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転生先が物語分岐の中ボスという微妙な立ち位置だった  作者: 蔵前
春が来れば虫がそこらじゅうで湧いて溢れる
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深夜の秘密会議

ここまでのあらすじ

シラミ事件やらトカゲ事件やらでわちゃわちゃしていたが、ダグド領は今日も平和。

シロロが来てから一年は経つのか。(by ダグド)

 戦争にも季節があり、冬は戦争など起こすものでは無いはずだった。

 それなのにカルタゴのハンニバルは冬に古代ローマを攻め込み、ローマ人の常識を打ち破り恐怖に落とした。

 彼は現代でも用兵の天才であったと言われている。


 いや、間違いなく天才だろう。


 戦車も無い古代だからこそ象という巨大な生物を使役したのはわかるが、寒さに弱く怒らせれば地上最強の草食動物である象さんを冬の険しいアルプス山脈越えまでして見せたのだ。

 象を冬の山越えさせる方法など、現代でも解明できない程の偉業でもあるのだ。


 さて、俺が過去の英雄のことを考えているのは、今は雪解けも終わった春であり、春は種まきや苗を植えたりという大事な時期であるとすれば民を徴用できないとも考えられるはずの季節に戦争の火種が起きたからだ。

 六月の花嫁が幸せになれると古来から推奨されてきたのは畑仕事から手が空く季節という事でもあり、通常は四月五月などは戦争を避けようとすると考えても良い時期だからだ。


 しかし、ガルバントリウムの聖イグナンテス教皇様が四月一日に世界に向けて御触れを出した。

 世界を破滅に導く黒竜ダグドへの討伐宣言だ。


 これにより宗教国家連合ガルバントリウムに名を連ねている諸外国が一斉蜂起し、また、これらの国々との契約関係にある大陸通商協定連盟が同調した。

 世界は小さなダグド領にこれから一斉に襲いかかる。


「で、どうしますか?」


 深夜にアルバートルに呼び出されて見張り台に来てみれば、以上のような世界情勢を彼の百鬼眼システムで見た映像を交えて世界地図で説明してくれた、という事だ。

 俺は彼の説明を聞きながら、これは前世の俺と友人が考えていた本来のゲーム上のイベントであり、本来はイグナンテスのお言葉の魔王だった部分を黒竜ダグドに書き換えただけなのだと大陸地図を見ながらぼんやりと思い出していた。


 ネットゲームでよくある、何月何日にユーザーの全員集合で参加要請!みんなで魔王討伐戦に参加しよう!という新規客寄せイベントクエストだ。


 魔王フィールドに立ち入ったことも無い低レベルキャラクター持ちの新規加入者に対して数百円の課金を請求し、課金さえすれば上級レベルのキャラクターたちと魔王討伐を探検でき、尚且つ課金して良かったと思えるお宝アイテムも手に入る、という企画だった。


 俺が前世で死なないままゲームを配信していれば。


「うーん皮肉だな。」


「何がです?」


「いや、課金してるんだろ。」


「課金、ですか?え?どういう意味です?」


 俺は口元を押さえた。


「あ、ごめん忘れてくれ。寝起きだから頭が回っていないだけだよ。俺はさ、この討伐に金を教会に供出した上に死に戦に参加して死ぬって、何がしたいのかなって、考えちゃっただけだから気にしないで。」


 アルバートルは俺の言葉にハハハと嬉しそうに笑い声をあげた。


「確かに皮肉ですね。ガルバントリウムの一員であれば神の名のもとに私財だけでなく自分の命までも捧げなければ天国にいけません。ですが結果は金を取られた上に命まで奪われるって、ハハ、確かに情けない生き方だ。彼等は純粋なのかもしれませんけれど、純粋な馬鹿がこんなに世界にいるかと思うと、あなたかシロロ様に世界征服を唆したくもありますね。」


 彼は再びモニターの画像を切り替えた。

 まだ、我々の領地は囲まれてはいないが、東西南北、一万から二万くらいの歩兵で固められた塊が五つほどになって我らが領地を目指しているようなのである。


「うわお。いつの間にこんなに兵をかき集めていたのやら。」


「本当に。ですが、彼等がここを完全包囲出来る位置にまで移動するには時間がひと月はあります。今から一個づつ俺達が潰して行きますよ。」


「いや、それには及ばないんじゃない?」


「囲まれたらお終いですよ。どんなにあなたやシロロ様が強大でも、人海戦術の前では結局は終焉を迎えてしまいます。軍隊アリの大軍には牛だって食われてしまうではないですか。」


「そうなんだけどさ。終結させて一斉排除の方が楽かなってね。でも、ああ、人死は少ない方が良いからね、やっぱり君達に頼もうか。」


「では、どこを狙いますか?」


 俺は一か所を指し示した。

 大陸通商協定連盟の本拠地である、テトゥラステス。


 ダグド領を富士山とすればテトゥラステスは大阪の辺りとなる。

 距離的にも方角的にもそんな感じだ。

 ゲーム上ではユーザーを助ける大事な要所を維持する組合であったにもかかわらず、この世界では金という財物に群がりしがみ付こうとするだけの組織に変わっていて、俺をがっかりさせた奴らである。


 まさに俺と友人が名付けた都市名テトゥラステス、ラテン語で「四つ足のようなもの」という意味のそのままに通商は獣のような貪欲さしかなもたない。


「とりあえず彼らにガルバントリウムと共倒れする意思があるのか確認してくれ。そんな覚悟を持っていたのならば、情けとして、最初に火の海にしてしまおう。」


 この五つの大軍への補給は全て大陸通商協定連盟が取り持っている筈だ。

 テトゥラステスへの攻撃と陥落はその補給線を一時に全部断つ事と同じだ。


「簡単に答えを出すなんて、あなたは世界征服も考えていたのですね。」


「だってさぁ、攻撃は最大の防御って言うじゃない?では、君だったらどこを狙っていた?」


 彼はにこりと笑いながら俺の考え付かなかった場所を指さした。

 そこはダグド領。


 神を模した石膏像に色付けしたら動き出したような神々しい男。

 小麦色に焼けた肌にプラチナブロンドの輝ける髪、そして海よりも青い宝石のような瞳を輝かせた男は、俺達の領土にこそ最初の一撃をかませと、そこだけ人間臭い人生が見える指先で示したのである。


 彼の指には銃や剣を握って出来たたこで固くなった部分がいくつもある。

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