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転生先が物語分岐の中ボスという微妙な立ち位置だった  作者: 蔵前
春が来れば虫がそこらじゅうで湧いて溢れる
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世界への宣戦布告の日

 魔法とは素晴らしいと、コンスタンティーノに発電機と浄水場を作り上げた俺は自分を自画自賛していた。

 元々の町にあった水路に水を流し、急遽作り上げた仮住まいに発電機の電気も通した。

 町が殺風景だとダグド領の山に生えていた木も何本か植林し、ダグド領よりも温かいからとイチゴの苗も木の周りに植えてみた。


「えーと、今後使われるだろう町としてそれらしくなったし、あとは、ここを狙わせるための演説か。」


 俺は会議室を出ると妻の受け持つ差配人室へと向かった。

 檄文ならば彼女に任せて見るのも面白いと思ったからだ。

 しかし、俺はイグナンテスに対抗してどうなるのだろうか、と考えた。

 また、彼はどうしてここまでガルバントリウムを変容させたのかと、俺は久しぶりにイグナンテスの存在について考えてしまったのだ。


 彼は十五年前に教皇に納まり、そして、彼の方針により純粋なる司祭がガルバントリウムから失われ、司祭は黒魔法使いだらけとなってこの世界から白魔法を使える司祭が消えた。


 俺の足は止まり、俺は再びに会議室に戻っていた。

 俺はアルバートルを呼び掛けた。


「アルバートル。世界地図を出してくれ。今のこの世界の全体図が見たい。」

「あと十分待ってください。今はあなたのせいでゴーレム退治です。」


 俺はバシンと机を叩くと、時間が惜しいと自分の魔法をゴーレムにぶつけた。

 海水で水蛇ヒドルスを作ってそれをゴーレムにぶつけたのだ。

 三体のゴーレムに大きなヒビが走り、アルバートル隊は俺への感謝どころか罵倒を浴びせ、しかし歴戦の兵士らしく勝機を逃さずに止めの銃弾や剣激をゴーレムに浴びせ始めた。

 そして、三分しないでゴーレムが砕け散ると、会議室のスクリーンにはアルバートルによる世界地図が映し出された。


「一体どうしたというのです。この世界の全体像がどうしたと?」


 それは衛星から傍受したような画像だが、俺の中で首をもたげていた疑問への答えそのものとなっていた。


 現在の大陸図が完全な中盤以降の大陸図だと、間違うことなく確認できたのだ。


 現在の地形図は、俺と友人が考えて作り上げた、ダグドが死んだ後のマップでしか無いのである。


「本当に、何の冗談なのだろうな。……世界は一度滅んでいたのだな。十五年前に、大きな天変地異がすでに起こっていたのだな。」


 アルバートルは数秒の沈黙の後に答えた。


「世界が滅んだと言ってよいのかわかりませんが、ええ、天変地異は起きました。三十年前のダグド討伐で一度。それから十五年前にも再び、です。どちらの異常もあなたが起こしたものと言われ、ええ、十五年前の異常に関しては治めるために妹が生贄に選ばれたのです。」


「では、勇者はダグドを倒していたのか?はは、俺は人肉を食べて今の俺になった。俺が喰ったのがダグドを滅ぼしに来た勇者だったのだろうか。」


「勇者をダグドへ導いた魔王は三十年前にも十五年前にもいました。でも、それは魔王にはなり切れなかったの。三十年前はダグドを怒らせただけで討伐が失敗だったし、十五年前は勇者を食べたダグドにかみ砕かれたから。それで、僕はばらばらになっちゃったから、僕はもっと力を失ってちっちゃくなって、僕であった僕の一部もどこかに行っちゃって。」


 俺の質問に答えたシロロの声は、シロロの贖罪の告白だった。


「イグナンテスは君の分身なのかな。」


「――わかんない。僕のようで僕では無い感じ。でも、僕の一部だったら、僕が皆を不幸にしているんだよね。」


 俺は会議室の空気を全部吸ってしまうぐらいに大きく鼻で息を吸い、室内に漂うはずのバターかバニラ、あるいはシナモンの香りを捜した。

 俺は自分の右横で感じたほのかな硝煙の臭いに頬を緩めると、何もいない空間だがそこに両手を伸ばして姿を消しているシロロを抱き締めた。


「君の一部なんかではなく、俺という人格が追い出したダグドの意識そのものかもしれないね。どちらにしろ、この状況がどちらかのせいだとなると、一緒にイグナンテスを滅ぼして罪滅ぼしをしようか。」


 俺の腕の中で魔王の雛は色を取り戻し、この領地に来たばかりの時に俺の腕の中で泣いた時みたいに、彼は俺にしがみ付いてぐすぐすと泣き始めた。

 俺はさらに彼を抱き締めると、領地の領民の全員が聞こえるように音声を解放して、俺の言葉を全員に伝えた。


「俺は俺のせいかもしれないこの世界の歪みを修正する。これは俺がこの世界に戦争を仕掛けると言っているも同じだ。俺は今日この日を持ってこの世界に弓を引く。」


 大きなスクリーンの地図は消え、代わりにアルバートル隊が砂漠の真ん中で胸に手を当てて騎士の礼を捧げている映像に移り変わった。

 領地は俺の目で見える。

 ガルバントリウムの教えで生きて来た領民の老いも若きも、全ての民が俺への忠誠を捧げていた。


 四月二日。


 俺はイグナンテスが昨日に俺を悪竜と名指しした逆として、竜の立場でありながら、人々の信仰を愚弄し貶めた存在としてイグナンテス討伐の決意を全世界に知らしめた。




 ダグド領からガルバントリウムへの宣戦布告である。

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