勝手な戦闘狂
「遅いですよ!俺達はシロロ様がいなければ死んでました!」
妻には叱られ呆れられ、それでも無理矢理起こして協力を約束させた娘を連れて俺は会議室に戻って見れば、スクリーンにはアルバートルの不思議な格好が映っていた。
「おや、いつの間に。」
「あなたが遅すぎたからです!」
アルバートル達が交戦中なのはわかっていたが、シロロがアルバートルの背中におんぶ状態で紐で括りつけられている、という状況なのだ。
真っ黒な軍服で身を包む美丈夫がヒヨコ模様のパジャマを着た幼児を背負う、それはとても心を和ませる風景でもある。
化け物宰相の攻撃の中に無いのならば。
また、アルバートル隊は砂嵐を纏う宰相の砂嵐に巻き込まれていたが、シロロの絶対防御のお陰か砂も蝙蝠も彼等の周りをドームがあるみたいにして流れていた。
ただし、アルバートルの背中でシロロが時々ガクッと眠りに入る度にドームが消え、その度にアルバートル達は全弾を宰相に打ち込むという必死の防戦である。
「すごいな。ただし、全く攻撃が効いていないのも凄い。そんなにレベルが高い敵では無いと思ったのだけどな。」
俺の口調が皮肉めいているのは、大砲もガトリングも無しで小銃だけという点で、彼らが経験値稼ぎのための縛りプレイを始めているように思えたからだ。
「まあ!ひどい方ね、ダグド様は。でも、うふ、うふふふ。ああ、いいわ。このアルバートルとシロちゃんの姿が見れただけで私は満足。では、わたくしをすぐにあそこに送ってくださいな。」
「君は大丈夫?」
「ダグド様がエッチな服を作ってくれたから大丈夫。」
アルバートル隊が着ている軍服のズボンを左側に深いスリットのあるロングタイトに変えただけなのだが、リリアナは俺を物凄く助平だと揶揄って喜んでいる。
「動きやすいと思ったのだけど。君はズボンは嫌だって言うし……。」
「ええ、動きやすいわ。踊り子になった気持ちよ。」
リリアナは左足をすっと動かして見せ、俺に自分が助平だったと思い知らせた。
「うわっ!俺は助平だ。リリアナの綺麗な左足が丸見えだ。」
「ふふ。その足をさらに厭らしくさせる網タイツとロングブーツなんて素敵な靴をプレゼントしてくれたのはどなたなの?」
彼女は俺の顔が真っ赤になった事に喜びの笑顔を見せると、リリアナ用に俺が追加して渡した軍帽を被って片目を瞑って見せた。
「うふふ。では、転送を。行ってきます。」
「はい、行ってらっしゃい。」
スクリーンの中では戦況が見るからに好転した。
リリアナの歌声によって蝙蝠は次々と地面に落ち、宰相が防御と攻撃のために巻き上げていた砂は風に舞っていくようにして宰相から剥ぎ取られて行った。
終に丸裸となった哀れな宰相に、アルバートル隊はここぞとばかりに一斉射撃による銃弾を宰相に浴びせ始めた。
「最高だな。神々しきディーバの歌声をバックに銃撃戦を鑑賞できるのは。」
俺は会議室のいつもの椅子に座ると、宰相と戦うアルバートル達ではなく宰相の死体前にいる別動隊の姿をもう一つのスクリーンに映しこんだ。
「さすが、アルバートル。シロロと一緒にエランも呼んでいたか。」
エランとフェールは薄暗闇へと空が白みかける中、砂漠の真ん中で墓暴きに精を出していた。
「あいつらが火力を弱くして遊んでいるのは宰相の霊を引き付けておくためか。もうすぐ日は昇るものな。全く、アルバートルめ、シロロを手にするために俺を追い払いやがるとは。」
シロロのお気に入りのエランはシロロからシロロ召喚札なるものを貰っている。
彼が寝ているシロロを召喚し、召喚されたシロロは大喜びでアルバートルの計画に乗ったのだろう。
寝ながら戦闘に参加できるなんて、シロロにはハッピーでしか無いはずだ。
「我が隊の団長をお褒め預かりありがとうございます。」
イヴォアールが会議室に入って来て、彼は手に持った盆から俺に温かい飲み物が入ったマグカップを手渡した。
「ありがとう。君が俺がリリアナを起こしている間にエランやシロロを動かしていたのか。」
「はい。団長がどうしてもあの街が欲しいとお望みなので。」
彼は全く困ったものだという風な声音で俺に応えたが、彼の目はアルバートル達の勇姿を惚れ惚れとした風に眺めている。
「いいよ。陸海空は抑えなければならないものだ。あいつはあそこを俺達の陣地にしたら船を作れと強請りそうだな。」
「船を持つのは彼の夢ですからね。」
真っ青な海に浮かぶ白い帆船はアルバートルに似合いそうだが、俺は潜水艦こそ好きな男だ。
残念だったな、アルバートル。




