や臍が映り込んでおり、俺はアルバートルにアリッサの顔こそ見てやれと頭を叩いてやりたくなった。
いや、助平な格好をして平気な娘のお尻を叩くべきか。
大人びた華やかな顔立ちに成熟した体つきをしているが、アリッサの中身はつやつやな肌どおりにまだ十七歳の子供なのである。
「君はまだ子供でしょう。」
「まあ!アルバートルったら失礼ね。わたくしはもう十八歳ですのよ。」
「一月で年を取っただけでしょう。俺は生まれたその日に一歳になった男だぞ。つまり、永遠の二十八歳だね。君だってまだまだ十七歳、いや、そのもっと下かもしれないんだぞ。」
俺はアルバートルに、生まれたその日に一歳になっていただろうが二十八歳は今年だけだろう、と突っ込みたいが黙っていた。
背伸びしたがりのアリッサに、君は子供だとせっかく言い聞かせてくれるアルバートルさんには、数えでも十八ならアリッサに手を出しても誰からも責められないと忘れたままでいて欲しい。
「永遠の二十八?図々しい人ね。ねえ、アリッサ、彼は二年後には三十よ。いいえ、数えだったら来年には三十だわ。いいの?もっと若い子にしたらどう?」
モニターにはノーラが映っていたが、彼女はさらさらしたアッシュブラウンの髪を視界の主に引っ張られていた。
「いったーい!」
手に絡められた髪は指にさらに巻きつけられたが、巻きつける間に引っ張られていた髪は緩められてもいたようだ。
モニターにはノーラの美しい髪を絡めた指先が、俺も妻をそんな風に撫でてみたいよ、というぐらいのカッコよさでノーラの頬を撫でる姿を映し取っていた。
「ふふん。俺にそんな憎まれ口って、お前こそ年下坊主に飽きたのかよ。俺が相手してやろうか?」
「わあ!」
俺が叫んだのは、ノーラの手の平がモニターを叩いて来たからだ。
「てめえ!何をしやがる!」
「うっさいわね!この助平が!あたしはカイユーが一番なの!だーれがあんたみたいな助平親父に乗り換えるか!」
「ちょっと、ノーラ。ほら、この人怖い人だから、ね。」
「うっさいな、フェール!カイユーが馬鹿にされて黙っていられますか!」
「ああもうって。おい!カイユー!お前こそノーラを止めなさいよ!」
娘達の痴話げんかを盗み聞く状態に俺は飽き飽きして怒鳴りそうにもなったが、突然にモニター画面にティターヌの金色の目が映り、その後に敵の第一陣の影をも映り込んで来たのだから、俺は黙ってモニターを見続けるしかないだろう。
「娘は頼んだ。」
「頼まないでください。俺にも好みがある。」




