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転生先が物語分岐の中ボスという微妙な立ち位置だった  作者: 蔵前
春が来れば虫がそこらじゅうで湧いて溢れる
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砂漠で眠る裏切られた宰相

 覚悟を決めた俺は、ゲーム制作者としてしてはいけない事に臨んだ。

 ネタばれである。

 しかし、どうして俺が知っているのか知られるのは非常にまずい。

 まずいというか、前世とか転生など説明なんかできやしないどころか、俺と友人の作り出したシナリオがアルバートルとエレノーラを巻き込んで不幸にしていたなどと言えるだろうか。


 よって小心者の俺は、こんな事を聞いた事があるがどうだろう、という体を装うことにしたのである。


「肉を喰らう蝙蝠と砂嵐というと、大昔にエレンプトという国の王様に裏切られて殺された宰相が魔物化した姿に似ているがどうだろう。奴は巨大な金の棺に封印されてどこぞの海の奥底に沈められたと聞いたが。」


「ああ、確かに十四年前に隣の港町でそんな箱を海から引き上げと騒ぎになりました。ええ、思い出しましたよ。ええ、変なミイラのようなものをやっすい棺に入れ替えて砂漠に捨てたとも聞いています。それですか。」


「たぶん。それだったら、太陽が出ている時に寝ている本体を焼いてしまえば始末が出来るはずだ。」


 アルバートルは今は無き過去の隣町だったという街を見通し、そこから死体を捨てた地点をサーチし始めた。

 会議室のスクリーンには飛行機から見下ろしたような地形図が広がり、そこに衛星のコンピュータでマス分けされてマスごとにスキャンされて分析されていくような映像が展開されて行った。


 アルバートルのこのシロロから与えられた能力の凄さは勿論だが、人の身でここまでの分析をしてしまう彼に感嘆を覚えるよりも、彼の身体が受ける負荷は無いのかとそちらの方が心配であった。


「君は、君の体は大丈夫なのか?」

「いつもの事なのにどうしました。ハイ、見つかりましたよ。ここから南南西の五キロ地点ですね。人骨らしきものが見えます。」


 会議室のスクリーンに映る彼の分析結果が、俺と友人の考え出したマップ図と重なることで俺は彼に正解である旨を伝えた。


「では、それだろう。日が出たらすぐにその死体の始末をしてくれるか?」

「了解です。ああ、もう一つ思い出しました。こいつが引き上げられてから親父の船がレヴィアタンに襲われて沈んだのだった。ああ、そうだった、畜生。では、レヴィアタンの襲来もそれが関係あったのですか?」


 レヴィアタンはそもそも内海に出たばかりのユーザーが出会う敵だ。

 ダグドと一緒に世界を滅ぼしたユーザーの後半の物語は、内海の向こう側のヨーロッパっぽい大陸の片隅から始まる。

 後半の世界は前半と違い緑が少なく、だだっ広い大陸は乾ききってひび割れてボロボロな状態だ。

 人々は海辺などの辺境に追いやられ、少ない水場を奪い合い、占領しての荒廃した世界なのだ。


 そこでの最初の大きなクエストはガルバントリウムの墓所に向かうものであるが、それはポータルで飛ばされての移動でしかない。

 そして、そのクエストは終了すれば再びあちらの大陸に戻される。

 その後は内海の向こう側の大陸でポータルを駆使しながら、こちらとあちらを移動しながらクエストを達成しながら内海の港街へと進むことになるのだ。


 物語を進めてようやく船を手に入れた後は、ユーザはポータルではなく自分の足で自分達が壊したせいで復活させてしまった魔王のフィールドに辿り着く事になる。

 そこですぐにクエスト発生だ。

 辿り着いたばかりの港町で街々を襲う化け物の話をユーザーは聞き、砂漠で眠る裏切られた宰相を討伐に出掛けねばならないのだ。

 つまり、裏切られた宰相の討伐は、完全魔王フィールドに辿り着いたユーザーの最初のクエストなのだ。


 だがここで問題点が俺の頭に浮かんだ。

 俺は生きていたはずなのに、十四年前に俺が死んでからのイベントが起きているってどういうことだ、と。

 いや、十四年前とは、俺が自我を取り戻して一年後では無いだろうか。

 エレノーラは当時の天変地異で生贄に選ばれたのではなかったのか?


 そこで、俺の頭に現在の地形図が蘇った。

 ダグドが生きている時代の大陸は、ユーラシア大陸に近い形で書き起こされている大きかった大陸だったはずではないのか。

 内海によって日本列島のような形に分断されている今の形こそ、黒竜が死んで魔王が復活した時の地形図だったはずでは無いのか、と。

 竜は一度死んで世界の破滅が一度起きていたのか?


「ダグド、様?」

「ああ、すまない。考え事をしていた。レヴィアタン、レヴィアタンの襲来だよな。その頃に海流の異常も無かったか?あいつらはサメと一緒で海流に乗って移動して来るんだ。」


 アルバートルは口元に右手を当ててしばらく考え込み、しかし、アルバートルの代りにフェールがおずおずと手をあげた。

「どうした?フェール?」

「あの、足元の砂がざわざわしているのですが……。」

 アルバートルは大きく舌打ちをすると、久々に自分の大砲を呼び出した。


「全員戦闘態勢を取れ。一当て、二当て、とりあえずその宰相とやらを砂漠に追い返す。その後にそいつが捨てられたところに向かって死体を焼く。」


 そしてアルバートルはまだ敵影の見えない虚空をしばし見つめ、それから自分の頭をパシリと叩いて、しまった、と軽い声をあげた。


「どうした?」


「ああ、やっば。砂嵐と大量の蝙蝠ですよ。カイユーとティターヌの連射では間に合いません。ここは援軍をお願いします。リリアナをここに呼んでください。」

「え、シロロじゃ無くてリリアナ?どうして?」


「シロロ様は夜の九時から朝食が終わる時間まで呼んでも来ません。お父様とした大事なお約束らしいです。破らせてもいいですか?」


「――ごめんなさい。お子様の生活リズムを壊したくないのでリリアナさんでお願いいたします。でも、リリアナは戦えないでしょう。」


「あのすさまじい彼女の音響攻撃で砂嵐を吹き飛ばせませんかね。宰相が纏っている砂嵐を何とかしないと攻撃が当たらないでしょうから。」


 俺はごもっともですと言って、ベッドでぐっすりと寝ている筈のリリアナさんを起こす事に決めた。

 いや、その決定はすぐに覆した。


「アルバートル君。戦闘計画やら戦闘手順やらを君から話して聞かせる事が一番だと思うんだ。君だけを今からダグド領に呼び戻すからね!」


「数分後には敵とインカミングですよ!急いであなたが起こして俺の所に連れて来てください!俺にまたリリアナに虐められろと言うのですか!こんなに領内の事に心を砕いている俺に!情報不足の時だって俺は頑張っていますよ!」



 俺は情報不足の台詞にごめんなさいとアルバートルにうなだれるしかなく、彼にそうだねと力なく言ってリリアナを起こす仕事に向かうことにした。

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