航路の妨害
アルバートルは眼下に広がる砂漠という景色の中、自分の部下がいる地点を通り過ぎながら大きく舌打ちをした。
「急ぎましょう。それが一番です。」
アルバートルの隣に座り、彼を諫めたのは金色に輝くティターヌだ。
副官であるイヴォアールと銃騎士のエランはダグド領の守りに置いている。
ティターヌはそこいらの女性よりも美しいくせに、その光り輝く存在感を全く消し去ってしまうという特技を持っている。
また、ほとんどの女性よりも繊細で気が利くという性質の為、イヴォアールの代理を務めさせるには最適な人物なのである。
さらに、今回の出陣においてティターヌが選抜されたのは、ティターヌが所持する武器がガトリング砲であるという点である。
この武器ならば飛行機に対して攻撃してくる敵に対応できる。
「ああ、わかっている。お客さんもやって来たから頼めるかな。現在海からの一時方向と陸の三時の方向から大型の飛行物体が接近中だ。」
「かしこまりました。」
ティターヌは操縦席後ろの空間、他の乗組員用のベンチは壁に固定されているだけで何もない後部に行くとガトリングを呼び出した。
「グロブス召喚!」
彼の声に合わせてアルバートルによって胴体部のハッチが大きく開かれ、ティターヌに夜の空の風景を見せつけた。
「ティターヌ、狙いは一時方向だけでいい。三時方向は単なるガルバントリウム側の投石機による投石だった。あれはギリ当たらない。」
「一時方向のあっちの方はまだ見えませんが、あれは何ですか?」
「化け物なのは確実だ。ダグド様、あれは何ですか?」
俺は見張り台の会議室でスクリーンを眺め、その映像に大きく溜息を吐いた。
どうして俺と友人はこんな生き物を作ってしまったのだと考えながら。
「あれは海に住む魔獣だよ。全長十二メートルのサメ型の飛び魚だ。レヴィアタン。羽があるから弾丸のように飛んでくる。船を見れば襲ってくる性質だが、ああ、空を飛んでいても船だと思うと飛んでくるんだね。」
俺の説明にアルバートルは低い声であいつかと呟き、ティターヌはガトリングを消して別のものをグロブス召喚し直した。
俺達が過去に使い、その場違いな攻撃力を目の当たりにした事で封印しようと約束したレールキャノンである。
「真っ直ぐにしか飛ばないから狙いを外すな。ダグド様、他に武器はありませんか?いや、自動操縦をお願いできますか?俺もあいつに一矢報いたい。」
「レヴィアタンはこの世に一匹じゃないよ。」
船を手に入れたユーザーが何度もインカミングする事になり、経験値を手っ取り早く手に入れられるがHPと攻撃力が高くて苦戦もさせられるという、レヴィアタンは小ボスクラスのモンスターでもあるのだ。
「ええ。ですが俺の親父の船を沈めた化け物ですからね。」
俺はアルバートルに父親への弔い合戦をさせるべく自動操縦に切り替えてやったが、真っ直ぐにキュグヌスに向かって飛んでくる魔物の姿を眺めているうちに悪戯心も芽生えてしまった。
「ねえ、その化け物に弾を当てられるチャンスは一回だ。だったらさ、さっきの砲撃してきたところに落としてやったらどうだろう。三十度ほど方向をずらすだけでもダグド領を襲う予定らしき団体様に落とせるのではないかな?」
アルバートルとティターヌはフフッと笑いあうと互いにタイミングと角度を測り直し始め、そして、彼等は連動するようにしてレールキャノンを発射させた。
ティターヌの撃った弾はレヴィアタンの横面を殴るようにして突き刺さって方角を変えさせ、その追い打ちをかけるようにしてアルバートルの弾がレヴィアタンの横腹に斜めに刺さった。
ありがたいことに魚独特の脂肪によってレールキャノンの弾は包まれて貫通どころかレヴィアタンに突き刺さったままだが、レールキャノンの弾の運動エネルギーが消えていない状態ともなった。
オーバーキルな攻撃で即死となったレヴィアタンは、殺せない運動エネルギーの推進力に従って俺達に投石してきた兵隊の群れに落ちた。
ずずんと大陸を揺らすほどの重たい音に、俺達は取りあえず一勝は上げたらしいと笑い声をたてた。
レヴィアタンが生息する海辺で新ダグド領を建設する愚の骨頂を、今は笑い声でも立てて忘れ去ってしまいたいではないか!
本当にどうするつもりだ、アルバートルよ。




