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とりあえずの報連相会

 エンプーサはすぐにしゅううと小さくなって元通りの子供の姿に戻ったが、俺とアルバートルを心胆寒からしめる目的だったならば完全に達成している。


 俺は今朝がたアルバートルから告白を聞いていた。

 彼が言わなくてもいいのに夢の内容もちょこっと俺に語った、というだけの話であるが、彼は夢の中で最高の女に出会ったと言っていたのだ。

 俺は男同士の汚れた話はダイニングにはふさわしくないと考え、アルバートルの腕を引くやアルバートルの部屋へと彼を連れ込んだ。


 これは絶対に確かめねばならない問題だ。


 ネオテニーとは、外見は子供のまま成熟してしまうという現象であり、つまり、子供の姿だろうが性成熟はしている、という状態であるのだ。

 ネオテニーをわかりやすく想像するならば、ブタ、が一番いいだろう。

 彼等は幼獣の姿のまま巨大化し、ぼんぼんと繁殖していけるではないか。

 よって、夢うつつ状態のアルバートルがエンプーサと何かしてしまっていたならば、エンプーサは普通に繁殖しちゃうかも、という問題だ。

 彼女達が増えるためのデミヒューマンの卵が必要かもしれないが、彼女達の主食が人間や生き物の生肉であるならば、彼女達の繁殖は人間の生活の脅威をも生み出すというものなのである。


「ねえ、現実?やっちゃってたの?で、君はノーラが好みだったの?」


「やめてください。そんなやり手ババアみたいな口調で俺を責めないでください。俺は夢想家かもしれませんが、経験は豊富だし、夢精はしないお年頃です。だから、多分、やっていないと俺は断言出来て、大丈夫、かな、と。」


「ぜんぜん断言出来てないじゃ無いの。」


 アルバートルはぎゅうと両目を瞑って数秒ほど今朝の出来事を反復したようだが、目を開けた時は閉じる前と変わらない不安そうな目の色だったが、それでも彼は断言した。


「夢の中以外やってません。」

 俺はこの問題は先送りすることにした。


「で、君はノーラが好みなの?」


「え、あなたが興味あるのはそこ、ですか?そっちの方ですか?単なる助平な親父ですか?」


「普通に心配症な親父だよ。大丈夫なんでしょうね、君は。」

「信用がないって、悲しいですね。」


「いや、冗談じゃ無くさ。君の好みがノーラだったとしたら、寝ぼけている所にノーラの完全な姿をしたエンプーサが君に迫って来たのなら、君は間違えてって事がありえるでしょう。事が終われば喰われるんだよ。子供の姿だからと軽く見ているかもしれないけどね、あれは人食いの魔物でしょう。君を心配するのは当たり前じゃないの。嫌だよ、朝起きたらベッドに君の骨だけって情景は。」


「ハハハ。いいな、凄い間抜けな死にざまで。俺はちょっとそれを目指したくなりましたよ。ただし、百歳超えたぐらいにね。では、別の心配もしましょう。他のヤクルスには寄生生物がいるのかいないのか。」


「見分けられるのか?」


「ええ。今更ですけれど、俺のヤクルスとノーラの背中のヤクルスは中身が違うって見てわかりましたから。ノーラのヤクルスには骨格が見えますが、俺のヤクルスにはそれが全く見えなかったのですよ。」


「ええと、君は体の内部も見えるんだ。」


 彼は鼻で笑って見せた。

 自慢するようではなく、自嘲するように。


「内部、いいえ、見えるのは骨、ですね。埋められた赤ん坊の骨を捜した事もありますから、ええ、骨については一家言もってますよ。」


「――見つけることはできたのか?」


「ええ。母親と一緒に埋め直してあげましたよ。教会の教えだけだったあいつは教会の敷地外に埋められて納得できないと思いますがね、俺を愛していた、俺の子供を育てたかったと書き残すならば、俺の子供と一緒に埋めてやるのだから我慢しろってね。俺は酷い男ですから。」


 はうっ。


 アルバートルの告白に息をのむ声が重なり、俺達はゆっくりと戸口を見返した。


 猫の目を持った金色に輝く美女が戸口を覗いていたのだ。

 太陽の元ではピンクに輝く金髪は、屋内ではアンティックゴールドに輝く。

 美術品のような容姿の彼女は、感情を前面に出した顔を俺達に向けて、そして、立ち聞きしてごめんなさい、と、言葉全部に濁点が付いたような喋り方をして走り去って行った。


「――とりあえず、リリアナのヤクルス全部を確認するか。」

「アリッサを俺が追わなくてもいいのですか?」

「アリッサが立ち聞きしていると知っていたから、君は子供の話を持ち出したのでしょう。」

「ええ。あの子は優しい子ですからね。俺が爛れた男だと知った方が良い。」


 俺の目の前で戦闘が出来る様に着替えだした男の背中を見つめながら、経験豊富な男がこれでアリッサを振り払えると考えているのかと溜息をついた。


「明日からもっとアリッサの攻勢があるぞ。」

「アリッサの野菜料理は美味しいですよね。あの子は猫みたいで可愛らしいし。」


「君は!本当に爛れていやがる。」


 アルバートルは嬉しそうにあはははと笑い、俺は準備の整った彼を連れてリリアナの温室へと瞬間移動をした。

 久しぶりに彼は俺の軍服を着てくれており、それだけで彼の覚悟も見えたと俺はどこまでも彼に付き合うつもりでいた。



 彼は彼が育ててしまったエンプーサも、事の次第では殺す覚悟だ。

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