ここである必要性
キュグヌス号が目的の地に降り立つや、アルバートルは旗を抱えて飛行機から弾丸のように飛び出した。
俺は彼等が降り立った砂漠の地が砂に覆われただけの放棄された街の残骸であったのだと、旗を立てられた時に初めて気が付いた。
しかし、訝しんでいたとしても、目の前の海では侵入者に対して襲いかからんとする魔獣が蠢いてもいるのである。
彼らにはすぐにでも旗を立ててもらわねばならない。
俺も魔獣だとするのならば、雑魚魔獣は高位の魔獣に対して襲いかかることを決して行わず、従ってレヴィアタンが俺の領地や持ち物に襲いかかる事は今後一切無くなるはずなのだ。
そして俺が急げと念じている目の前で、アルバートルとティターヌは手分けをして飛行機の手前の二十メートル四方の角にダグド領の旗を四本立てた。
「カイユーとフェールをお願いします。ダグド様!」
実は捧げられた領地の返礼として彼らの仲間をテレポートをすぐにするつもりであったが、俺はもう少し後でも良いような気がして悩んでもいた。
「いや、ちょっと待ってあげて。あの子達は凄いよ!五十メートルはあったあんな巨大なサンドサーペントを一体屠った。まだ余力があるから後の二体もいけそうだ!こりゃ凄いよ!」
「遊びじゃないんです!無駄な弾を撃たせないでください!」
俺はアルバートルの本気にひえっと内心はなった。
だがいつものようにそんな脅えたところは隠し、つまり無言でフェールとカイユーを無理矢理にアルバートルの前に引き出した。
ぽん、とアルバートルの頭上に彼らは出現したのだ!
カイユーとフェールは格好よく剣を振り銃を撃とうとした丁度その時で、彼等は目の前の変化した敵にきゃあと叫び、俺はしまったと一瞬で後悔した。
が、アルバートルにはパブロフ犬的に反応する二人は、アルバートルを殺すことなく潔くその場にぼとぼとと落ちてくれた。
地面に転がった彼らはすぐにぴょこんと起き上がり、先程迄の戦闘の高揚感が残っているのか小学生のように騒ぎ出した。
「到着であります!団長!」
「ご心配をおかけしました!」
「でね、聞いてくださいよ!俺っちはやったんです!」
「そうそう!フェールと俺はサンドサーペントをやっつけたんですよ!俺はショットガンの連射機能が手に入りました!」
アルバートルは褒めるどころか叱りつける笑顔を部下に向けた。
ただし、彼等を叱りつけることなく、業務に戻れと低い声で唸っただけだ。
「ええ!褒めてくれないのですか!」
「いいから行くよ、カイユー!フェールとカイユー、業務に戻ります!」
カイユーはフェールにティターヌの元へと連れて行かれた。
「誉めてあげればいいじゃない。」
「あんな虫ごときに勝って何を喜んでいるんです。大体、ただの大ムカデでしょう。無駄な棘が生えているだけの体の大きな気色悪い虫だ。誰がサーペントなんて名付けたのでしょうね。サンドワームでいいでしょうに、全く。」
モンスターデザインも命名も自分でしたと俺は反省するしかない。
「それで、姿を現わされないのはどうしてです?」
「完全な俺の領土じゃないから、かな。まだ無理だ。ここに住居その他の施設を作り上げて、それから、かもしれないね。」
「かもしれないって、あなたでもわからないと。」
「そりゃそうだろう。俺は人を食った戒めとして自分の肉体を発電機の材料にしたと君に言っただろう。戒めって事は牢獄なんだよ。囚人が好き勝手に好きな場所に行けたら駄目だろう。」
アルバートルは頬を緩ませると右手を自分の胸に当て、滅多にしない騎士としての礼を俺に捧げて来た。
「新婚旅行も出来ないあなたの為に、俺はこの故郷の地をあなたに捧げます。」
「ここは君の故郷だったのか?」
「ええ。ある日を境に俺の親父達が乗った漁船が悉く海の怪物に襲われて沈められ、俺は化け物が襲いかかって来た漁港町から妹の手を引いて逃げ出すしか出来ませんでした。はは、叔母の元へと逃げたはずが、その叔母夫妻様に妹を奪われて枯れ井戸に落とされるとは全く予想もしませんでしたが。」
俺はアルバートルの告白に砂に埋もれ切った彼の故郷の街を見回した。
「たった十四年でこの砂か。ここは砂嵐もひどい所か?」
「いいえ、襲いかかって来た化け物の仕業でしょう。海から砂漠から襲いかかられ、俺達の街は一夜にして滅んだのですよ。」
「襲いかかって来たのはサンドサーペントか?」
「いえ、サンドサーペントではありません。化け物の名前はわかりません。肉食の大型蝙蝠を使役して砂嵐を纏う人型としか。」
俺は意識を会議室に戻すと、そのままべちゃりと机に突っ伏した。
畜生!
シナリオ上のクエストとイベントクエストが重なってしまった!
俺達が安全な新ダグド領を手にするためには、「砂漠で眠る裏切られた宰相」をまず倒さねばならない。
冬に「見捨てられし兵士の亡霊」だけダグド領に来ちゃっていたから忘れていたよ!
これらは「とある荒野」で遭遇するはずのセット品だった。
その荒野が、まさにここ、だ。




