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会議をしようよ

 俺は酔っぱらいと二人だけではまともな議論が出来ないと感じた。


 よって、もっとオープンに話し合う必要があると俺の相方を捜しに行き、酔っぱらいには酔いを抜いておけと言い残して会議室を出た。


 そして、会議室に戻って来たと会議室のスクリーンモニターにアルバートルの副官が映っている事も確認してから、これからの方向性を決めるためにはと、俺が考えている譲れない事をまず集まっている者達に知らしめることにした。


「できる事ならこっちの被害は完全なゼロで、相手方にもほとんど被害を与えないようにしたい。俺は出来る限り他国に干渉したくは無いんだ。」


「それ、冗談ですか?世界に宣戦布告した人のセリフですか?」


 アルバートルの切り返しは早く、イヴォアールは噴き出すと画面から消えた。


「いや、あれはちょっとその時の流れもあるしね。ねえ、エレノーラ。」


 俺の相方と言えば勿論妻だ。

 エレノーラは俺をも差配できる領地の差配人であり、ダグド領の今後を決めるのであれば必ず呼ぶべき人物である。

 しかし彼女は俺に話を振られたそこで、うふふ、と冷たい笑い声をあげただけだった。

 仕事の邪魔をした上に、俺は記憶喪失になってしまったのだ。

 よって、会議室に行く前に三十分も彼女を引き留めてしまうこととなり、そんな俺を彼女は情けないと思っているのだろうか。


 エレノーラを呼びかけた時の彼女が俺に向けた笑顔がまるで花が咲いたようで、俺はそれだけで幸せになって全てを忘れてしまったのである。


「ごめん。君に相談も無く昨日はあんな宣言しちゃって。だからさ、これからは君の意見も聞きながら、ってね。ついさっきも、君に促されるまで君を呼びに行った理由を言わなかったのは、ええと、君の笑顔で世界を忘れちゃっただけで、あの、情けないと呆れちゃったの、かな?」


 エレノーラは、え?、という顔を俺に向けた。


「情けないです!ダグド様!その通りですよ!」

「君は黙っていてよ!アルバートル!」

「兄さんは黙っていて!違いますわよ!」

「違うの?」

「そんなことは良いのですよ。私こそさっさと小うるさい蠅は落としてもらいたかったのですもの。それに、ついさっきは私も幸せでした。」


「ああ!良かった。」


「あなた、それよりもこの男が使い物になりますか?一体何をこの男に飲ませたのですか!へべれげじゃあないですか!」


 俺は言われてアルバートルを見返せば、信楽焼の狸のように顔を赤くした彼はにやっと俺にだらしなく笑って見せた。

 ビールを飲んでてほろ酔いの男だったが、今や完全に酔っていやがる。


「酒を抜けと言っておいたのに、君は追加しちゃったのか?」


「あなたが妹を呼びに行くって三十分も帰って来ないので、手持ちぶさたで。もしかして戻れない状況なら、俺もあなたの後押しをしてあげようとね。アルバートルさんも酔っぱらっちゃったから使えないよってね。ハハハハ!」


 酒も飲んでいない俺もエレノーラも真っ赤になるしかない。


 察してくれてありがとうと、俺は彼に頭も下げるべきなのだろうか。

 そして、彼からウィスキー臭が漂う事で、彼はまた強い酒をビールのように飲んでしまったのだと理解した。

 すると俺の頭の中を読んだようにして、答え合わせか彼は隠していたウィスキーのボトルをテーブルにごとりと置いた。


「ディンのバルマンが贈ってくれたウィスキーを飲んだのか。これもブランデーと同じ度数だからワインやビールのように飲んだら死ぬぞ。」

「あなたがウィスキーを炭酸水で割ると美味いって言っていたじゃないですか。試してみただけですよ。確かに美味い。」

「あ、そうだけどさ。炭酸って。」


 アルバートルは最高の笑顔を見せると右手の人差し指でテーブルを突いた。

 俺は会議室のテーブルの下を覗き込み、そこにママごと用の小さなテーブルを前に正座していた白い生き物を目にする事となった。


 テーブルには大き目の氷入れと重ねた紙コップが置いてあり、自らは炭酸水の入った巨大ボトルを背負っている。


 シロロは会議室のテーブル下でバーテンダーごっこをしていたらしい。


 彼は俺と目が合うとにっこりと無邪気に微笑んだ。

 それから彼は紙コップに氷を入れ、背負っているボトルからチューブを引っ張り出すとそこについている注ぎ口を押して炭酸水をしゅっと注いだ。


「何をしているの?」

「炭酸レモネード屋さんです。ノーラ姉さまがこれをくれました。みんなにお疲れ様って言って冷たくておいしい炭酸レモネードを配れば、みんなは僕のことを嫌うどころか良い子良い子してくれるって言っていました。」


 慰めるのは面倒くさいからと目新しいものを与え、それで相手の気分転換を図ろうとするなんて、ノーラはなんと俺に似て適当な奴なのか。


 イグナンテスが自分の分身かもしれないと落ち込んでいた子の復活は嬉しいが、俺はシロロから紙コップを受け取りながら彼に自分の疑問をぶつけていた。


「ここでお店屋さんを開いてもお客がアルバートルさんだけでしょう。」

「僕が歩き回って手渡すよりも、僕を慰めたい人を安全なここで待てとアルバートルが言いました。」


 アルバートルの足元には小型のゴミ箱もあり、そこにはアルバートルがシロロの炭酸レモネードをハイボールに変化させて飲んだ後の残骸が重なっている。

 俺はテーブルから顔をあげ、イヴォアールに声をあげた。


「そこからここに何人呼び戻して大丈夫だ?君達も順番で体を休ませないとだろ。まずは君かティターヌに戻ってきてもらって、君達の大将をちょっとどうにかしてくれないかな。」


 灰色の目を持つ砂漠の王子様のような外見の男は自分は嫌だと笑い、アルバートルの生贄とシロロ見守り要因として下っ端二人を差し出して来た。


 俺は彼が名前をあげたエランとフェールを呼び出した。


 訓練用体操着姿のエランもフェールも水浴びをしたまま砂を被ったような外見で、コンスタンティーノに俺はシャワールームも作ったはずだと首を傾げた。


「このような姿ですいません。町の破損家屋の修繕作業をしてました。」


 部下が汗水流して働いているのに飲んだくれていたのかと、俺はろくでなしの酔っぱらいを睨みつけてから哀れな隊員に振り返った。


「お疲れ様です。ええと、まずシャワーを浴びて来てくれるかな。それからあの飲んだくれを頼む。」


 砂埃だらけの彼等は俺に敬礼をして、シャワールームへと駆け出して行った。

 だが後ろを見送りながら、イヴォアールがどうしてあの組み合わせにしたのだろうかと、俺は少し首を傾げた。


「あなた?」

「ああ、うん、じゃあ続けようか?あ、そうだ。君も。」

「ああ、そうね。」

 エレノーラは屈みかけ、俺は自分の失言に慌てて気が付くと彼女を抱き締めた。

「ああ、駄目だ。君は屈まない。君は座っていて。」

 俺は再びテーブル下を覗き込み、魔王様に追加注文を頼んだ。

「エレノーラの分も頼む。」

「はーい。」

「それから、君も一緒に話しを聞こうね。君が考えることを発言してくれても勿論構わない。君は俺の大事な息子で跡取りだ。そうだろう?」


 シロロは俺を見上げて微笑んだ。


「燃やしましょう、水爆で!」


「……却下。子供の君はそこで静かにお店屋さんしていなさい。」

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