それでいいの?
リリアナがのそのそと階段を降りたところで、なんと、洗濯物を抱えて戻ってきたノーラと彼女は対面する事となった。
洗濯室は屋敷ではなく城にあり、実は城の台所の向かいに洗濯室という大きな部屋がある。
娘六人と俺という大人数でも洗濯機は三台あれば間に合うと俺は思うのだが、仲が良いようで悪い彼女達は一人一台を俺に要求し、六台もの乾燥機能付きドラム型洗濯機を設置できる場所といえば石造りの城の一室という選択肢しかなかっただけだ。
その部屋は一見だろうがガン見だろうが、普通のコインランドリーにしか見えない衛生的な部屋であり、飲食禁止スペースでありながら守るわけ無い彼女達によってお茶をしながらの繕い部屋にもなっている。
また、勝手に人の洗濯機を使うとひどい目にあわされる魔の部屋でもあり、よって、臆病な俺は俺専用の洗濯機を俺の居住スペースの方に設置している。
ただし、俺の洗濯機は洗濯機能だけで乾燥機能は無い。
俺は全自動ドラム式よりも二層式洗濯機に拘るのだ。
見張り台にあるのも同じ二層式という洗濯機能だけのものだ。
ノーラが洗い物を抱えて戻って来たのは、ノーラの洗濯機ならば乾燥できるからと汚れ物を押し付けられ、いや、自分から受け取って来たのであろう。
彼女は甲斐甲斐しい位にカイユーの世話をしているのだ。
「あら、凄い量の洗いものね。それは全部カイユーのものなの?」
「まさか。カイユーは自分で自分の身の回りのことが出来る素敵な子よ。洗濯ものは会議室に干しているのですって。仕事も洗濯物の回収も忘れないからって。賢いでしょう。で、これはあの馬鹿大将に押し付けられたものなの。あいつは私の舅を気取っているのよ。ああ、もう!」
「嫌なら受け取らなければ良いじゃ無いの。」
「あいつはカイユーに影響力だけはあるじゃ無いの。恋路の邪魔をされたら困るじゃない。でも、ふふ、カイユーと結婚したら、ふん、私の天下よ。鬼嫁になって仕返ししてやるわ!」
迎賓館にも乾燥機付き洗濯機は設置してあっただろうとアルバートルの行為に腹を立てるよりも、ノーラの言い様の方が俺の心に響いて俺は柱の陰でぶるぶる震えて脅えていた。
どうしよう。
結婚式が終わった途端にイヴォアールが俺を虐めてきたら!
俺はなんてことをしてしまったんだ!
「で、すごい沢山いるのね。これ全部をあなたが世話をしているの?」
「ふふ。そう。欲しかったらあげるわよ。」
「え、本当?一か月可愛がったら巣立っちゃう渡り鳥の雛みたいな子達なのよね。シロちゃんから習性を聞いて面白いなって思っていたの。アルバートルの子は芸まで覚えて可愛いのよ。ええ!頂戴な。そうだ、カイユーのも貰っていい?二匹も貰っちゃうけど寂しくない?」
ノーラは適当に洗濯物をその場に置くと、べりっとリリアナからヤクルスを剥がして自分の背中に貼り付けた。
二匹目も同じようにして自分の背中にひょいと放り投げる様にして担ぐと、再び洗濯物を拾い上げて胸に抱いた。
「ありがとう。リリアナ。良い子で可愛いわね、この子たちは。」
「あらそう?貰っていただけてわたくしこそ嬉しいばかりよ、ありがとう。あなたに形のあるお礼がしたいくらい。」
「あ、じゃあ、一緒に洗濯してくれる?アルバートルのだけじゃなくて、迎賓館で使っているシーツも全部持ってきたのよ。あいつらシーツぐらい偶には替えなさいよって。見張り台はフェールがちゃんとシーツの交換もしているのに。」
「ふふ。よろしくてよ。」
「あ、私も洗うの手伝うから!」
俺はアリッサの部屋からアリッサがすでに飛び出ていて、俺のように柱の影からノーラ達を伺っていたことに今更に気が付いた。
アリッサは声を上げると言葉通りに階段を走り降りていき、そのままノーラ達に合流するとそれぞれがヤクルスを適当に体にぶら下げた状態でのそのそと洗濯室へと歩いて行った。
俺は今日半日の自分の行動が無意味だったような気になりながら、敗残者のような気持ちでのそのそと階段を降りるしかなった。
「あなた?」
階下にはエレノーラが俺と同じような思案顔をして俺を待っていた。
「あなた。アリッサは大丈夫、みたいね。」
「うん。なんか、だいじょうぶよりも、もうどうでもいい気がしてきた。」
「そうね。それよりも、兄がノーラに傾倒しすぎているようで不安だわ。」
「大丈夫でしょう。ノーラは俺に似ているってみんなに言われるよ。」
「まあ。じゃあ大丈夫ね。」
どうして俺に似ていて大丈夫なのだろうかと、自分で大丈夫と言っておいて俺は不安になっていた。
だって俺は適当に大丈夫って言っただけなのだ。
つまり、適当でいいのか?




