敵を倒したその後を考えて
ここまでのあらすじ
世界は既に一度滅んでいた。
本来ならば魔王復活シナリオのはずなのに、シロロは復活しておらず俺という黒竜も生存中だ。
そして、人を助けるガルバントリウムこそ不幸をもたらす存在となっている。
「僕の悪意があそこに行ってしまったの?」
「黒竜の悪意かもしれないね。」
俺とシロロは手を取って、そして、俺を支持するというダグドの民の心を受け取って、俺は四月二日にガルバントリウムへの宣戦布告を行った。(by ダグド)
宣言をしたならば攻撃あるべきだが、魔法世界でありながら攻撃力の差は我がダグドとガルバントリウムでは大きすぎる。
物量的にはガルバントリウムに理があるが、本気でやるならばダグド領の戦力は宇宙人が人類を攻撃してきたほどに大きすぎるのだ。
ダグド領に攻めてくる予定の数万の歩兵団など、俺が作った飛行機に焼夷弾を乗せて落としてしまうか、あるいは、スカッドミサイルで通商とガルバントリウムの本拠地を破壊してしまえば良いだけだ。
その結果、多大な被害からの俺への恐怖で侵攻など一時停止するだろう。
だが、宇宙人が地球人に抵抗されて追い出されるように、その方法では勝ててもダグドが恐怖政治を行い続けなければ世界を掌握し続けられない。
植民地時代の西洋人が植民地の人間に何をしたか。
まず、その土地の有力者達と反抗する者達の殺戮だ。
それでも反抗的な民に対しては、十数人しか入れない小屋に三十人以上を押し込めて数減らし、なんてことも行った。
拷問好きの西洋人は、拷問に関してはイマジネーションが無限のようだ。
ぎゅうぎゅうに詰め込まれた小屋の中、水も食料も与えられず、横になって寝る事も出来ないという拷問。
生き残って小屋から解放された人間に生きていく気力は残るだろうか。
支配者である彼等はやりすぎて、時には植民地の住人の数が減りすぎてプランテーションの人手が足りなくなることも多々あった。
その場合は、彼等は他の植民地から人までも勝手に植民したのだ。
そうやって人々の暮らしや歴史は世界地図の中で塗り替えられ、絶えてしまった民族は数多く、そのせいで植民地から解放された現代でも民族間での諍いが終わらない国も多い。
いや、わざと火種を残しての解放なのだ。
彼らが内戦を続ければそこに武器を売り、弱者には衣食住付きの農業生産の従事という、手助けのように見える奴隷契約なども出来る。
俺にそれが出来るか?
そこまでやれるか?
出来るわけはない。
アルバートル達にそれを命じられるか?
そんな事を命じれば、彼等は俺と袂を違えるはずだ。
「いや、俺は焼夷弾一発で構いませんよ。」
「え、それが嫌だから、コンスタンティーノのデコイ作戦を君が立てたんでしょう。そっちに団体様を一個ずつ呼び寄せて叩きましょうって作戦。そんで、団体様にはイグナンテス個人の信用落とす情報なんかも流して、迅速に敵兵を寝返らせましょう作戦も同時進行って奴。」
「そうですけどね。そんな一発で敵を殲滅できる兵器があるなら、そっち使いましょうよ。イグナンテスのいるところは水素爆弾でドカンで、気持ちよく。」
俺は盟友の言葉に唖然としながら、コンスタンティーノで俺に忠誠を使う敬礼を昨日していたはずのアルバートルを見返した。
数時間前までは埃と砂塗れだった彼は、会議室で俺と話し合う予定で俺を待っていた今の彼は、数時間前と違い風呂上がりで浴衣姿という気楽な姿で、白に近い金髪から赤くなった頭皮が透けて見える程にほろ酔い加減という有様だった。
缶ビールなんて、どうして俺は作っちゃったんだろう。
電気があればアルミニウムも生成できる。
これから籠城もあると思って缶詰を作らねばと試作して、缶詰を作るならば缶ビールも作ってしまおうとやってしまった俺が馬鹿だった。
アルバートルを報告と相談の為にダグド領に戻したは良かったが、知りたがりの彼は俺のやっている缶詰作成に対し、これは何だと俺に尋ねた。
「缶に詰めれば長持ちするからね。色々詰め込んでみた。こっちはビール入り。」
「ビール?エールですか?」
「そうそう。エール。冷えたビールは美味いよ。」
「エールを冷やすのですか。」
「ひえっひえにね。風呂上りにはこれしかないって思うよ。」
「エールはそのままでいいと思いますけどね。」
「そうかな。」
俺はアルバートルのその返しによって、アルバートルに対する警戒心というものを無くしてしまっていた。
そのせいで、アルバートルに作ってみた缶ビールを全部、彼等が根城にしている見張り台に持って行かれてしまうという失態を犯してしまったのだ。
大航海時代の西洋人が植民地を作る時に残虐だったのは、全員が全員、酒浸りでまともな思考が出来なくなっていた時代だった事を忘れていたよ!
「全部持って行くなよ。」
「冷蔵庫にまだありますよ。お好きにどうぞ。」
「堕落だ何だとイグナンテスを突きあげといて、俺は大事な自分の騎士こそ堕落させちまったようだとはがっかりだよ。」
「いいじゃないですか。俺はあなたの言う通り、明日から重労働な方法で敵さんを追い払う働きアリになるんですから。」
「そうなんだけどね、まず、コンスタンティーノの住人に帰郷を促してくれるか?他の国でそれなりの暮らしをしているならいいんだけどね、そうじゃない人達は故郷に返してあげたい。君達は戦う、だろ。町を運営するには住民がいるんだよ。ついでにダグド様のお陰で暮らしが良くなりましたって声もね、いるだろ。」
アルバートルは俺にウィンクをして見せた。
「船があれば漁師は港に帰ってきますよ。」
「結局俺は君に帆船をプレゼントか!」
酔っぱらいは酔っ払いらしい歓声を上げた。




