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春になれば虫が湧くが春の鳥達も活動しはじめる

 魔王様降臨から一か月経つが、我がダグド領では先だっての戦費喪失がかなり痛手となり、予算計画がかなりグダグダなものになっていた。


「しばらく大きな戦闘はできませんね。」


「うん。君が気前よく弾薬をばらまくからね。」


「いや、俺だけのせいじゃないでしょう。」


「いや、君は部下を纏める大将じゃないの。」


 アルバートルは俺に言い負かされたと唇を尖らせて不機嫌な顔を作り、俺は斜め向かいで今後必要だとアルバートルが申請していた弾薬数をもとに予算の金勘定を必死にしている娘を見返した。


「どうかな。」


「ええ。おっしゃる通りしばらくは戦闘禁止です。でも、それが知られると敵の侵攻を招くと思いますので、二つか三つ、弾薬確保のために通商のキャラバンを襲いませんか?」


 俺はノーラをまじまじと、彼女の顔に穴が空くくらいに見つめた。

 彼女はそんな俺の視線をにっこりと笑って流した。

 アッシュブラウンのさらさらの髪に緑がかった琥珀色の瞳を持つ森の妖精のような美女は、妖精が男を惑わすように父親である俺をも翻弄させたいらしい。

 彼女は平和主義で大人しい娘の仮面をどこに捨ててしまったのだろう。

 いや、結婚相手のカイユーが二丁拳銃の、それまたマシンガンピストルというウジ二丁持ちだからだろうか。


「ええと、襲うって、君は何を言っているの?」


 あのシロロによる大厄災の後すぐに、どさくさに紛れて通商の補給隊をアルバートルに襲わせたことに気が付いているのだろうか。

 戦争を吹っ掛けられて賠償金も無いと、こっちは損害だけじゃないかと積極的に賠償金替わりを奪っただけの話であるのだが。

 言い訳をさせてもらえば、マジで弾薬庫が空なんだから、弾丸の補充は必須だったのだ。


「あら、だって。あいつらは物凄い勢いで弾丸を買い占めています。そのせいで値が上がって弾丸の必要量を買い足せないのですよ。」


 俺は俺の共犯者のアルバートルに視線を戻した。

 彼は任せてくださいと言う顔で微笑んだ。

 奪った弾でさらに奪い取って来ますよ、か?

 俺達弾丸ばらまき隊ですから、か?


「却下だよ。せっかくシロロが平和な世界を作ってくれたのに、何を揉め事を新たに作ろうとするかな。少しずつ買い足せばいい。今後を考えてね。」


「ふふ。」


「どうしたの、ノーラ。」


「だって、平和にっておっしゃって、今後、なんておっしゃるのですもの。」


「うーんだって、きっとあるでしょう。侵略行為は。備えは必要だよ。アルバートルさんに百鬼眼システムが無くなっちゃったからね。」


 ノーラは美しい顔にぎゅっと皺を寄せて、眉毛が一本になるみたいな顔を俺に見せつけた。

 俺は娘の表情にピンとくると、嘘吐きなダグド領保安隊長様を見返した。


「君。君の百鬼眼システムが壊れたからこその非常事態に備えた更なる軍備強化という提案ではありませんでしたっけ?」


 彼は自分の目元をトントンと指先で叩き、俺に彼が見ている物を見ろと言ういつものサインをして見せた。


「備えはいつだって必要なんですよ。」


 俺は彼が覗いている世界を彼の百鬼眼システムを利用する形で眺めた。

 単に白いソーサーにアルバートルが見ている物を映したというだけだが。


「ああ、こりゃあ、また。」


 シロロとエランだ。


 彼らはダグド領に戻って来なかった。


 エランが未だに悔やんでいる、彼が過去に襲撃させられたピグミードワーフの村への旅へと、彼等はそのまま向かって行ってしまったのだ。

 シロロはこっちの方が好きだと、子供の姿に自分を戻している。

 以前と違い、好きな時に本当の魔王の姿に戻せるらしい。


 そんなシロロの隣のエランは黒装束だ。

 竜騎士の制服を着ているのではない。

 エランは俺が作って何とか手元に送ってやった黒い司祭服を着ており、顔の火傷を隠すようにしてやっぱり俺がノリで作った仮面をつけているのだ。

 親友がデザインした暗黒枢機卿は、絵的にもかなり格好良かったのである。


 実写だと失敗した単なるコスプレのようで、エランには罰ゲームみたいで少し可哀想だが、彼は試練というものが好きだから大丈夫だろう。

 そんな二人は手を繋いでダグド領目指して歩いているようだが、彼等の後ろには武器を掲げたピグミードワーフや獣人など、デミヒューマンの姿が見える。


「ダグド領を襲いに来るの、かな?」


「ほら、シロロ様は一当て二当てやってから仲よくしようってお方ですし。」


「いーや。あいつにはとりあえずおっきなケーキを焼けば良い気がする。」


「ふふ。私もそう思うわ。モニークの結婚式のケーキ、あの子は楽しみにしていたもの。エレ姐の時もおっきなケーキに喜んでいたじゃない。」


「そうだよね。じゃあ、あの軍団は、オトモダチかな?」


「ええ、そう思います。ダグド様が友達百人なんて歌を歌うから。シロちゃんはきっと頑張ってお友達を作ったのでしょうね。」


「ええ!俺のせいなの!」


 困ったと言いながら俺は笑っていた。

 映像の中のシロロはニヤニヤしっぱなしなのだ。

 俺を幸せにしてくれたあの子こそ幸せそうで良かった。

 ここまで読んで頂きありがとうございました。

 ダラダラと続いていたここで、一応は終幕となります。

 キャラクターがどの子も好きで長々と書いておりましたので、また、何か新しいエピソードを思いついたら加筆するかもしれません。

 その時は、また読んで下さると幸いでございます。

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