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楽園にも未来がある

「いいえ。アルバートルを揶揄うのが楽しいだけ。彼は人がいいから。」


 俺はリリアナの物言いに吹き出していた。


「ハハハ、そうだね。彼はなんだかんだ言って、あのヤクルスを物凄く可愛がっていたものね。」


「うふふ。胸に貼り付いちゃったときは、ダグド様以上に情けない声で悲鳴をあげましたのよ。」


「ああ、その悲鳴、俺も聞きたかったよ。」


「まあ、ダグド様も意地悪ね。」


「君のお父さんだもの。」


「あら、ダグド様は私には近所の素敵なお兄さんですわよ。」


 俺はアルバートルがあげただろう悲鳴以上の情けない悲鳴を上げており、悪戯好きのリリアナをさらに笑わせた。


「ああ、君を笑わせられて嬉しいよ。俺は誰の悲しみも言ってもらえなければわからない鈍感な馬鹿男だからね。」


「鈍感何て。あなたは私達よりも純粋で優しすぎるだけですわ。それで、そう、わたくしは誰かを揶揄って無理矢理笑いたいくらいに、この世界が辛くて堪らないだけなんです。どうして未来があるのかしら。私はどうして未来が見えるのかしら。」


「君は前にも言っていたね。この世界が壊れてシロロが魔王様になってしまう未来が見えたって。」


「ええ。全員が死んでしまっても、あの子は一人ぼっちで生きなきゃいけない未来よ。可哀想で、とっても可哀想で。あの子は魔王になるのをやめたから最初に見えた時よりもその未来は日々ぼんやりしていくけれども、完全には消えないの。」


「完全に消えないのか。そうか、そして、そんな未来が見えるという事は君も生き残っているって事なのかな。それで辛いのかな?」


 俺の肩からリリアの頭が持ち上げられ、彼女は俺を希望を見た様な目で見つめていた。


「いいえ、そう考えたことは。そうですわ。死んでいたら見えないはずの見えないはずの未来ですわね。ああ、私は生き残っているかもしれない。もしかしたら、他の人達も。」


「そして、未来がボンヤリしてきたのだとしたら、俺達は何とか出来るかもしれない。人よりも長い長い寿命を持っているのだから。」


「ああ、そうね。長い長い寿命。その長い寿命が嫌だからと、わたくしは不幸な未来を見てしまうのかもしれないわね。皆と終わりにしたいって。」


「――リリアナ。君が竜族でうれしいよ。俺とシロロだけしかいない未来はひとまず回避された。」


 彼女は俺に嬉しそうに微笑んだが、彼女は子供達が歓声をあげる様子へと再び顔を向けた。

 両目には羨望を滲ませたせつなそうな表情で。

 俺もアルバートルが死んでしまった世界は受け入れられないだろう。


 この幸せな時間が数十年も続いた後ならば、尚更に。

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