男はかたい方がいい
アルバートルの故郷、コンスタンティーノの箱モノの復興に関しては、俺の魔法力とアルバートル隊のモンスターハントという技で無理矢理に仕上げた。
つまり、魔法力でも材料が無ければ物が作れないという事で、アルバートル達に次々とモンスターを狩らせ、その獲物の体の組成物を浄水場や発電機の建材に転化するという流れ作業的なものだった。
刻一刻と進軍による包囲網は狭まっており、ダグド領でないダグド領を襲わせるためにと俺達は町づくりを必死に行っていたのである。
そこにリリアナは自分から参加してきた。
彼女は自分の歌声が攻撃力のあるものだと知っており、また、シロロという魔王様に学校の先生として慕われていた強みもある。
つまり、彼女の言うがままに俺は彼女をコンスタンティーノに送り、町づくりやモンスターとの戦闘に参加させたのである。
「でもさ、あの日の俺は混乱に混乱を重ねていたじゃないの。君はスカッドミサイルの発射とともにガルバントリウムに突撃しちゃうしさあ。」
アルバートルはあからさまに俺から目を逸らした。
都合が悪くなると目を逸らす柴犬のような所に、俺はこの野郎!と思ったが、彼の表情は素直に「何だこれは?」という不可解に思えるものだった。
「え、どうしたの?」
奇妙に思った俺がアルバートルの目線を追えば、視線の先は会議室のドアだった。
俺がドアの向こうに何がと考える前に、注目を浴びているドアがガチャっと音を立てて開いた。
「あ、本当に残っていた。何をしているの?みんなはコンスタンティーノに集まっているのに!」
会議室のドアを開けたその動作のまま俺達を叱りつけたのは、俺の娘の一人である十七歳のアリッサであった。
ストロベリーブロンドというピンクがかった金髪をさらさらさせた美しい乙女は、父親の俺が着替えて来なさいと怒るべきな格好をしていた。
紺色のビキニにどピンクな縞模様のステテコパンツの組み合わせである。
え、ちょっと待て、暑い日だけどまだ五月になったばかりだろうと、俺はまじまじとアリッサを見返した。
「どうしたの?まだ泳ぐには早いんじゃない?」
「何をしている!そんな裸で男の前をうろちょろするんじゃない!」
俺の言葉に被せるように叫んだアルバートルの怒声に、俺こそが本気できゃっと脅えた。
「ダグド様?」
「いやあの、ええと、ほら、アリッサこそキャッとなっている、から。落ち着いて?」
「俺は落ち着いていますけどね。」
再び俺とアルバートルは会議室の戸口を見返した。
ああ、よかった。
ちゃんとアリッサはアルバートルの怒声に脅えてたらしく、きゅっと体を縮こませている。
「全く。君は踊り子になりたかったのか?」
「君は時々固い男になるよね。」
「ええ。硬くなるから男は危険なんですよ。暑いからと言っても、人前に出て良い悪いの格好はあるでしょう。」
「いや、ええと。」
俺はアルバートルにどうやって説明するべきか悩んだ。
マジ悩んだ。
お前だってステテコだろうが、と。
さて、アリッサが水着を持っているのには訳がある。
水着というものは中世には扇情的すぎるだろうが、普通に海遊びをする世界の人間だった俺は水着を作って夏には水遊び大会もしていたのだ。
アルバートル達がやって来た昨年以外は。
もちろん、水着になっての夏遊び大会を禁止したのは俺だ。
当時は問題多発でそれどころじゃなかったし、俺がピクリともしなくとも絶対的な美女軍団である娘達の肌を独身男性達の前に晒すのは危険との判断である。
そう、可愛い赤毛のモニークをアルバートルの計算高い副官イヴォアールから引き離そうと、俺が無駄に足掻いていた去年でもあったのだ。
「あ、本当だ。おっかなーい。去年ダグド様が水着姿になることと水遊び大会を中止にしたのは正解だったのね。」
アリッサの横からひょいと顔を出したのは、やっぱり水着姿のノーラだったが、彼女がビキニで無かったことに安心どころか、パット入りの水着というものに疎くて作れなくてすいませんと謝りたい気持ちであった。
水色ボーダーのチューブトップに紺色のバミューダパンツ姿の若い女性は可愛いはずだと思うのに、ノーラはなんだかさらしを巻いた女侠客にしか見えないのである。
成長が素晴らしすぎる美女と成長できなかった美女から俺は目を逸らして再びアルバートルに振り返ったが、彼はハンサムな顔を皺くちゃにして俺を睨みつけていた。
「こ、れ、は、何ですか?」
「ええと、夏遊び用のお洋服です。今までは夏になる度に第三温室の一角を温水プールにして、皆で水遊びをして遊んでいました。」
真夏に温水プールなのは、老人が多いダグド領であるからして、冷たすぎる水は余命を短縮してしまう危険性もあるとの判断だ。
遺体を燃やすのは俺だ。
真夏に火葬などしたくは無いではないか!
「温水プール?水遊びって何ですかって。」
あ、ここから説明しなければいけないのか。
俺がメンドクサイなと感じた一瞬、俺の娘の一人はいい仕事をした。
「あっつ、何すんだ!てめえ!」
アリッサが水鉄砲でアルバートルに水をかけたのだ。
二度目の怒号だからかアリッサは脅えることなく、大きくからからと笑い声を立てて樹脂製のカラフルな水鉄砲を見せびらかした。
アルバートルはそれをリリアナの特別授業で見たことがあるどころか、彼が子供達の色水水鉄砲の的になった事も思い出したのだろう。
彼はふっと顔を歪ませて微笑んだ。
「アハハ!楽しいでしょう。これが水遊びですわ!カイユーもフェールもコンスタンティーノで早速水鉄砲サバイバルしていますわ!」
「そうなの!シロちゃんが水鉄砲を見つけちゃってね。これは何って聞くから教えてあげたら、水遊び大会がしたいって。で、こんな夏日にしちゃったのよ。リリアナからも伝令!一緒に早すぎる夏遊びをいたしません事?よ!」
ノーラの説明を聞いた俺とアルバートルは、一先ず乾いた笑い声をあげた。
そうきたか、と。




