まち、クラフト ②材料を狩りに行こう
寝起きの男達は想定通りの牛のような唸り声をあげた。
「さあ、行ってこい!俺に町を捧げたアルバートル君!君こそ、さあ!」
アルバートルはにやりと笑顔を作ると、俺に会議室のスクリーンに彼が新たに提供した画像を見ろという風に自分の目元をつんつんと叩いた。
「見なくともわかる。敵の侵攻だろ。あいつらは大丈夫だ。」
「何をしました?」
「何も。砂漠にはサンドサーペントもいるし、海岸沿いを歩けばレヴィアタンがこんにちはと飛んでくる。君は東側の敵に対しては素晴らしい障害となる場所を選んだものだよ。それから、さあ、四方をその目で見回すがよい!」
俺はコンスタンティーノを覆い隠している砂の処分を考えて、面倒だからとコンクリートにして町の周囲を囲む壁にしてしまったのだ。
鉄骨は入っていないが、カイユー達が倒したサンドサーペントを金属繊維のようにしてコンクリートの中に織り込んでいるので、応急処置的に張り巡らしたこの簡易な壁でもそれなりな強度はあるはずだ。
また壁が囲む範囲はコンスタンティーノの全土と言えず、約0.3平方キロメートル程度だが、今の所の安全地帯と考えるのならば十分すぎる広さだろう。
まず、壁で囲まれたここを整備して、徐々に陣地を広げていけばよいのだ。
そして、俺の素晴らしい働きに対してアルバートルは感謝どころか、畜生!、という判り易い表情を作った。
俺はここで物凄く気分が沸き立った。
アルバートルからポイント取ってやったぞ、的な高揚感だ。
「理解したかな。大ムカデはあと、四、五匹でいいんだ。頼めるかな。」
アルバートルは右の目元をピクリと痙攣させると、物凄く面白くない顔で部下達に命令を下し始めた。
「全員ルシファーを背負って戦闘準備。目標は大ムカデの討伐。」
「まあ!楽しそう!わたくしも参加したいわ!あの偽の翼も着けて飛んでみたいし、ねえ、シロロちゃん。」
「はーい。」
俺はシロロがハートフルなアニメの幼児のような返事をしたところで、シロロとリリアナを一緒に会議室に転送させた。
が、シロロは俺よりも上位魔物であるからして、彼を会議室に留めて置く事など不可能で、すぐに彼らは俺の横からパッと消えた。
俺は大きく溜息を吐くと、以前から乙女隊に強請られていたルシファーをリリアナとシロロにも支給してやった。
「シロロは使えると思うが、リリアナは初めてだろ。シロロがリリアナの面倒を見れるか?出来なければ全員の危険を誘うからね。リリアナは今回は我慢という事になる。」
「あら、大丈夫よ。フェールから使い方を教えて貰っているから使えます。」
アルバートルはフェールを睨みつけ、それから俺に誰かを本気で殺してやりたいという顔を見せつけてきたので、俺は会議室に残るイヴォアールに振り向いた。
「ねえ、君がムカデ討伐隊を指揮してくれる?俺はアルバートルが怖い。」
灰色の瞳をきらりと煌かせた男は、過去に彼をいじめた過去を俺に後悔させるどころか、俺が死にそうなほどに胸を痛くさせるぐらいの素晴らしい笑顔を見せた。
「喜んで。」
「ありがとう。」
俺はアルバートルに再び向かい合った。
「君はここでイヴォアールと交代だ。って、あいつ、号令かけて飛んじまった。」
俺は浮力が足らない彼らに慌てて風を起こし、アルバートルの天邪鬼さに大きく溜息を吐いた。
「もう、何んなのよ。あの男は。」
「反抗したいお年頃なのかもしれませんね。彼は虫が大嫌いなんですよ。エンプーサ事件でさらに虫が駄目になりましたね。そして、自分以外が経験値を大量に手にするのももっと嫌いなんです。」
「――もしかして、君は全部わかっていて俺の頼みに了解を?」
「当り前じゃないですか。俺は砂まみれも虫も嫌いです。」
俺とイヴォアールは気安そうにハハハと仲良く笑い声をあげたが、俺はどうしてこんな底意地の悪い男を虐めてしまったのだろうかと腹の底が冷えていた。




