世界情勢を変える小さな種③
俺達の住む世界は、所々にゴブリンやオーク、そして悪鬼系のデミヒューマンが巣や村を作っているので、人間達は街には高い塀を作って自衛して細々と生きているのがほとんどだ。
しかし完全なる自給自足など出来るものでもないので、商品を流通させる街が目先の利く商人によって作られ、そして出店税を取ることで大きく裕福な国となったものがいくつかある。
俺の領地の近くにある商業都市国家、ディ・ガンヴェルも商人によって作られた町であり、その一つと言える。
また、そういった町は自衛力を高めるためにか、そこかしこで雇われ傭兵が目を光らせてもいる。
しかし、雇われ傭兵は雇われ傭兵でしかないのだ。
美しい女や儲けすぎた店を見つけると、下卑た欲望の解消を強要したり、袖の下を要求することはよくあることなのである。
俺の領地では果樹園に畑の作物、そして生贄で捨てられて増えた家畜によって、おかずとなる材料は自給できるが、主食となる小麦は少々心もとない。
そこで時々は俺の城の地下に作られているオートメーションの紡績工場で作った布地をエレノーラ達に持たせてディ・ガンヴェルにある都市トレンバーチに売りに行かせているのである。
彼女達は布の代金で小麦などを買い込んで来るのだが、今までは彼女達の安全を考えてほんの少ししか売り物を持たせなかったのである。
「必要ありません。今までの売り買いで大丈夫です。それどころか、持っていく布地が少ないからこそ、希少性で高く高く売れるのですのよ。ダグド様の織る布地は最高だと物凄く評判で、布を持ち込む私達に粗相がないようにと、トレンバーチでは私達は上客扱いで全くの安全ですの。」
俺はちいっと舌打ちをした。
畜生、鶴になって飛んで逃げてしまいたい。
「あぁ、僕もトレンバーチに行きたい。」
「珍しいな。お前が外に出たがるなんて。」
シロロはケーキに塗ってあったジャムを口中に付けた顔のまま、ふふふっと俺に笑い返した。
「あそこの街を攻略したら、かなりの富と領地を得られます。」
俺は魔王の雛に一瞥を与えると、聞こえなかった事にして俺の大事なエレノーラに振り返った。
「アルバートル達を工業国家のクローシンライドに向かわせる。俺の鉄板を売りに行かせたいと君は言っていただろ。あの力馬鹿にその仕事を与えたらどうだ?」
「バカだから、金勘定が出来そうもありません。」
「君のお兄さんでしょう。」
「あぁ、クローシンライド攻略もいいですね!」
俺は血気盛んな馬鹿にうんざりし、エレノーラのアルバートルへの憤懣の気持ちがよくわかった。
「あぁ、わかった。将来的な攻略を念頭に、アルバートル達を適当な都市へ情報収集の旅に出そう。それでいいな。」
エレノーラは実の兄を追い払えると喜び、シロロは俺が世界征服への動きを見せた事に満足したのか、俺にうっとりとした顔を見せた。
俺はこの地に縛られた中ボスなんだ。
世界征服に動けるか。