我こそはコンスタンティーノの女王様
俺はついさっき、いや、今も目にしている自分の防衛隊の副長と愛娘のラブシーンに近いいちゃつきに対して、なんで?とリリアナに尋ねていた。
「どうしてモニークとイヴォアールが?」
「あら、来月には結婚するのですもの。新居って必要でしょう。」
「君は!早速アルバートルの一番の兵を取り込んだのか!」
「取り込んだなんて、人聞きの悪い。わたくしはイヴォアールにお願いしただけですの、監督官としてここにモニークと住んでくれないかしら?って。ダグドの民で無い百人もの移民だわ。住民同士の諍いや住むための秩序の監督をしてくれる方が必要だと思いません?」
俺はリリアナにありがとうと言うべきか、余計なことをしやがってと叱るべきか、しばし悩んだ。
しかし、長い灰色の髪を三つ編みにして片側の肩に垂らしている灰色の瞳をした男が、目尻までもたれ下げて幸せそうな間抜け面を晒しているその姿に、俺はやっぱりリリアナに礼を言うことにした。
「ありがとう。モニークが結婚を取りやめるって言い出してから急に静かになったのは、君がとりなしてあげたからなんだね。」
「うふふ。落ち込むイヴォアールを我が町に迎えたら、モニークが怒鳴り込んで来ただけよ。雨降って地固まるってだけ。」
「そうなのかな?」
使者は厚くもてなし、貢物を多く捧げるべし。
帰って来なくなった使者に大将は不信を抱く。
これぞ、五つ目の文伐の法。
「うふ。今回の戦闘地図はイヴォアールが書いてくれたのよ。」
おや、六つ目の敵国の臣の心を手懐けるどころか、敵国の臣の心を自分の国へと向けさせるという、七つ目まで達成なのか。
「素晴らしいよ、君。ところで、どうしてモニークとイヴォアールが君のところに行けたのかな?誰も君のことを知らなかったが前提でしょう。」
「うふふ。私の不在を思い出せなかったのはダグド様とアルバートルだけ。ダグド様を揶揄うのはこれでお終いにしますわ。わたくしはダグド領に戻っておりましたの。シロちゃんにダグド領とこの町を簡単に行き来できる道を作ってもらいましたのよ。ダグド様が気付かなくても、エレ姐が私の不在に何も言わない訳は無いでしょう。」
「……ですね。それを聞いてほっとした。うん、領民の子供達も君がいないと泣いていなかったという事は、あの子達もこことそこを行ったり来たりしていたんだね。」
「その通りですわ。では、そろそろ戦闘開始です。ダグド様は中立でいらしてね。よろしくて?」
「ああ、いいよ。」
俺の視界の中で、リリアナは椅子から立ち上がると、俺ではなく彼女の前に現れた聴衆に向かって、芝居がかった仕草で両腕を思いっきり左右に広げた。
「さあ、皆様、我がダグド領名物、色水鉄砲ゲーム大会です。今回はグループ分けのメンバーはお好きなように。ただし、色はグループごとに決め、水を受けたらそこで失格です。勝者だけがわたくしと対戦することができますのよ!商品は、この椅子でございます!」
両腕を広げている事で彼女の羽織っている毛皮の様なローブがはだけ、黒いビキニ姿の豊満な肉体、世界の男達が夢に見る体をさらけ出すことになった。
俺はリリアナの後ろからリリアナが見ているであろう観衆を見回した。
リリアナの呼びかけに応え、リリアナが招集させた波止場の広場に集まった冒険者達は、なんと、デミヒューマンはウサギ族だけ、ダグド領からはアルバートル隊とアルバートルを誘いに来たノーラとアリッサという総勢63名だった。
「あれ、ダグドの水鉄砲大会が好きな子供達と三爺達はどうした?あのちっこいピグミードワーフたちは?」
子供達はリリアナの教え子達であるが、三爺とはダグド領に捨てられたが家畜の扱いが上手いという事で、俺によって牧畜業の責任者に任命された馬担当のベイルに牛担当のバン、そして、羊担当のジェドである。
「ピグミーさん達は戦いは何であれ好きじゃないから不参加です。」
シロロがきゃふっという感じで答え、シロロの横にいたエランは、過去にピグミードワーフ村を襲わされた事を思い出したか顔を覆ってしゃがみ込んだ。
そんなエランを蹴とばして前に出たのは、当り前だが団長だ。
「三爺と子供については俺が参加を禁止しました。俺は本気ですからね。俺の町を取り戻すためならば、女子供、老人だって蹴り倒します。」
アルバートルは卑怯者と言えるぐらいの大きな水鉄砲と、背中に水入りタンクまでも背負っているという本気スタイルだった。
着せ替えられて半裸の水着姿で海岸のチャラ男にしか見えないのが哀れだが。
いや、ノリノリの馬鹿野郎と罵倒すべきか?
「では、皆様、これから町の門を解放します。思い思いの場所に散って戦いあって下さい。銅鑼を十回鳴らします。鳴り終わったそこから戦闘開始となります!」
リリアナを前にしていた参加者は、彼女の号令に歓声を上げ嬉しそうに水鉄砲を振り回した。
いや、無表情のウサギ族は声をあげていても嬉しそうなのか分からないので、とっても楽しそうなそれ以外と言うべきか。
いやいや、リリアナが打ち砕きたいと望んでいる敵のアルバートルは、面白くもなさそうな顔で彼女を睨んでいるだけじゃないか。




