シロロとエランはいつも一緒
アルバートル達には俺の旗を腹巻のようにして巻くように命令した。
俺は誰一人として欠けさせたくないからして、怪我をしたら片っ端からダグド領に強制送還してしまおうと考えている。
また、この行為によって彼等自身が完全に俺の領土となっているので、俺は敵陣にありながら彼らに意識を飛ばせていた。
だからこそ、別行動を取るエランの動向も俺には見えた。
シロロはアルバートル隊から外れたのだ。
アルバートル達の狙いは宮殿内を逃げ回っているイグナンテスの首。
しかし、シロロはイグナンテスの隠し部屋へと向かっていた。
俺達が突入した棟は、司祭や教皇が住むための百室以上の宿泊室が揃えられているという五階建ての建物だ。
ミサイルで潰したのは、三階建ての礼拝堂への渡り廊下と、美術館ともいえる五階建ての棟への渡り廊下である。
廊下や出入口が潰されても窓から逃げればよいだけの話だが、イグナンテスにそれが出来ないのはシロロによる魔法干渉が行われているからでもある。
ただし、そんな事が出来るシロロが目的地へテレポートを使わない事に俺は首を傾げてしまうが、もしかして魔王であるシロロの侵入を拒む結界がシロロの魔力と拮抗もしているのかもしれない。
すると、やはりイグナンテスはシロロの化身であったのか。
そしてシロロはエランと一緒に、イグナンテスの隠し部屋へ辿り着くべく、次々と部屋を探索しながら先へ先へと進んでいるのである。
実のところは壊せる扉や壁を壊しての快進撃だが。
「シロロ様!壁を壊し過ぎです!」
「きょきょきょきょきょ!」
シロロは奇怪音を奏でるだけの異形となっていた。
ウサギさん巨大タマゴというシロロの変身に俺はトラウマを持っていたが、今のシロロの姿には三日はうなされそうだとげんなりした。
体はシロロのままだが、頭をカバとゾウがハイブリットしてしまったような造形で巨大化させており、その姿で頭突きをしながら壁や扉を破って先に進む、という行動をし続けているのである。
最初はいつものシロロサイズの獣の頭であったが、衝撃を受けるたびに膨らんでいき、いまやその頭は、小さなシロロの身体には大きすぎる直径1メートルはあるだろう巨大バルーンだ。
「大丈夫ですか!シロロ様!頭は大丈夫なのですか!」
がああん。
エランの叫びと大きな破壊音が重なった。
シロロが扉を破る前に、エランが自分のショットガンでその扉を吹き飛ばしたのである。
シロロにこれ以上体当たりをさせないという気持ちなのだろう。
破壊する扉が先に破壊された事でシロロは動きを止め、破壊する対象を失った大きな頭をぐらぐらさせた。
「きょきょ。ぼ、ぼきゅはりくのおうのばけものじゃ。だ、だから、余計なことをしゅるなえらんよ。ぼきゅはだいじょうぶなのじゃ!」
唯一無二の魔王じゃ無かったのかよ。
ランクを下げての陸の王を名乗るとは、お前はベヒーモスか?
もしかして、ベヒーモスだと言いたいのか?
俺は相変わらずのわけわかんなさのシロロから目を背けて、宮殿の回廊で暴れまわっているアルバートル達に戻ろうと決めた。
アルバートル隊が現在交戦している相手は、白い蝋で固められたような小型ゴーレムと皮膚を縫い合わされて空気を入れられた風船人間の混成隊である。
カイユーは強化した体でぴょんぴょん跳ねて風船人間を次々と落とし、アルバートルとティターヌはゴーレムへのストッピングの為なのか、無駄に無駄弾を撃ちまくっている。
イヴォアールとフェールは、ゴーレムを操る呪術師達を切り刻み隊だ。
あいつらのお祭り状態の暴れ方は何なのだろう。
まるでイベントクエストに一番乗りしたパーティみたいだ。
「シロロ様。あなたは化け物ではありませんよ。自分を痛めつける事はおやめください。」
エランの静かな声に、俺は幼気すぎて痛々しいシロロを見つめ直した。
シロロはぴたっと立ち止まると、ベヒーモスな巨大な頭を上下させた。
カバともゾウともいえない獣の大きな目玉から、大きな涙がぼたっと落ちた。
「ぼきゅのせいだ。」
エランは頭が巨大化して彼と同じ身長に近くなっているシロロに対し、いつものシロロに対するようにして身をかがめた。
「イグナンテスがあなたのお身内でも、あなたの責任ではありません。」
涙は鼻にも流れたのだろう。
シロロは鼻を大きく啜り、だが、奴の頭は重すぎだ。
バランスを崩した彼はそのまま後ろに転び、頭を床に強く打ち付けた。
どがん。
「シロロ様!」
床に穴が空き、俺は次に起きることを目を瞑って受け止めた。
シロロは自分の空けた穴に頭ごと落ち込み、シロロを助けようとシロロの足首を掴んだエランもそのままその穴に吸い込まれてしまったのである。
魔王様!君はわけがわかんなすぎるよ!




