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魔王復活

 シロロは俺の腕から消えた。


「僕はエランを守ります!」


 エランは殉教しようとしていたのだ。


 イグナンテスや彼の腰巾着達により、私利私欲に塗れた悪の宮殿となった神の家を、エランは自分ごと破壊するつもりだったのだ。


 エランがガラス瓶を割り、そして起こったシロロの力の開放は、ガルバンシア宮殿を粉々にしてしまう程の魔力を秘めていた。

 その威力はすさまじく、エランと繋いでいた会議室のモニターのシルクスクリーン全てが、ガラス瓶が割れると同時に炎を吹き出した。

 衝撃波で会議室のガラスだって粉々だ。


「アルバートル!お前はシロロ達を絶対に見るな!お前の神経があいつのエネルギーで焼きつくぞ!」


「ハハハ。ちょっと遅かったですよ。今は見たくとも何も見えない。百鬼眼システムが壊れちまった。俺は普通の男になってしまいましたよ。」


「普通の男でいいんだよ。リアルの視界はあるんだろう!じゃあ大丈夫だ。お前がする事は領民の避難だ!今すぐに動いてくれ!」


「了解!全員、避難誘導だ!」


 アルバートル達は俺の命を聞くや会議室を飛び出していき、俺も会議室を飛び出すと見張り台の見晴らし台へと登った。


 ガルバンシア宮殿の方角は真っ赤な紅蓮の世界となっていた。

 沈みかけた夕日がそこでとどまっているのかと思う程だ。

 熱波はそこを中心にして渦巻いているらしい。


「すごいな。こっちにまで熱い風がごうごうと吹き付けている!」


 俺は竜の姿を取り戻し、ダグド領の上空へと舞い上がった。


「スカスカの身体だが、俺の力で熱風を吹き飛ばせるか?」


 しかし、竜の目が魔王の姿を捕えたことで、俺は自分がすべきことを忘れ、ただ上空で間抜けに浮かぶだけとなった。


 白銀色に輝く六枚の羽。

 手足はすんなりと長く美しく、つまり、俺の見ているシロロは人間が天使として考えるだろう最上の姿をしているのだ。

 顎ぐらいのおかっぱの白髪は腰ぐらいの長さとなって、今は虹色に輝いて宙にたなびいている。

 彼の左手は左の頬を真っ赤に染めたエランの右手首を掴んでいる。

 エランは焼け焦げ切り裂かれて赤黒く染まっているが、もともとの強靭な精神がなせる業か、全く意識を失っていなかった。

 しかし、自分が呼び出した魔王に魂を抜かれた様にして見上げている。

 シロロは最上の可愛いから最上の美しいに変化していたのだ。


「汚れた教会は燃やし尽くします。」


 シロロの静かな声は誰の耳にも届いた事だろう。

 魔王であるがために、神のようにして、生きとし生ける者達全てに言葉を与えることが出来るのだ。


「汚れた教会の命を受けた者達は粛正します。」


 シロロが右手を上げると、指先から五本の光が弾けた。

 五つ、すなわち、ダグド領を目指していた軍団だ。

 それらがいるであろう五か所の地の方向で大きな衝撃が起こり、その数秒後には大きな大きな炎の柱が天を目指してつき上がった。

 張り子のような俺を翻弄するように、火柱で起きた大気がごうっと流れた。

 見渡す限り世界は紅蓮の炎が広がり、炎から生まれる真っ黒な灰で太陽が隠されていき、昼日中であるのに暗い影を帯び始めているのだ。


 終末とも思える天変地異に、ただ一つ煌く銀色の光。


「神の名を使ってダグドを襲うものは許さない。」


 俺は何てシロロがいい子だと、紅蓮の炎が舞う世紀末のような世界で、抑えきれない高揚した気持ちのまま声を上げて笑い続けていた。

 彼は人が死なない場所に、それでもとてつもなく恐怖を生むような火柱を、世界に怒りの鉄槌として与えたのである。


 神のご指示だと世界は錯覚しただろう。


 俺の領土を目指していた奴らは、今や神の裁きに巻き込まれまいとほうぼうの体で故郷に逃げ帰ろうとしているではないか。

 これならば、しばらくのダグド領は安泰だ。


「なんてチートだよ。」

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