戦闘開始の銅鑼が呼び込んだもの
「おい、リリアナ。一つだけ確認したい。」
「何かしら?」
「色水被って終了だがな、水を被ったと自己申告しない奴がいたらどうする。」
「あなたの様な方ね。安心なさって。色水の塗料には植物魔法が掛かっています。事前に急所ポイントに塗らせていただいた液体肥料に触れたらそこで発芽成長しますの。つまり、植物の拘束によってすぐに動けなくなりますわ。」
「そんなもの、塗らないで済ます奴もいるんじゃないのか?」
「大丈夫です!僕がそんなずるをさせません。液体肥料を決められたところに塗らなかった人には、液体肥料を頭からざぶーんとかぶる罰が起きます!僕の自動魔法で!」
「うふふ。シロちゃんは本当にいい子ですわ!」
カイユーとフェールは後ろを向くやもぞもそと動き出した。
彼らが塗っていなかったのはずるではなく、ルールを守らなかった場合はどうなるかの実験体としてアルバートルに選ばれていただけであろう。
「自動魔法か。では、リリアナ、お前のもそうか?お前の意識が無くなれば拘束魔法が終わるわけでは無いんだな。」
リリアナは妖艶に微笑んだ。
「当り前ですわ。私の意識を最初にあなたが失わせたら、そこでゲームが終了してしまうでは無いですか。」
「安心したよ。お前はいい女だ。」
「私も安心してお見送りしますわ。どうぞ、無事にその町の門をくぐって再びあなたがお姿をお見せして下さることを、ええ、お待ちしていますわ。」
どおおおおおおおおおおおおおおおおおおん。
大きな銅鑼に大きなバチの一発目が入った。
空気が揺れるぐらいの重たい音が周囲に響き渡り、まだオンオンと銅鑼は音を立てている。
アルバートル隊はその最初の音で身を翻して町の門へと駆けこんでいった。
カイユーはノーラの腕を引き、フェールはシロロを抱き上げて、だ。
なぜか動かないのはウサギ族。
どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん。
二発目が入った。
リリアナの後ろに控えていたウサギ族の一人が、リリアナの頭にウサギの耳が付いたカチューシャを乗せた。
どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん。
リリアナは俺ではなく、別のどこかに向かって両腕を捧げあげた。
「われ、ラビッツに帰依せしめし一人の女。我らが王よ、この町をあなたに捧げます!ラビッツの王、シロガナスイナバ様よ!」
どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん。
四発目の銅鑼の音でコンスタンティーノの四方ではためいていたダグドの旗は燃やし落とされ、俺の視界からリリアナを含むウサギ族の姿が消えた。
ぶつん。
会議室のモニターにシロロかアルバートルによるものか、コンスタンティーノの風景が再び映し出された。
どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん。
「空を見あげますよ。驚いて笑ってください。」
モニターの映像はアルバートルだったようだ。
アルバートルの視線が空を見上げて行くに従い、コンスタンティーノ風景は切れて青い世界が広がったが、そこにはあるはずのない銀色のものが浮いていた。
どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん。
「何でしょうね。これは。」
俺はごめんなさいとこの世界の住人達に言うべきか。
俺は宇宙人ネタが好きだったんだよ。
何千分の確率でエンカウントして宇宙人と戦う、そんな隠しイベントを作っていた前世の自分を殴ってしまいたい。
コンスタンティーノに影を落とすようにして、真っ青な空には大きな円盤が浮かんでいるのだ。
どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん。
どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん。
どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん。
どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん。
さあ、銅鑼は十回鳴った。
ダグド領の精鋭部隊がコンスタンティーノの奪還をこれから始める。




