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朝日の中で浮かび上がる陶器のような白い肌、という悪夢

 アルバートルは夢を見ない。

 彼はかってそう決めていた。


 彼が見る夢などろくなものしかないので、夢占いなどの材料にもしたくは無いし、せっかくの翌日を台無しな気持ちにもしたくはない。

 よって彼は酒を煽って気絶するように寝入るか、夢など見ない浅い微睡みだけで体の休息だけを取るようにしていたのである。


 ダグド領に来るまでは。


 ダグド領を守る城壁のお陰か、今の彼は安心という催眠剤によって夢を見ない位にぐっすりと熟睡する事も出来る上に、見る夢がくだらないほのぼのしたものが多くなっているので、寝るという行為に気を使わなくなっていた。


「単なるだらけの言い訳ですけどね。」


「いいよ。君がここにきて楽になったって言ってくれるのはうれしいよ。で、先があるのでしょう。」


 アルバートルは先ほどとは打って変わって、凄い悪夢を見たという表情をした。

 彼の今朝の目覚めは俺を呼び出すほどに最悪だったのである。



 彼は寝すぎたと、体が重いと自分を自嘲しながら布団の中で体を伸ばし、夢の中の女の身体は最高だったと上半身を持ち上げた。

 そんな彼は一瞬で再び布団にもぐり直した。

 寒かったからではなく、彼ほどの男でありながら現実に対処できなかったのだ。

 夢の中の女の裸体に関しては夢の中であったとの確実な根拠もあり、彼は昨夜から今朝にかけて不埒な行いはしていないと断言できる。

 では、彼の布団の上で転がっている全裸の少女は一体何なのか。



「いやー。俺は驚きですよ。俺のベイビーちゃんが脱皮して完全な人型になっちゃっているなんてね。シロロ様も、あれ?おっかしいなあって、首を傾げただけでしたし、やっぱりドリアードが産んだ卵はおかしな成長変化をするのでしょうかね。」


 俺はアルバートルの言葉に、俺よりも先に迎賓館に呼び出されてアルバートルに貰った玩具でアルバートルの部屋で延々と遊んでいる子供を見返して、それからじっくりとアルバートルを彼が心地が悪くなるくらいに見つめた。


 アルバートルは殆ど寝起きという格好で、裸に慌てて浴衣だけは羽織ったという格好で彼のベッドに座っており、俺は部屋の書き物机の椅子を引っ張って来てそこに座っている。

 ベッドのサイドテーブルにはそんなしどけない格好で台所に行き来したアルバートルによる茶と菓子が、彼の混乱を現わすかのように雑然と置いてある。


 さて、こんな環境の中で一人楽しそうにしているシロロが遊んでいるのは、俺が迎賓館に隠しておいた綿あめ製造機だ。

 絶対にシロロが無意味に綿あめを作って遊ぶと見越して、俺が、迎賓館のクローゼットに隠していた一品であるのにこの男は!という目線だが、何事も無いような顔をしているが実は動揺しているなとアルバートルを見て取れただけだった。


 彼が俺に微笑みながら取り上げたお茶のカップは、彼が俺にどうぞと差し出したカップの方だったのである。


「俺のお茶はどこに行った?」


「え?あ……すいません。もう一度淹れ直して!」

「いいよ。君も動揺するんだね。」


 俺はアルバートルを動揺させているそのものを見つめた。

 アルバートルの座る真後ろにちょこんと座っている生き物だ。

 慌てたアルバートルによって彼のシャツを着せつけられている彼女は、俺の視線を受け止めたが、何の感情も交えずにまじまじと俺を見つめ返すだけだ。

 彼女は白い肌に真っ黒な瞳、そして、緑色の髪をしている十歳にも満たない子供の姿をしている。

 そして、彼女の陶器のような白い肌は陶器という表現通りのつるっとした質感をしており、もとが蛇という爬虫類族だからなのかとも思うが、俺には虫の光沢にも見えて背中をぞっとさせるというものだった。


 緑色の髪は油膜のような光沢をも持っており、やはりトカゲの緑というよりも俺はハンミョウの緑の方を思い浮かべていた。

 光の加減で緑であるはずが黒かったり赤かったりと色合いが変化するのは、まさに甲虫類の輝きでしかないと言えよう。

 俺の頭の中では、目の前の美しい少女がカメレオンやイグアナなどのトカゲ、あるいはペットショップで見かけたことのある色とりどりのコーンスネークさえも結びつかないのである。


「なんか、この子は虫の美しさだよね。蛇やトカゲじゃない。」


「あ、そうか!」


 俺の言葉に綿あめ製造機は自分の頭をぱしりと叩いた。

 彼は既に店が開けるぐらいに色とりどりの綿あめを製造しており、彼の機械の傍にはその行為を推進させる色とりどりの飴玉が入った瓶が鎮座していた。

 彼が瓶の飴を全て使い切る使命感で一杯だと見て取った俺は、彼のその使命感をどうにかするよりもその飴の瓶を与えた奴を縛り首にしてやりたい気持ちの方が先に立った。


「シロロ、その飴の瓶は誰から貰った。」

「ほえ?ダグド様?」


「ああ、ほらほら!シロロ様のご意見を聞きましょうよ!」


「お前か!そして自分でも綿あめ機で遊んでいたんだな。あの色とりどりの大量の飴玉の収集を見るに!」


「俺は子供時代を失った可哀想な男なんですよ。いいじゃないですか。ほら、可愛い魔王様のお話を聞きましょう。さあ、シロロ様!お願いします!」


 俺達に振り返った魔王様はアルバートルのベイビーに起きた出来事を語った。

 俺はシロロには綿あめを延々と作らせておくべきだったと、聞くんじゃなかったと後悔しかない。


 アルバートルのヤクルスは、寄生バチに寄生された芋虫の末路を辿ったというだけの話なのだ。

 蛹となった後に羽化して出てくるのは蝶々ではない、寄生バチの成虫だ。


 俺達の目の前で無表情に座っているだけの生き物はエンプーサというサキュバスの一種であり、肉食の彼等はデミヒューマンの卵に卵を産み付ける習性をもっているのだという。


「はい、ダグド様の言う通りの虫ですね。それで、エンプーサには雄がいませんから、人間の男と交尾して、その後に食べちゃいます。」

「ああ!俺のベイビーちゃんが!」


 アルバートルは本気でヤクルスを可愛がっていたようだと、両手に顔を埋めて落ち込んでしまった彼を慰めようと手を伸ばした。


「って、お前!投げる気だな!エンプーサを俺に投げる気だな!君はこの領土の保安部隊長だろうが!」


「ああ!べいび-ちゃああん!」


 彼は泣いている風を装いながら部屋から逃げて行った。

 畜生。

 ろくでもない隊員しかいない隊の隊長こそろくでなしだって、俺は知っていたじゃないか!

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